下町の駅前商店街といえば、戸越銀座。訪れたことはなくとも、その名を知るひとは多いだろう。「・・銀座」と名乗る商店街は、日本各地にあってその数は300ヶ所を超えるという。元祖中央区の銀座を別にして、全国に先駆け一番に銀座名を冠したのが、この戸越銀座商店街らしい。昭和2年オープンの歴史ある由緒正しい商店街なのだ。
戸越の商店街に銀座名が冠された由来は、関東大震災の復興工事で撤去された銀座の舗道用レンガがこの辺りの排水路に再利用されたことにあるという。当時、商店街の人々には、華やかな「花の銀座」にあやかりたいという強い思いがあったに違いない。
それに銀座は、江戸時代の江戸にあって、幕府の銀貨鋳造所がある特別なエリアだった。銀座という名が、お金を産む象徴となって、商売繁盛に縁起のいい名となっていったことは容易に想像できよう。日本全国の繁華街や商店街に銀座名が冠せられるようになったのもうなずける。縁起をかつぐことの大好きな日本人らしい命名だ。
山手線の五反田駅と京浜東北線の蒲田駅を結んでいるのが池上線。その池上線の五反田駅からふたつめに「戸越銀座駅」はある。小さな駅舎を出ると、池上線と直行して商店街は延々と1キロメートルも続く。ありとあらゆるもの何でもそろっているから、何でももっていけと言わんばかりに、多種多様大小の店舗がひしめき合い連なっている。僕は、思わずモロッコの迷宮都市フェズを連想してしまった。
でも、賑やかな商店街を横道に一歩ぬけると、すぐ閑静な住宅街がひろがる。それも迷宮都市フェズとよく似ている。その静かな住宅街の一画に、格式高い大名庭園の面影を残した「戸越公園」がある。その異種混合というか協演が、この戸越エリアの面白いところだろう。
肥後の国熊本藩細川家の下屋敷の庭園の一部が、いまの戸越公園になっている。江戸時代初期に造られたこの庭園は、東海道五十三次の風景を再現することをテーマにデザインされたらしい。滝、小川、湖を模した庭園をめでながら回遊するのが、大名庭園の特徴だ。その庭園形式を正しくは「池泉回遊式(ちせんかいゆうしき)」という。
大きな岩から流れ落ちる滝、竹矢来、池の汀(みぎわ)の曲線等々、大名庭園らしい豪放な雰囲気が漂う戸越公園を散歩していると、ちょっとした大名気分になってくる。あまり知られてはいないが、ここは、小石川後楽園、六義園、新宿御苑と並ぶ由緒正しい史跡公園なのだ。
ちなみに下屋敷とは大名の別邸のこと。正式な本宅は江戸の中心にあり、上屋敷という。細川家のこの下屋敷、通称「戸越屋敷」は、鷹狩りや雉狩りに使われた別荘だった。当時の戸越は、江戸のはずれもはずれにあり、旅人にとってちょうど江戸を越えた気分になる所だったらしい。それが、「戸越」の由来だともいわれている。
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