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フォーカス立教

2013年3月1日掲載

「僕は人間が大好きなんです。ドキュメンタリーの道へ進んだのは、その大好きな人間のドラマを記録したいから。生身の人間がちょっと窮地に追い込まれたときの言動には、人間の底力みたいなものが出てくるんですよね。そこにはシナリオをはるかに超えていく感動があって、それが醍醐味(だいごみ)」とドキュメンタリー映画の魅力を語る池谷薫監督。

最新作の『先祖になる』では、陸前高田市で農林業を営む佐藤直志さん(77歳)が息子を亡くした悲しみを乗り越え、大津波で壊れた自宅を再建する姿を追った。

  • 主人公の直志さんは、自ら森で木を伐り、
    自分の家を建て直す。夢に向かって前進する彼の姿を、
    1年半に渡って追った

「ドキュメンタリーは生き物。作品や被写体によって撮り方は全く違います。『先祖になる』では、ただそっと寄り添うことを大切にしました。1年半、ひたすら直志さんのそばで素直にカメラを回し続けたんです」。時に直志さんと畑仕事に汗を流し、地域の祭りにも参加した。情に流されず静かに見つめ続けた映像には、言葉にしがたい、心揺さぶる何かがある。「笑い」にはこだわった。「どんな過酷な環境でも、東北人にはユーモアを忘れないたくましさがある。でも、笑顔の裏には悲しみや苦しみが隠れているんです。その感情の機微を余すことなく全てすくい上げることが僕に課せられた宿題です」。

本学では映像身体学科の特任教授として5年間、学生の指導にあたった。学生たちからは、刺激を受けたそう。「学生は皆、手法も構成も二の次。やりたい放題で撮るんです。でも、そこにちゃんと魂がある。学生と一緒に作品を作り上げることは、大変だったけど面白かったし、僕をすごく自由にしてくれました」。

座右の銘は「人間の財産は人との出会い」だ。「落ち込んだときは、あえて人に会いに行くんですよ。違う生き方との交わりは人生を豊かにしてくれます。撮影で何度も足を運んだ被災地にも教えられました。一歩でも前に進むことが、どれだけ大切なことかを」。陸前高田で得た絆を糧に、池谷監督は新たな出会いを求め、次の「宿題」へと挑んでいく。

雑誌「立教」第224号より

映画『先祖になる』

第63回ベルリン国際映画祭エキュメニカル賞 特別賞受賞
渋谷シアター・イメージフォーラムにて絶賛公開中!
3/2より横浜ニューテアトル、名古屋・シネマスコーレ
3/3より仙台・桜井薬局セントラルホール
3/9より岩手・みやこシネマリーン
3/16より長野グランドシネマズ
4/6より京都シネマ、大阪・第七藝術劇場
ほか全国順次ロードショー!
監督:池谷 薫
製作・配給:蓮ユニバース
公式サイト

池谷 薫(いけや・かおる)
現代心理学部 特任教授

1958年、東京生まれ。同志社大学卒業後、数多くのテレビ・ドキュメンタリーを演出。初の劇場公開作品となった『延安の娘』(02年)は、ベルリン国際映画祭など世界30数カ国で上映され、カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭最優秀ドキュメンタリー映画賞ほか多数受賞。2作目の『蟻の兵隊』(06年)は中国残留日本兵の悲劇を描き、記録的なロングランヒットとなる。2008年より、立教大学現代心理学部映像身体学科特任教授(13年3月まで)。プロデュースした卒業制作作品『ちづる』(11年・赤正和監督)は全国規模の劇場公開を果たす。