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現代を生き抜くために 法学部教授 吉岡知哉

2010年4月16日掲載

教員によるおすすめ書籍

  1. 『ソクラテスの弁明』
    (プラトーン著 田中美知太郎訳 新潮文庫、1968年)
  2. 『君主論』
    (ニッコロ・マキアヴェッリ著 佐々木毅全訳注 講談社学術文庫、2004年)
  3. 『ユートピア』
    (トマス・モア著 澤田昭夫訳 中公文庫:改版、1993年)
  4. 『リア王』
    (シェイクスピア著 安西徹雄訳 光文社古典新訳文庫、2006年)
  5. 『ドン・キホーテ』(前篇・後篇)
    (セルバンテス著 牛島信明訳 岩波文庫、2001年)
  6. 『方法序説』
    (デカルト著 谷川多佳子訳 岩波文庫、1997年)
  7. 『ペルシア人の手紙』
    (モンテスキュー著 根岸国孝訳 筑摩書房(『世界文學大系』16)、1960年)
  8. 『人間不平等起源論』
    (ルソー著 中山元訳 光文社古典新訳文庫、2008年)
  9. 『経済学・哲学草稿』
    (マルクス著 城塚登 田中吉六訳 岩波文庫、1964年)
  10. 『ボヴァリー夫人』
    (フローベール著 山田爵訳 河出文庫、2009年)

書物などあまり読まない人はもちろん、読書好きの中にも書物は趣味か娯楽のためのものであって実際の役になど立たないと思っている人が少なくない。しかし書物は実生活の役に立つのである。なぜなら書物はそれ自体がことばでできた一つの世界であって、読書とはことばをたどりながらその世界を体験することに他ならないからである。古典と呼ばれる書物はその世界の密度が高い。優れた人物との出会いや濃密な経験が役に立つのと同じ意味で、古典を読むことは役に立つ。しかも書物は自分のペースで、繰り返し読むことができるのだから、ずっと便利で贅沢である。

そのような古典の中から、ここでは現代を生き抜くための書物を挙げる。保証しよう、これら10冊はどれもが読み終わってすぐにその場で役に立つ。

ただしこれらの書物は、何らかの情報や何かについての知識を伝達するという性質のものではない。さすがに2500年も昔のギリシアの書物が、現代社会についての情報を与えてくれはしない。だが、アテナイの法廷でソクラテスが何に対していかに戦っているのかを読み取ろうとすることは、それ自体が、現代の問題を理解し解決を探る力を養ってくれるだろう。憂い顔の騎士の遍歴は勇気と知恵を授けてくれるだろう。古典の世界は常に新鮮であり、時代と場所を超えて、読者の現実と呼応するのである。

もちろんこのリストには抜けているものが多すぎるという批判はありうる。しかし『パイドン』で『弁明』を代替することはできないし、『リア王』を落として『タルチュフ』を入れ、ルソーの代わりにカントを、マルクスの代わりにスミスを挙げることで、欠陥が埋まる訳ではない。読まなくていい古典というものは定義上存在しないのである。

ではどうするか。片端から読む、というのが答えだ。幸いにしてこの文章の読者の多くは学生であって、読書に時間を費やすことでだれからも咎められることはない。そして図書館では大量の書物が読まれることを待っている。

図書館広報誌「Your Library no.9」より