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私の研究室から

スポーツ栄養から食糧問題まで

2008年12月1日掲載

スポーツ栄養学

私は本年の3月31日まで食品メーカーに23年間勤務していました。そこで行ってきた仕事は、スポーツ食品・スポーツドリンクの開発と、アスリートに栄養指導を施しながら開発した商品を使ってもらい、競技力を高めてもらうということでした。

静岡大学理学部の生物学科、そして修士課程を修了して入社した時は研究職でした。しかし、3年目に本社営業部に転勤となり、そこでスポーツ食品(ブランド名『ザバス』)の営業企画担当になって人生が大きく変わったのです。最初はどうやって売ればいいのか悩み、夏のインターハイ会場で高校の陸上部の監督に声をかけ、商品の説明をしました。そのうちに、知り合った監督から「チームに来て商品説明と栄養学の講義をしてくれないか」という依頼があり、『勝つための栄養学』と題したセミナーを始めました。アスリートは練習量が多いので、栄養の必要量も高いレベルにあるのですが、栄養の大切さを認識していないし、練習で疲れて清涼飲料をガブ飲みしたり、好き嫌いも少なくなかったり、実際の栄養摂取量は必要量からかけ離れたレベルである場合が多いのです。セミナーを実施すると、そのチームは意識が変わり、きちんと食事をするようになりますし、スポーツ食品やスポーツドリンクをタイミング良く適量摂取するようになります。意識の無いチームと比べれば、体力・体調面には歴然とした差が生じます。やがて、セミナーや商品のことが口コミで広がり、高校野球や高校ラグビーからも声がかかるようになり、数年後には、オリンピック選手やプロチームからも指導依頼が来るようになりました。

大学院時代の実験風景

さて、栄養指導の内容は、基本的な栄養学をアスリート仕様に修正していったのですが、商品はプロテインやビタミン、カルシウムという品揃えだけでは足りなくなってきました。外国のアスリートが使用している商品を調べ、サポートしているアスリートの要望を聞くうちに、アミノ酸、クレアチン、コエンザイム Q10、糖質のゼリーやドリンクなど種類は増えました。さらに、持久系、瞬発系のそれぞれの競技で必要とする栄養素の違いなども考えると、ヒトを使った運動生理学的な研究をする必要が生じ、36歳の時に東京大学大学院博士課程に入学して、サッカーのハーフタイムに適した栄養摂取の研究をしました。4年以上かかりましたが学位を取得し、スペシャルドリンクも開発することができました。そのドリンクは、2002年の日韓ワールドカップでトルシエジャパンの栄養アドバイザーを依頼された時にチームに導入し、現在まで代表に使われています。

その頃から、アスリート以外を対象とするセミナー依頼が増えてきました。子どもの食育、女性のダイエット、高齢者のカラダづくり、そして最近では脱メタボリックシンドロームもテーマとして多くなりました。そして、立教大学の教員になるわけです。


食を求めて

私は1957年に東京で生まれました。生まれつきアレルギー体質であり、1歳からは小児ぜんそくを患い、発作が起こると2、3日満足に眠ることができず衰弱するのですが、旺盛な食欲ですぐに回復するということを繰り返していました。5歳の時に医師であった父がアメリカで研究することになり、ボストンで2年間暮らしたのですが、ここは涼しく気候の良いところで、新しいアパートにはアレルゲンであるダニやイエボコリもなく、元気に過ごすことができました。一方、旺盛な食欲は、ハンバーガーにピザ、ローストビーフにフライドチキンといった、それまで見たこともない美味しい食べ物を得てさらに高進し、気が付けば肥満児になっていたのです。帰国時に羽田空港に出迎えた祖父母や親戚は、ぜんそくの発作でやせ細ったひょろひょろの少年をイメージしていたのに、赤いポロシャツに白いテンガロンハットで降り立った肥満児を見て、腰を抜かしそうにびっくりしていました。

日本に帰ると、ビーフもチキンも無い生活でしたから、興味は給食に集中し、くじらの竜田揚げやカレーなど何杯もおかわりし、みんなの嫌いな脱脂粉乳も五、六杯は飲みました。母は、自宅のエンゲル係数が上がるよりは、一定の給食費でたくさん食べてきてくれたほうがありがたいので、「跡取り息子」ならぬ「元取り息子」と呼んで奨励しましたが、PTAの総会で私の給食の早食いが問題となり、恥もかいたようです。私は料理にも興味を持ち、小学校の夏休みの自由研究では、いつも創作デザートなどをレシピ入りで提出し、変な男の子と思われていました。特に父は、食事より研究という人でしたから「男子厨房に入るべからず」と説教をくらったものです。

中学からは部活で剣道を始めてますます腹が減り、常に飢えていたような気がします。高校3年で部活が終わると、受験勉強もせずに、週末に食べ歩きをするようになり、荻昌弘氏の食べ歩きの本を購入して、掲載店を一軒一軒制覇していきました。北海道大学の獣医学部を目指していた現役受験の時には、主婦の友社から出ていた『札幌ラーメン食べ歩き』の本を持って行き、5日間で10軒を回ったものです。母は、四柱推命でいう「食神」の星だから仕方ないと諦めていました。実際、食品メーカーに就職し今も栄養の仕事に就いていますから、食に縁があるし、食にこだわっていくしかないようです。

研究・教育について

  • 大学院時代の実験風景
  • 尊敬する2人の師の著書を手に

尊敬する人物のもう一人は、アメリカのスポーツ科学・スポーツ栄養学の権威であるメルヴィン・ウィリアムズ先生です。十二年前にアメリカスポーツ医学会で知り合い、同年に日本で開催された陸上競技の国際学会にゲストスピーカーとしてお招きしました。日本滞在中の5日間で、数々の教えをいただき、私の研究論文のアドバイスもお願いしました。それからもメールのやり取りや学会の時にビールを飲みながらディスカッションしていただいています。この先生は教科書をきちんと書いていて、厳しくも優しく、学生の面倒をとことん見る教育者です。教員としてはこの先生をお手本とし、先生のスポーツ栄養学の教科書を現在翻訳しているので、これを用いた授業も展開したいと考えています。

現在、立教の全学共通カリキュラムでは、講義科目として「現代人とサプリメント」、スポーツスタディとして「ダイエットフィットネス」を開講しています。学部では「スポーツ栄養学」、「ウエルネス科学総論」、「ウエルネス文化特論」という授業を始めていきますが、スポーツ・運動を意識しつつ、栄養学、栄養教育、食文化、食糧供給、食の安全性など日本が抱える食の問題を学生と共にディスカッションし、将来の日本の食を支える人材を育てていきたいと考えています。課外活動では、体育会拳法部の部長も務めています。日本拳法は防具を着けて打・突・蹴(けり) ・投・締を行うアグレッシブな武道です。心身ともに強い学生が育つことを栄養学からサポートしていきます。

「立教」第206号掲載

杉浦 克己(すぎうら・かつみ)
杉浦 克己(すぎうら・かつみ)
コミュニティ福祉学部 スポーツウエルネス学科 教授

1983年3月 静岡大学理学部生物学科 卒業、1985年3月 静岡大学大学院 修士課程 理学研究科生物学専攻 修了、1998年12月 東京大学大学院 博士課程 総合文化研究科広域科学専攻 修了、1985年4月 明治製菓(株)生物科学研究所、1988年6月 明治製菓(株)健康産業事業部、1991年11月 明治製菓(株)ザバス スポーツ&ニュートリション・ラボ 所長、2006年4月 立教大学コミュニティ福祉学部 福祉学科 教授(特別任用教員)、2008年4月 同 スポーツウエルネス学科教授

【所属学会】
(国内)日本体力医学会、日本発育発達学会、日本トレーニング学会、日本体育学会、日本運動生理学会、日本臨床スポーツ医学会、日本栄養改善学会

【学外活動】
(財)日本体育協会 指導者養成講習会講師、(財)日本陸上競技連盟 科学委員会 委員、(財)日本オリンピック委員会 情報・医科学専門委員会 科学サポート部会員、(財)全日本柔道連盟 科学研究部員

【専門分野】
健康、フィットネス、スポーツのための栄養学

【主要担当科目】
(学部)現代人とサプリメント、ダイエットフィットネス、スポーツ栄養学、ウエルネス科学総論、ウエルネス文化特論

【業績】
単行本
ダイエット&フィットネスの基礎知識 ハートフィールド・アソシエイツ2007.5(単著書)
イラストでみる最新スポーツルール07 大修館書店2007.4(共著書)
ナショナルチームドクター・トレーナーが書いた種目別スポーツ障害の診療 南江堂 2007.1(共著書)
スポーツの百科事典 丸善 2007.1(共著書)

論文等
The synergic effects of coenzymeQ10 and creatine through oral intake on repetitive short duration high-intensity exercise. Japanese Journal of Physical fitness and Sport Medicine 55 2006.10(共著論文)
The effects of soy peptide on isometric performances end serum CK and LDH trends after high intensity repetitive eccentric exercise stress. Japanese Journal of Physical fitness and Sport Medicine 55 2006.10(共著論文)