染谷正弘氏による連載コラム。住まいのお役立ち情報や話題の街の文化・周辺環境などをご紹介します。
「池田山」、「島津山」といえば、東京でも有数の山の手、高級住宅街としてよく知られている。その最寄り駅が五反田駅。でも、この駅は、その印象が薄い。むしろ目黒川沿いの下町のイメージの方が強い。この駅のもつイメージから、五反田という街本来の姿が見えてこない。なぜだろう。
じつは、五反田駅は品川区だが、ビックターミナル品川駅は港区にあって、しかもなんと隣の目黒駅は目黒区ではなく品川区にある。いずれの駅も利用客数はとても多いけど、住人以外このことを知る人は案外少ないだろう。
白金、高輪といった都心の山の手文化圏の港区と、東横沿線文化圏の目黒区にちょうどサンドイッチされるように品川区はあり、その地名と駅名の変則性が品川区独自の文化圏イメージを希薄にしているのではないだろうか。それを象徴しているのが、五反田駅なのだろう。
五反田はいくつもの顔をもつ街、そう考えた方がこの街の楽しさがよくわかるような気がする。
実際、五反田駅周辺は、いろいろな顔をもっている。まず、駅自体の成り立ちがおもしろい。五反田駅は、東急池上線、JR山手線、地下鉄・都営浅草線の3線が折り重なるように乗り入れていて、それぞれのプラットフォームが地下と中空で立体交差している。

特に、池上線五反田駅のプラットフォームは、東急デパートの4階にあって異常に高い位置にある。それは、その昔、池上線には山手線を乗り越えて白金、高輪方面へと延伸計画があり、そのためにまるでモノレールのようにあんなに高い高架駅になったのだという。
その足元の裏路地には、おいしいラーメン屋もあれば猥雑な飲食店が固まってあったり、かと思えばイタリアの建築家マリオ・ベリーニ設計のスタイリッシュな「東京デザインセンター」(写真)が桜田通りに面して建ち、駅前のシンボルになっている。
「東京デザインセンター」は、住宅や家具デザインのテーマパークと言っていいだろう。建築自体がダイナミックにデザインされていて、おしゃれな家具ショップはもちろん、カフェやレストラン、デザイン専門の本屋もあって、建築デザインに関するあらゆる情報を入手できる。
「東京デザインセンター」の背後の小高い丘が、「池田山」エリア。住所は、東五反田になる。皇后陛下・美智子さまのご実家、旧正田邸がこの街の一画にあり、その瀟洒な西洋館を保存するか解体するかで話題になったことは記憶に新しい。


現在、旧正田邸跡地は、「ねむの木の庭」という美智子さまのメモリアルパークになっていて、美智子さまゆかりの樹木や草花が愛らしく植えられていている(写真)。美智子さまが高校生の頃につくられた詩「ねむの木の子守唄」が、この公園の名の由来だという。
この愛らしいメモリアルパークを過ぎて、「池田山」をさらに奥に進むと、鬱蒼とした緑とともに池田山公園(写真)が現れる。このエリアの地名の由来となった岡山藩主・池田家の下屋敷の庭の一部がそのまま残された公園で、江戸時代の豪勢な庭園をしのぶことができる。
この池泉回遊式庭園は、地形を生かした起伏に富むすり鉢状になっていて、上の東屋から庭全体をめでる「のぞき池方式」ともいわれ、とてもユニークで興味深い。すり鉢状の庭の底には石橋が架けられたひょうたん池があり、自然の湧き水が流れ、錦鯉が悠々と泳いでいる。山の手、高級住宅街にふさわしい公園といえよう。
皇居の桜田門から延びる桜田通りは、JR山手線・五反田駅を貫通するかのように南北に直行して走っている。その桜田通りは、山手線の内側で東五反田を東西に分断し、目黒寄りの西側が「池田山」、高輪寄りの東側が「島津山」だ。「島津山」を横目に通称ソニー通りを東に歩けばすぐ「御殿山」、そして品川駅。小高い丘が連なるこのエリアの格式の高さを、その地形からも地名からもしのぶことができる。
桜田通りをそのまままっすぐ進んで山手線の外側に出れば、約300店舗もの卸売り店が集まる「東京卸売りセンター(TOC)」にぶつかる。そのうち約100店舗は小売もしていて、いつも大賑わい。このビルもまるごと物販のテーマパークといっていい。その西五反田エリアには8000年も前から人は住んでいて、その頃(縄文時代早期)の集落跡が桐ヶ谷あたりで発見されている。
五反田エリアを実際に歩いてみると、じつに奥深く、楽しい。
染谷正弘(そめや・まさひろ)