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コラム染谷正弘氏による連載コラム。住まいのお役立ち情報や話題の街の文化・周辺環境などをご紹介します。 街の記憶:原宿・表参道・・・参道の「都市力」日本人は、どうしてこんなに「ブランド」好きなのだろう。そして、原宿・表参道は、どうして世界中の有名ブランドショップが建ち並ぶ日本でも有数のめぬき通りとなったのだろう。 日本人の「ブランド」好きは、現代日本の豊かさの象徴だったり、個人より集団の価値観を優先してしまう『みんなで渡れば怖くない』的な民族性だったりと、諸説あろう。でも、原宿・表参道には、参道という伝統的な魅力ある都市力が備わっていて、そうなるべくしてなったように思えてならない。 昔から、門前町には神社やお寺に参詣する参道が必ずあり、そこは名物のみやげ物屋や飲食店が建ち並び、庶民の憩いの場にもなっていた。たとえば、浅草の仲見世通りや葛飾柴又帝釈天・参道など、このコラムでもご紹介したとおりである。でも、ケヤキ並木が美しい原宿・表参道は、伝統的な参道とはその景観の趣が随分と違う。どこかヨーロッパの街路の香りがする。 明治天皇と皇后ご夫妻が祭られている明治神宮は、1920年(大正9)に創建されている。その際に参道のひとつとして整備されたのが、この表参道だ。「うつせみの代々木の里はしづかにて都のほかのここちこそすれ」という明治天皇が詠まれた歌があり、それを偲んでこの地が選定されたという。それまでこの辺りは、武蔵野の雑木林を背景に山手線の原宿駅がぽつんと建つ長閑な田園風景が広がっていたことだろう。 明治神宮の境内に鬱蒼とおい繁る樹木も、表参道のケヤキ並木も、このお社の創建時に新らしく植樹、造園されたものである。ただ、およそ200本からなるそのケヤキ並木は第二次世界大戦でほとんどが焼失している。現在のケヤキは戦後まもなく植樹された2代目であり、戦禍に生き延びた初代のものは10本ほどだという。この参道、いずれにしろ樹齢50年、60年以上のケヤキばかりが立ち並んでいるのだから、それは見事で美しいはずである。 表参道の景観が、日本の伝統的な参道というよりむしろ西欧都市の街路のような印象が強いのは、見事なケヤキ並木の存在はもちろんだが、近代的つまりは西欧的なその街路デザイン手法、さらにこの参道に本来的に備わっている「緩やかな坂」という地形によるところが大きいように思う。 まず、伝統的な参道に比べると、その道幅が随分と広い。当時の日本は、近代国家として世界の列強国に仲間入りし始めた頃であり、日本の威信を示す国家元首のパレードを想定して表参道はデザインされたのではないだろうか。また、明治神宮という近代日本創始者のシンボルへと導く参道とすべく、パリやローマの大都市にあるような都市軸を東京に実現しようとしたとも考えられる。低木が植えられた中央分離帯のある広い車道や、石畳の広い歩道は、そのなごりだろう。 青山通りから明治神宮へと一直線に結ぶ表参道は、起点となる青山通りから緩やかに下り始め、そのほぼ中央で直交する明治通りを境に、明治神宮に向かって緩やかに上り始める。歩きながら参道全体を見下ろしたり見上げたりと、その豊かなシークエンスを生むこの地形こそが、表参道を魅力ある都市空間に仕上げているといっていい。 表参道の街路空間の成り立ちは、パリの凱旋門とルーブル宮殿を一直線に結ぶあの緩やかな坂道シャンゼリゼ通りとよく似ている。明治神宮の参道を造営するにあたって、日本近代国家が新しい街路デザインを取り入れたとすれば、それはあながち偶然とはいえないだろう。そのスケールこそ違うにしろ表参道にもシャンゼリゼ通りにも、人をひきつける強い都市力を感じる。 表参道と明治通りの交差点角に、いまや伝説となった「原宿セントラルアパート」が建っていた。いま「GAP」が建っているあたりだ。1960年代から1970年代にかけて、ここは、カメラマン、コピーライター、ミュージシャン、グラフィックデザイナー、そして建築家も、あらゆるジャンルのクリエーター達の活動拠点となり、東京の最先端文化の情報発信基地となっていた。いまはごく普通のカタカナ職業も、彼らがその布石を打ち社会的認知させたといっていい。 そして、「原宿セントラルアパート」のクリエーター達の活躍こそが、表参道の都市力をパワーアップさせる原動力となり、表参道に「最先端文化発信都市」という魂を吹き込み、いまの原宿・表参道は出現したといっても過言ではない。 いま、表参道に行けば、ファッションも建築も、世界の最先端デザイン・シーンをまるごと体験できる。世界で活躍する日本のそうそうたる建築家達が、表参道に軒を並べるかのように世界の高級ブランドショップをデザインしている。少し列記してみよう。安藤忠雄(表参道プラザ)、青木淳(ヴィトン)、伊藤豊雄(トッズ)、妹島和代(ディオール)、丹下健三(モリハナエ)、それに黒川紀章、隈研吾もいる。 表参道は、いまや高級ブランドショップ街であるとともに、現代日本建築文化のメッカとなった。お洒落な建築のショーウィンドウ群の中は、世界中の素敵なものでいっぱいだ。世界の最先端デザインが、参道にあふれている。だから、いつもたくさんの人で賑わっていて、歩いているだけでも実に楽しい。それこそが、日本のいにしえよりの参道の参道たる由縁であり、参道の都市力である。 周辺物件
染谷正弘(そめや・まさひろ)建築家、住環境研究家 (株)デザインショップ・アーキテクツ代表、文化女子大学講師戸建住宅や集合住宅の設計を中心に、住まいづくり、街づくりにたずさわる。 最近は、「コミュニティをデザインする」という発想のもと、大規模集合住宅のデザイン・プロデュースを数多く手がける。 (株)デザインショップ・アーキテクツ:http://www.ds-architects.co.jp |