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語る・立教大学
語る人



 私は立教理科専門学校から予科を経て経済学部へ進みました。数字の嫌いな私が柄にもなく理科専の数学科に入ったのは、戦時下の国の政策で文系の科目が縮小されていたためです。もっとも、当時は太平洋戦争のただ中で、授業は満足に行われません。どの学生も勤労動員で工場へ駆り出され、授業ではなく軍事教練が施される月に1回程度の登校日にだけ級友と顔を合わせることができるのですが、やがて徴兵年齢が下がり、彼らは次々と戦地へ送られていきました。出兵する学生たちは教室の黒板に別れの言葉を書き残して行くのですが、登校するたびに黒板が埋まっていくのを見るのは本当に辛いものでした。

 私はぎりぎりのところで徴兵を免れ、終戦の昭和20年に予科、22年に経済学部へ入り、ようやく学生らしい生活を送れるようになったものの、家に経済的な余裕がなかったために、食べることで精一杯でした。トラックに乗って焼け跡の残骸を片付けたり、家庭教師や進駐軍の仕事をしたり、ありとあらゆるアルバイトをしながら、どうにか大学に通っていたという感じです。授業はきちんと出席するものとしないものをあらかじめ分けておき、一度も講義を受けずに試験だけ受けて単位を取ったものもありますが、魅力的な先生や授業も数多く、特に「西洋経済史」の松田智雄先生のことを忘れることはできません。



 病気で休まれていた元の先生に代わって松田先生が「西洋経済史」の教鞭を執られるようになったのは、経済学部1年の秋です。その最初の授業で聴いた「経済外的強制」の話のおもしろさと先生の人柄とに感激し、授業の後で先生をつかまえて「来年からぜひゼミを開いてください」と懇願したことを覚えています。松田先生とは就職してからもお付き合いが続き、私にとって生涯を通じての恩師と呼べる大きな存在となりました。

 松田先生に限らず、予科時代からよく仲間たちといろいろな先生の家に押しかけては議論を吹っかけたり、吹っかけられたりしたものです。いい迷惑だっただろうと思うのですが、どの先生もいやな顔ひとつ見せず、食べ物のない時代なのにジャガイモやサツマイモをふかして相手をしてくださいました。杉木喬先生が、第一次世界大戦によって希望を失ったヘミングウェイのロストジェネレーションの話を引用しながら、「君たちはそうはならないように」とおっしゃったことが今も強く記憶に残っています。授業の外で先生が話されたことの方がより印象的だったりするのは不思議なことですね。

 大学時代はひそかに経済史の学者になりたいと考えた時期もありましたが、長男である私は面倒をみなければならない弟もいたことから、家から通勤できるという条件に見合う銀行に就職することに決めました。「銀行員になります」と報告しに行くと、松田先生はしばらく私の顔をまじまじと見て、「君、向かないよ」とおっしゃいました。財務にも会計にも関心がなく、性格も几帳面ではない私が銀行員に不向きであることは自分でもよくわかっていましたが、まだ日本経済は戦後の混乱から立ち直っておらず、就職先を選り好みすることはできなかったんです。



 戦争中には校舎の多くが焼け、現在サンシャインシティが建っている巣鴨拘置所まで大学から見とおせたものですが、「4丁目」の藤棚のところや時計台付近の雰囲気は当時も今もまったく変わっていません。あのあたりの建物の一群は、私たちにとって心のよりどころという感じがありましたし、今もなお立教の象徴的な場所であり続けていると思います。私の学生時代にはチャプレンが学内をうろうろしながら何かと声をかけてくれ、中には小遣いを借りたなんて学生もいたものです。チャプレンは本当に親身になって学生と触れ合ってくれましたね。

  こうした人間的な触れ合いがある点こそ立教ならではの魅力ではないかと思うのですが、どうも最近の学生は人間関係を煩わしいものと感じているみたいですね。パソコンや携帯は情報を得るには便利なものですが、人付き合いというのは顔を合わさないと成り立たないもので、メールでできるやりとりと、直接会ってする会話はまったく質の違うものです。私が立教で得た何よりも大きな財産は先生や友達との出会いでしたが、利害に縛られない純粋な友人関係は、おそらく学生時代にしか築けません。大学の試験や就職ばかりに目を奪われず、人間とは何か、人生とは何かといったことを、友達と語り合いながら真剣に考えてほしいですね。知識を得るだけではなく、豊かな人間性を育てることが大学の究極の目的であるはずですから。
PROFILE
こみやま・しょういち 1928年埼玉県生まれ。立教大学経済学部卒業後、埼玉銀行(現りそな銀行)に入行し、常務取締役、専務取締役などを歴任。立教学院理事、評議員を経て、95年に理事長就任。

なかにし礼さん(作家)
服部幸應さん(服部栄養専門学校理事長・校長)
関口 宏さん(タレント)
黒沢 清さん(映画監督)
俣木盾夫さん(株式会社電通社長)
相島一之さん(俳優)
乾貴美子さん(タレント)
立教独自のMBAは、理想の知的コミュニティである。
(大学院 ビジネスデザイン研究科 教授 五味紀男)
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