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「うっかりミス」とうまく付き合うために
現代心理学部 心理学科 教授
芳賀 繁

12月1日掲載


大事故も忘れ物も同じ「うっかりミス」から

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  • 「うっかりミス」は、その原因によって、大きく3つに分類できます。

大きな事故が起こったとき、その原因について、テレビや新聞などでよく「考えられないミス」といったコメントがなされます。しかし私に言わせれば、いかなるミスも十分に「考えられるミス」です。プロだろうとベテランだろうと、ミスはおかします。そしてその本質は、私たちの「うっかりミス」と何ら変わらないのです。

私は、航空機事故、鉄道事故、その他産業事故全般に関して、それらを防止する方法を研究しています。そのベースとなるのは、私たちの日常の「うっかりミス」の研究。これをいかに防ぐかを考えることが、そのまま大事故の防止にもつながっていくわけです。「うっかりミス」は、その発生メカニズムに基づいて、大きく3つに分類できます。

一つ目は、勘違いなどによって誤った行動をとってしまう「ミステイク」。二つ目は、取ろうとした行動は正しかったけれど、動作がうまくいかずに失敗する「アクション・スリップ」。例えば、A・B2つのボタンがあり、本当はAを押さなければならないのに、Bを押してしまったとします。この時、Bが正しいと思い込んで押したのなら「ミステイク」、Aを押そうとしながら、手が滑ってBを押したのなら「アクション・スリップ」ということになります。

そして三つ目は、「失念」などと呼ばれる記憶のミスです。やるべきことをやるべき時に思い出せず、やり損なってしまう。いわゆる「忘れ物」、電気の消し忘れや蛇口の閉め忘れ、約束のすっぽかしなど、みんなこの記憶のミスに含まれます。


失敗から学んでリスクへの感性を養う

  • 芳賀 繁イメージ

「ミステイク」は、見間違い、聞き違い、勘違いという形で表れます。こうした間違いは、私たちの頭の中に認識の「鋳型」のようなものが用意されていて、入ってきた情報を無意識にそれにはめ込んでしまうことから起こります。例えば、私の「芳賀(はが)」という名前が電話でなかなか聞き取ってもらえないのは、多くの人の頭の中に芳賀という苗字の鋳型がなく、佐賀・古賀・羽田など、その人が鋳型を持っている別の苗字として認識されてしまうからです。

こうしたことは、空港でのパイロットと管制官のやり取りでも起こり得ます。飛行機が誤って滑走路に進入してしまうというミスは、待機していたパイロットが「許可」の指示を予期してその鋳型を作ってしまい、管制官の別の指示を許可と聞き違えたために起こることが多いのです。無論、場合によっては大惨事となります。

防止策は、見間違いについては指差し確認。聞き違いについては復唱です。復唱といっても、ただのオウム返しでは、相手は自分の発した言葉で鋳型を作っているので、こちらが少し間違えて復唱しても、鋳型にはめて正しいように聞いてしまう恐れがあります。そこで有効なのが、少し違った表現に言い換える「確認会話」。例えば、「2時半に伺います」と言われたら、「14時30分ですね」というように返すのです。

「アクション・スリップ」も、テーブルの上のグラスを倒してジュースをこぼすくらいならどうということはありませんが、運転中のハンドル操作のミスをはじめ、やはり大きな事故の原因ともなり得ます。もちろん、専門的な技術については、訓練によってミスをゼロに近づけることができますが、日常的な失敗をなくすことは、はっきりいって不可能です。

そこで対策は、失敗することを前提に、それが事故につながらない工夫をあらかじめ施しておくしかありません。これを「フールプルーフ」、日本語では「バカよけ」「ポカよけ」などと呼びます。脱水中の洗濯機がフタを開けると自動的に止まる、炊飯器のスイッチが内釜をセットしないと入らないなど、家電製品にはさまざまな「フールプルーフ」が施されていることはご存じの通りです。私たちそれぞれも、自分の失敗のパターンを考えて、よくぶつかるところを柔らかいもので覆うとか、よく倒すものを固定しておくとか、いろいろ工夫することができるでしょう。

そして、失敗から学んで、リスクを予期する感性を養うことも大切です。その意味では、子どもが失敗しないように親が気を配りすぎるよりは、ある程度の失敗体験を重ねさせたほうがいいかもしれません。


小さなミスは許すおおらかな心を

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  • 大切なのは、ミスは防ぎきれないものと心得て、あまり神経質になったり、責めすぎたりしないことです。

記憶のミスも、ボルトの締め忘れが飛行機事故に、ガス栓の締め忘れが爆発事故にと、やはり大惨事につながる可能性を持っています。これらは、いわゆる「記憶力」の良し悪しとは無関係で、はやりの脳トレなども、その防止にはあまり役立ちそうにありません。

そこで有効となるのが「リマインダー(思い出させるもの)」です。これには「シグナル」と「メッセージ」という二つの要素があり、それらをうまく組み合わせることで、効果的にトラブルを防ぐことができます。例えば、10分後に大切な電話をかけなければならない場合、その時に音などで知らせてくれるのがシグナル。腕時計や携帯電話のアラーム機能、とりわけキッチンタイマーは、シグナルとして大いに活躍してくれます。

10分後ならシグナルだけでも十分でしょうが、数時間後となると、音は鳴ったものの、さて何をするんだっけということにもなりかねません。その時、するべきことの内容を教えてくれるのが「メッセージ」、すなわちメモの類いです。これは、パソコンのモニター画面、玄関のドアなど、必ず見るところに置いたり張ったりすることが最大のポイントとなります。

チェックリストも、このメッセージの一種です。飛行機のコックピットでは、場面に応じた何種類ものチェックリストを、その都度副操縦士が読み上げ、機長が確認していきます。どんなベテランでもこの作業を怠らないのは、人間は必ずミスをおかすこと、そして彼らのミスは人命にかかわることを知っているからです。

ただし、あまりに項目の多いチェックリストは、面倒くさがられてチェックが甘くなり、結果的に意味がなくなってしまう恐れがあります。一人が受け持つリストは、なるべく項目を絞るよう、工夫する必要があるでしょう。

チェックリストは、日常生活の忘れ物防止などにも活用できます。この場合はもともと項目が少ないので、書き出すよりは語呂合わせを作って覚えておくのがオススメです。例えば私は、朝の出勤前に「今朝(ケサ)決めて」という言葉を思い浮かべます。ケは携帯電話、サは財布、キはキー、メは眼鏡、テは定期券で、この五つすべてを持っていれば、とりあえず外出先で困ることはないというわけです。

ところで、受験生が試験中におかすミスの多くは、最初の「ミステイク」に属します。従って、問題の重要と思われる箇所を指差しながら読む、あるいはアンダーラインを引くといった手段が有効になります。計算は、なるべく途中経過も目に見えるように書き出しましょう。記憶はすぐに消えるので、記録しておくことが大切なのです。条件が変わるとミスも起こりやすくなるので、普段の勉強でも、試験の時のような時間制限を設けてみてください。

大切なのは、ミスは防ぎきれないものと心得て、あまり神経質になったり、責めすぎたりしないことです。ミスを恐れてチャレンジする気持ちを失うことのほうが、ミスそのものよりよほどマイナスだと、私は思います。大きな事故につながらない限り、ミスを笑い話のタネとして、むしろ生活を楽しくする材料の一つに加えるくらいの、おおらかな心を持ちたいものです。


芳賀 繁(はが・しげる)
芳賀 繁(はが・しげる)
現代心理学部 心理学科 教授

京都大学文学研究科修了。博士(文学)。ヒューマンエラー、リスク行動、注意、作業負担などに関して基礎的研究から事故防止のための実践的活動までを行っている。大学での教育・研究のほか、国土交通省運輸審議会、日本航空安全アドバイザリーグループ、JR西日本安全研究推進委員会などのメンバーを務める。著書に『絵でみる失敗のしくみ』(日本能率協会マネジメントセンター)、『失敗のメカニズム』(日本出版サービス/角川ソフィア文庫)、『ヒューマンエラーは裁けるか』(監訳、東大出版)などがある。

現代心理学部ホームページ: http://www.rikkyo.ac.jp/academics/undergraduate/CP/

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