染谷正弘氏による連載コラム。住まいのお役立ち情報や話題の街の文化・周辺環境などをご紹介します。
先日、はじめて「日暮里・舎人ライナー」に乗った。プラットホームも車両もすべてが真新しくてすがすがしい。ウィークデーの昼下がりだったこともあり、車内は物見遊山気分のお年寄り達で結構賑わっていた。モノレールのように地上高く中空を走る車窓から見下ろす東京の下町や緑豊かな郊外の街の風景はとても新鮮で、遊園地の乗り物のようなこの新交通システムは実に楽しい。
今年3月31日に開業したばかりの「日暮里・舎人ライナー」は、「日暮里」駅から足立区北西部に位置する「見沼代親水公園」駅までの9.7kmを、全13駅、約20分で結ぶ小さな路線である。この新交通システムは5両編成で、定員は300人だという。
ここで、新交通システムについて少し勉強しておこう。「電車」と「バス」と「モノレール」を合体した近未来的な乗り物、新交通システムをまずはそうイメージしていい。無人の自動運転でガイドレールの上を走るのだが、車輪はゴムタイヤだ(写真)。そして、高さ約10mのコンクリート支柱に支えられて中空に浮かぶ高架軌道をモノレールのように走る。正式名称は、「軌条式中小量輸送システム (AGT:Automated Guideway Transit)」という。
新交通システムは、環境にも人の優しい乗り物といわれている。エネルギーは電気だから排気ガスを出さず、すべてがコンピュータ制御されていて無駄がない。また、既存道路の真上に建設された高架軌道はまるでバス専用の中空道路のようでもあり、その車両もプラットホームもユニバーサルデザインで設計されている。ちなみにユニバーサルデザインとは、お老人も子供も身障者も、もちろん健常者の誰もが便利に使えるデザインというほどの意味だ。確かに、中空を走ること以外は、その大きさも乗り心地もとてもヒューマンな感じがする。
さて、「日暮里・舎人ライナー」の舎人という地名である。僕は、実はこの新路線の開業で初めてこの街の名を知った。日本古代史に登場する渡来人の官職名とか、舎人親王という名から「舎人」という単語の記憶は脳裏の片隅にかすかにあって、どこか由緒ある古風な地名の付いた路線名だなというのが、僕の「日暮里・舎人ライナー」の第一印象である。
中央区の「采女(うねめ)橋」、足立区の「掃部(かもん)宿」、大田区の「雑色(ぞうしき)」、文京区の「雑司が谷」など、東京には古代の官職名を由来とする地名がいまも結構多い。「舎人」もそのひとつなのだろう。皇族の身辺世話係や牛車や馬車の口取りの役職を「舎人」と呼んでいたらしい。それが、いまの足立区舎人とどのような歴史的関係があったのかは不明である。
ただ、このエリアを流れる毛長川流域には、古代から多くの人が住んでいて、数多くの遺跡が発掘されている。そのひとつが舎人遺跡で、ここには足立区最古の古井戸跡があり、邪馬台国の頃の古代人の生活を偲ばせる土器がたくさん出土している。その最盛期は7世紀頃で、鍛冶工房もある大きな集落ができていたらしい。この「日暮里・舎人ライナー」の工事の際にも、古代の土器が出土していて、その一部が「見沼代親水公園」駅に展示されている(写真)。いずれにしろ、古代からこのエリアは、人が住まうには最適な環境だったのだろう。
また、「見沼代親水公園」駅のすぐ近くには、中世鎌倉時代に創建された「舎人氷川神社」があり、その社殿全面にほどこされた木彫レリーフが実にすばらしい。唐破風流れ造りの立派な屋根をもつこの社殿は、江戸末期1836年の建築で、柾目の総ケヤキ造りだという。その頃の舎人は、赤山街道の宿場町として、また野菜集散地の市場町としてもとても栄えていて、その繁栄の証がこの社殿である。ただ、その木彫レリーフの保護のために、いまこの社殿は金網で囲われていて、残念なことにその全貌を見ることはできない。
そうした舎人エリアの歴史・文化を育んだのは、やはり毛長川がもたらす自然の恵みだったろう。そのことを偲ばせてくれるのが、駅名にもなっている「見沼代親水公園」(写真)である。舎人緑道、毛長川緑道とともに、毛長川に添うようにこの公園はあり、かつては農業用水路だった。四季折々に美しい花を咲かせ、豊かな緑に覆われた小川の流れるこの細長い公園は、いまは閑静な住宅街に囲まれて豊かな住環境形成に大きく貢献している。
舎人エリアは、「日暮里・舎人ライナー」が開通するまで、バス便しかなく陸の孤島の観があった。この新路線は、「熊野前」駅で都電荒川線に、「西日暮里」駅でJRと千代田線に、日暮里ではさらに京成本線にも接続する。時間的に都心と一気につながったこの沿線界隈は、これから緑豊かな住宅地としてますます整備されていくことだろう。最先端技術を搭載した新交通システムが広大な「舎人公園」(写真)の真ん中を走り抜けていくとき、それはまるで緑の海を泳ぎ渡っているようでとても心地よい。
染谷正弘(そめや・まさひろ)