その昔、池袋は学園都市だった。いまの池袋からは想像もつかないだろう。西口メトロポリタンプラザの入り口に鉄道機関車の動輪が置かれた碑があり、ここに大きな鉄道教習学校があったことを伝えている。それはとても大きなキャンパスで、たくさんの鉄道マンを輩出したという。彼らこそ、まさに日本の近代を築いた人たちだろう。さらに、ここは成蹊学園発祥の地であったとも記されている。
また、西口公園、東京芸術劇場あたりには、いまの学芸大学の前身である豊島師範学校があった。教育者を育てる専門校だから、やはり日本の近代化を推進する多くの人材がそこから育っていったに違いない。でも、いまやその面影はまったくない。人気小説『池袋ウェストゲートパーク』(石田衣良)がTVドラマ化されて、いまの西口公園界隈はそのイメージの方が強くなっている。
『池袋ウェストゲートパーク』は、ストリートギャングの若者達が池袋を舞台に繰り広げる青春ミステリー小説だ。渋谷でも新宿でもない池袋のストリートを疾走する若者達の姿を通し、現代社会の一面が鋭く描かれている。西口公園界隈の主役は、今も昔も、同じ青春を生きる若者達であることに変わりはない。でも、「未来」を見つめる眼差しに、今と昔の若者達の間には随分と落差があるようだ。それが街の風景を変えているように思えてならない。
これらの学校は、どれもが明治末から大正時代にかけて創設されていて、その後大きく変遷を遂げていく。明治の初めに築地に開校した立教大学が、池袋に引っ越してきたのもこの頃だ。蔦のからまるチャペルがあるキャンパスは、西欧文明の薫りと未来への希望に満ち満ちていたことだろう。
自由学園も、大正デモクラシーの精神風土のなかで、その頃この地に誕生している。その校舎『明日館』は、近代建築の巨匠フランク・ロイド・ライトの設計で、現在重要文化財に指定されている。小さな住宅を偉大な建築へと昇華させる彼の建築デザイン手法は、いまも世界中から高い評価を得ている。
実はフランク・ロイド・ライトは、浮世絵のコレクターでもあり、日本の伝統芸術から大きな影響を受けている。だからであろう『明日館』は、その伸びやかなスケール感や直線的な装飾デザインが私達日本人の感性になじんでいて、とても居心地がよい。夏の期間は、毎週金曜にはビール付きで夜間見学できる。冷たいビールを飲みながら世界の名建築を堪能できるとは、なんて素敵なはからいだろう。
かつて池袋には、明日という「未来」を信じ勉学に励んだたくさんの若者達がいた。そしていま、「今」だけを信じてネオン輝くストリートを疾走する若者達がいる。でも、いつの時代の若者も、熱くピュアーに青春を駆け抜けていくことに変わりはないだろう。夏の夜にビールを飲みながら、『明日館』で自分の青春に想いを馳せてみるのもいいかもしれない。 |
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