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ぼくは時々、自分はどうしてこう回りくどい人生を歩むんだろうと思うことがあるのですが、大学進学の時もそうでした。物書き志望でミステリー小説を書きたかったぼくは、まず法律家になって世の中の事件をたくさん観察してから作品に取り組もうという壮大な計画を立てたんです。法学部ばかり受験し、2浪の末に合格した大学の1つが立教だったわけですが、入学直後はなかなか学校になじむことができませんでした。バンカラな気風の男子校で剣道をやってきたぼくは、どこか上品で軟派な立教の空気に違和感を覚えたんです。新入生歓迎セレモニーでは体育会のメンバーがパフォーマンスの後でポケットから櫛を取り出して髪を整えているし、おいおいそんなことで勝てるのかよと思ってしまいましたね。
肝心の法律も自分には縁遠い世界だと思いすぐに勉強することをあきらめましたし、ミステリー研究会に入ってみたけどそこもイメージと違って面白くない。5月になるとぼくはほとんど学校へ行かなくなってしまいました。それで何をしていたのかというと、本を読むか映画を観るか、あとはまあだいたい飲んだくれていましたね。
そんな大学生活を一変させることになる友人と出会ったのが、唯一たまに出席していた体育の授業でした。ある日のこと、ぼくともう1人の学生が「あと一回でも休んだら単位をやらないぞ」と先生に言われ、オレ以外にもそんなのがいるのかと思い、「授業に出ないで何してるの?」と聞くと、サークルで演劇をやっているというんです。4浪して「文学部B試験」で入ったというその男は、話してみるととても面白いヤツでした。当時は英語と論文だけで受験できる「文B」という入試制度があり、毛色の変わった学生がけっこう入学していたんです。頭が抜群によくて、しかも独自のものの見方ができる人間でした。現在は大学で教壇に立っているようなヤツなんですが、そのとき、その男に今度公演があるからと誘われて見に行き、それ以来ぼくはそのサークルで芝居の世界にどっぷりと入り込むことになります。
ぼくは熱しやすく冷めやすい性格で、それまでどんなことも飽きて捨ててきていたのに、演劇だけはいやにならずに付き合い続けることができたんですね。そうして芝居に明け暮れるうち、5年生となり6年生となりました。ある春、いつものように学食でカレーを注文するとオバチャンがぼくの顔を見て、「あれ、あんたまだいるの?ずいぶん長いね」「へっへっへ、また今年もなんだよ」「あっそう、頑張りな。玉子入れとくから」なんてことが年中行事みたいになったり。学生課に行って演劇の練習についての許可を取りに行ったときなんかも、「まだ、うちの大学から有名な役者さんほとんど出てないからねぇ」と遠まわしに励ましてもらったり…気が付くと、立教って、ぼくにとってあったかいところ。何年いても飽きない、大好きなところになっていましたね。結局8年かかって卒業したんですが(笑)、それというのも辞める気に全くならなかったからなんです。でもねぇ、今でも夢を見るんです。全部取れたと思った単位が実は1つ残っていて、それを取らないと卒業できない、どうしよう、という悪夢を(笑)
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大学時代のとても印象深いシーンに、夏の夜中にキャンパスで仲間たちと缶蹴りをした思い出があります。月の下で、むせ返るような青草の中を缶を蹴って転がり合ったというそれだけのことなんですが、あれはすごく大きな財産ですよ。今やれと言われても絶対にできませんから。そんなことをできる仲間もいないし、状況もない。でも、あの時はできたんです。大学ってそういうところで、無意味な時間を過ごしているんだけど、その無意味さの中にこそかけがえのない何かがあるというところがありますよね。
と同時に大学というのは、自分で探せばきっと何かが見つかる場所でもあります。「オレが世の中に対してできることは何なのか」ということを懸命に探していたぼくが見つけることができたのが演劇でした。自分が芝居をすることで誰かが喜んでくれるのがとにかく嬉しかったので、これで何としてでも食べて行こうと、ほかの手段でお金を稼いで生きることは考えませんでしたね。
それからもう1つ大きいのは、大学では中学や高校以上に人と出会う機会が豊富だということ。脚本家の三谷幸喜と知り合ったのは5年生の時だったと思いますが、法学部の同級生に日大芸術学部で芝居をやってる子がいて、その子がぼくに会わせるために三谷をわざわざ立教へ連れてきたんです。それで一緒に芝居をやろうかという話になったんですが、最初にぼくを演劇に誘ってくれた友達も含め、もしも大学でそうした出会いがなければ、人生はまったく別のものになっていたでしょう。そういう意味でぼくの現在の生活の基盤は立教大学によって培われたといっても過言ではありません。
若いうちは勉強することの意味がよくわからず、社会に出てから改めてその大切さに気づくんですよね。そういえば、当時の法学部にも社会人入試で入ってきたオジサンがいました。若い子と友達にならないとコピーが回ってこないものだから一生懸命混ざろうとするんだけど無理があって、ちょうど両者の世代の中間点くらいにいるぼくに「相島くん、コピー手に入らないかな」って頼んでくるんです。「じゃ若いヤツに聞いてみますよ」なんて笑ってましたけど、あんな風に社会人になってから大学に入り直すのもいいものだなって今は思います。 |
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PROFILE
あいじま・かずゆき 1961年埼玉県生まれ。立教大学在学中に演劇サークルで役者としての活動を開始。87年に劇団・東京サンシャインボーイスに入団し、94年の『罠』まで全作品に出演。『古畑任三郎』『12人の優しい日本人』などテレビドラマ、舞台、映画と幅広いジャンルで活躍。04年のNHK大河ドラマ『新選組!』に新見錦役で出演。 |
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