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【プロフィール】
工学博士。1942年生まれ。1965年、東京大学工学部建築学科卒業。1989年、日本建築学会賞受賞。1998年、アメリカ暖房冷凍空調学会(ASHRAE)ベストペーパー賞受賞。現在、慶應義塾大学理工学部教授。建築環境・省エネルギー機構理事長・国土交通省社会資本整備審議会環境部会長

21世紀COEプログラム※
国公私を問わず、日本の大学が国際競争力のある個性豊かな大学となることを目指し、世界最高水準の研究教育拠点を形成して、世界をリードする創造的な人材育成を図るため、平成14年度から文部科学省の新規事業として補助金が支援されているもの。

インテリジェントビル(スマートビル)※
東京駅隣接の「丸ビル」に代表されるように、ビルを単なる“うつわ”と考えるのではなく、テナントが利用する各種機能・サービスをビル自体があらかじめ設備として持ち、それらを統合管理することによって、ビルの居住性や利便性、生産性、経済性(省エネルギーなど)を総合的に高め、快適な環境を作り出そうというもの。具体的には、ビル内で使用する「効率的」なインターネット・LAN等の通信機能、ビル全体の空調・照明・防犯などのOA環境(=「知能」)を活用し、様々な用途で人に使いやすい最先端の建築環境集中管理・自動制御をすること 。

Low-E(ローイー)ガラス※
表面に特殊コーティングをしたガラスで、高い耐久性・省エネ性を誇るが、通常の建材に比べて10倍のコストがかかる。
 


―現在、ヒートアイランド現象をはじめ、都市の環境問題が大きく取り上げられるようになってきていますね。

村上 首都圏の人口は約3,000万人。こうした人口集中が環境、エコシステム(生態系)に与える負荷や影響が大きいことは言うまでもないでしょう。中でも都市気候に関しては、地表面をアスファルトやコンクリート等で覆ってしまうといった都市自体の特質と、温暖化など地球規模の変動が相乗効果となって、一層大きな問題として表面化してきていると考えられます。

 東京・大阪など日本の大都市の場合、マクロの視点から都市の開発・整備に充分な投資が行われなかったため、環境問題が深刻化し、現在、それが都市の国際競争力という面でマイナスに働いています。平成13年に都市再生本部が設置され、環境等の観点を含め都市の再生を目指す21世紀型都市再生プロジェクトの推進が行われていますが、引き続き今後の取り組みに期待したいところです。

―文部科学省の「21世紀COEプログラム※」に採択されている慶應義塾大学の研究『知能化から生命化へのシステムデザイン』の中で、先生は『サスティナブル生命建築』というテーマを担当されていますが、どういった内容の研究なのでしょうか。

村上 テクノロジーは、「効率化」「知能化」と段階を踏んで発達してきました。そして「生命化」こそ、次の段階であると我々は考えています。(図解)自分と同じ形の子孫を作り、自分の種と、それを含むエコシステムを維持し続ける生命のあり方。それは今、人類文明最大の課題の一つとなっている「サスティナビリティ(持続可能性)」を考える上で、ベースとなる考え方と言えるからです。

 建築でいえば、例えば「インテリジェントビル(スマートビル)※」の一層の進化を「生命化」への流れの一つと捉えるとわかりやすいかもしれません。

  「生命建築」とは具体的にどのようなものかといいますと、研究途中のためまだ明確にはいえませんが、「生命維持システム」つまりエコシステムの一員になるわけですから、地球環境にやさしい建築であること。また、建物には生命体である人間が居住するわけですから、人にやさしい建築であることは不可欠なポイントであると言えます。さらに、免震構造のように外界の変化に「柔軟に」対応する性能も生命化の重要な要素となりそうです。


―環境に関する建物の性能を評価するツールとして「CASBEE(Comprehensive Assessment System for Building Environmental Efficiency: 建築物総合環境性能評価システム)」をお作りになっていますが、これはどのようなものですか。

村上 環境に対する意識が急激に高まった20世紀の終わりに、資源の3〜4割を消費するといわれる建設業界でも反省が進みました。生産活動をしないのが一番地球環境への負荷がかからないという単純な発想はありますが、人類の生活の営みのためには生産活動をやめるというのは現実的ではありません。人々が生活しやすく、かつ環境負荷の少なくサスティナブル(持続可能)な社会にするためにできることは、少ない負荷(エネルギー・敷地外環境への影響)で、かつ、高い生活の質(空間のゆとり・遮音・景観など室内外の環境、部材の耐用年数・空調などのサービス性能)を追求することです。そこで、建物の環境負荷を測るツールは世界中でもいくつか考え出されました。その中で「CASBEE」は、「負荷低減」と「効率」という視点をシンプルにわかりやすく採り入れた点で世界的に高く評価されています。

 具体的には、環境への負荷に係わる数値を分母に、環境についての品質に係わる数値を分子においてスコアを計算します。(図参照) なるべく少ない負荷で、なるべく高い品質を実現する、つまり環境に関する効率を高めることでスコアは上がるわけです。スコアをもとに、S、A、B+、B−、Cの5段階にランクづけしており、平均はだいたいB+とB−の間に設定しています。

―建物の評価が一般の消費者にもわかりやすくなりますね。

村上 それが大切なのです。CASBEEのスコアを公開し、例えばネット上にバーチャルなマーケットを作るなどすれば、環境に対する意識の高い消費者にとって、比較ができるよい判断材料になりますし、オーナーや設計者間で環境性能に関する競争も起こってくるでしょう。それが、建築物全体の品質を高めることにつながると考えられます。

 多くの人にとって建物(住宅)は一生に一度の買い物ですから、「今度買う時はここに気をつけよう」といった学習効果が出にくい商品なのです。ですから、事前に性能を正しく評価し、その情報をきちんと伝えることこそ、われわれ専門家や行政の責務と考えます。CASBEEはその手段の一つとして、すでに名古屋、大阪で採用されていますし、ほかにも多くの自治体が採用を決めています。


―今後の建築あるいは都市計画にはどのようなことが求められるでしょうか。

村上 従来の建物づくり・街づくりは、主として使う人間、造る人間の視点から行なわれてきました。しかしこれからは、周辺環境はもちろん、地球全体の環境への影響まで捉える広い視野をもって、建物や都市を造っていかなければならない。一言でいえばそういうことになります。

 住宅を含め、現在の建築に関する技術は、欧米で発達したものが土台となっています。しかし日本の気候風土、さらには大半が熱帯地域にある発展途上国の気候風土となると、欧米とはまるで違う。現在、中国をはじめ、アジア各国で建設ラッシュが続いていますが、環境という観点からは、それぞれの地域の気候風土に合った建築技術の開発も、今後は重要になっていくのではないでしょうか。

―横浜市の「みなとみらい21地区」などは、環境にも配慮した街づくりが行なわれているようですね。


村上 そうですね。私も先日、実際に足を運んだのですが、未来志向のしっかりした都市計画に基づいて開発された地域の好例だと思いました。例えば、「みなとみらい21地区」では、バリアフリーの街作りや環境への負荷を低減できる地域冷暖房システムを採用していますが、それが一般住宅にまで採り入れられているというのは大変すばらしいことです。

―近く「みなとみらい21地区」に竣工予定のタワーマンション「M.M.TOWERS FORESIS(エムエムタワーズ フォレシス)」は、CASBEEによる評価を申請しているなど、民間のマンションにも環境を意識した動きが広がっているようですね。

村上 このマンションの自主評価を見ると、かなりスコアは高いですね。全住戸にLow-E(ローイー)ガラス※を利用していることには驚きました。こうした質の高い住宅が増えること、また、こうした質の高い住宅を中心にしてきちんとした都市計画が行なわれてゆくことで、日本の大都市が再び力を取り戻すことを願っています。

―今後の研究に期待しております。どうもありがとうございました。

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