青山、六本木、麻布、広尾、白金といえば、いまや東京のお洒落な街の代名詞になっている。それらのちょうど真ん中に位置しているのが、地下鉄日比谷線の広尾駅だ。おもしろいことに、広尾駅はちょうど区の境界線上にあって、2番出口からは渋谷区広尾、1番と3番出口からは港区南麻布へと地上に出ることになる。ちなみに、スマートな狛犬が迎えてくれる広尾神社は南麻布にある。
この界隈を歩いていると、日本にいることを忘れてしまいそうな一瞬がある。普段着の外国人ファミリーを、日常の光景のようにごく普通に見かけるからだ。たぶん大使館に勤務する人達で、この辺に住んでいるのだろう。彼らが通うスーパーマーケットの外観や看板も、どこか異国の香りがする。それに、緑に囲まれた瀟洒な高級マンションや大使館が多く、ゆったりとした街並みを形成していることもあろう。
たしかに、広尾駅界隈、特に港区側には大使館が集中している。いま手元にある地図で大使館をざっと数えてみても15ヶ国以上はある。実際は40ヶ国を超えるらしい。多くの外国人が住んでいるのも納得がいく。でも、何故、この界隈に大使館は多いのだろう。
それは、江戸の末期、アメリカ公使館が元麻布善福寺に設置された時から始まる。当時このあたりは、江戸の西のはずれで、外様の小藩の大名屋敷が建ち並ぶ武家地だった。明治維新後、それら武家地は、宮家や新政府高官や振興財閥の邸宅、そして外国公館へと姿を変えていくことになる。たとえば、いまの有栖川宮記念公園もそのひとつで、有栖川宮家は明治29年にここを所有している。
明治政府は、欧米先進諸国と協議しながら大使館開設地を決めていったらしい。そのとき、双方でいくつかの条件が設定されたように思う。首都東京の中心にありながらも横浜港に近いこと、欧米人にとってはつらい湿気を避けるために高台であること、そして安全確保の警備のためになるべく一箇所にまとめることなどだ。その条件を満たす大使館候補地を選定していくと、おのずと麻布界隈の武家地が浮上してくる。
江戸の武家地が外国公館の集まるお屋敷街へ、そして高級マンションが建ち並ぶ国際色豊かなお洒落な街へ、それがいまの広尾駅界隈だ。いつの時代も由緒正しいお屋敷街だった。だからだろう、このあたりには巨木が多い。有栖川宮記念公園の一画はまるで森のようだし、「広尾ガーデンヒルズ」は森の中のリゾートマンションのようで、都心とは思えない別世界を形成している。
満鉄総裁だった中村是公邸をそのまま利用した「羽沢ガーデン」というレストランが広尾駅の渋谷区側にある。大正時代の木造のお屋敷で、ここの玄関先にも立派な巨木が時代を超えて生きている。庭、縁側、座敷という日本の正しい木造建築の空間構成を体験したければ、ここのバーで酒を飲むといい。日本家屋の昔懐かしい「陰影礼賛」を堪能できるだろう。 |
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