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コラム

染谷正弘氏による連載コラム。住まいのお役立ち情報や話題の街の文化・周辺環境などをご紹介します。

街の記憶:金町界隈(前編)・・・美しい水景のある街

葛飾区金町界隈が、いま大きく変ろうとしている。数年後には、金町界隈は大変身していて、首都圏でも注目の街となるに違いない。

都心から茨城方面への大動脈JR常磐線の金町駅、その駅前南口商店街の一画が再開発され、地上41階建て、高さ138mのタワーマンションがいま建設途中にある。その低層部にはショッピングセンター、オフィス、公共駐車場、葛飾区立図書館も併設されるらしい。同時に、周辺道路や街並みも整備されて金町駅前イメージは一新され、タワーマンションはこの界隈のシンボルマークとなるだろう。2009年(平成21)夏に竣工オープン予定だという。

また、金町駅の北西、中川近くに位置する三菱製紙工場跡地を中心になんと約33haもの広大な大規模再開発計画も着々と進んでいると聞く。住宅はもちろん、アミューズメント・文化・スポーツ等の施設群を含む一大ショッピングセンター、さらに医療や福祉・生活支援・文化交流施設の建設、隣接する区立公園の再整備等々、全く新しい街がまるごとできるらしい。おそらく、21世紀初頭のエポックメーキングな街づくりとなるだろう。

そんな大変身中の金町界隈は、もともとどんな街だったのだろう。豊かな自然と歴史ある魅力あふれる街であることは、案外知られていない。僕自身、今回あらためて金町界隈を散策し、新たな発見がたくさんあった。是非、ご紹介してみたい。

金町界隈は、いろいろな意味において「都心」と「郊外」のちょうど中間に位置している。そして、JR金町駅は、常磐線というよりむしろ都心の地下を走り抜ける千代田線の沿線といった方が、イメージ的には合っているように思う。

実際、JR金町駅から都心に向うと、常磐線は綾瀬駅でそのまま千代田線となって地下鉄に入り、山手線と接続する西日暮里まで約15分、大手町まで約25分、その先には日比谷、赤坂、表参道、さらに小田急小田原線に接続し再び地上に出て神奈川方面まで一気につながっている。

また、JR金町駅には京成金町線の始発駅・京成金町駅が隣接していて、次の駅がフウテンの寅さんでよく知られる柴又帝釈天のある柴又駅だ。この沿線エリアは、京成線本線を軸に京成各線が接続し合い、どこかローカルな雰囲気を漂わす鉄道網が都心のお膝元下町に縦横無尽に張り巡らされているといった感がある。

いずれにしろ、通勤、通学の最寄り駅として、またどこにアクセスするにも、金町駅は思いのほかフットワークがいい。その金町駅を中心にした金町界隈、つまり金町文化圏とは、具体的にどの辺りをいうのだろう。地理的にはとても明快で、その四方を東は江戸川、西は中川、南は柴又帝釈天、北は水元公園に囲まれたエリア、そう考えていい。

都心でも郊外でも田園でもなく、ましてや人里離れた山奥でもない立地で、これほどに美しい水景をこれまで僕は見たことがない、そんな体験をできるのが金町文化圏の北端に位置する水元公園だ(写真)。実に広大な公園で、その広さは約81haもあり、水と緑と野鳥の楽園となっている。そして、バードウォッチング、釣り、冒険広場、水生植物園、メタセコイアの森等々、あらゆるリクレーション施設も整備されている。

この辺りは、もともと豊かな水郷地帯だった。水元公園に沿うように豊かな水をたたえ、その水景を形づくっているのが、小合溜(こあいだめ)と呼ばれる雨水調整池で、江戸時代につくられたものだという。園内の水景は、まさにその名残(なごり)であり、水郷の原風景そのものである。

小合溜は、豪雨時には雨水をそこに溜めて川の氾濫を防ぎ、旱魃時にはそこに溜めておいた雨水を水田に注ぎ込むという、雨水の制御と有効利用の役割を果してきた。それは、大自然の恵みと災いに向き合う先人たちの知恵と工夫の結晶そのものである。その水景は、だから美しい。そう思えてならない。昨今の地球環境問題を考えるとき、先人たちによって見事にランドスケープデザインされたこの水景に学ぶべきことは多い。

小合溜の水量調整をするには、水を堰き止め、時に放流するダムのような水門が必要となる。その河川の水位調整機能を持つ水門を、正しくは閘門(こうもん)という。その閘門が、いまは記念碑を兼ねた橋となって水元公園の最西端に残されている。1910年(明治43)に建造されたこの「閘門橋」は、東京に現存する唯一のレンガ造のアーチ橋だという(写真)。橋のブロンズ像は、閘門に堰板を差し込む作業姿らしい。

その水元公園の近くの水元小学校の一画に、いまでは珍しいノスタルジックな大正時代の木造校舎が復元されて「葛飾区教育資料館」(写真)として残されている。東京23区内で最も古い木造校舎だという。当時使われていた勉強道具が展示され、先生や生徒のロウ人形で当時の授業風景もリアルに再現されていて、この界隈がとても教育熱心だったことが伺える。

閘門橋のブロンズ像も、教育資料館のロウ人形も、その姿がどこかシュール(超現実的)で、僕には怖いような微笑ましいような不思議な感がしてならなかった。でも、この木造校舎、凛として古典主義建築様式の趣があり、とてもすばらしい建築デザインだと思う。

そのすぐ近くのお寺「業平山南蔵院」には、もっとシュールなお地蔵さんが祀られておられる。「しばられ地蔵」といい、まるでミイラのように縄でぐるぐる巻きにされているのだ(写真)。その由来は、江戸時代、このお地蔵さんがあの大岡裁きで有名な大岡越前守の捕り物に一役かったところにあるという。以来、このお地蔵様を荒縄で縛ってお祈りするらしいのだが、厄除け、縁結びなどたいへんなご利益があるらしい。

葛飾区金町界隈、豊饒な江戸文化を下地に今があることが伺えて興味はつきない。まだまだご紹介したい歴史文化がたくさんある。

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染谷正弘染谷正弘(そめや・まさひろ)
建築家、住環境研究家
(株)デザインショップ・アーキテクツ代表、文化女子大学講師戸建住宅や集合住宅の設計を中心に、住まいづくり、街づくりにたずさわる。
最近は、「コミュニティをデザインする」という発想のもと、大規模集合住宅のデザイン・プロデュースを数多く手がける。
(株)デザインショップ・アーキテクツ:http://www.ds-architects.co.jp