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「偽装表示とCSR」解決困難をふまえた上で冷静な議論と報道を
21世紀社会デザイン研究科 特任教授
福田 秀人

4月16日掲載


「偽造」の二文字が論点をあいまいに

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  • トップが辞任すれば報道量が急減すると聞いたことがありますが、事実を公平に伝えるという基本がおろそかにされたとしたら、その姿勢は反省されるべきでしょう

食品をはじめとした商品の偽装表示が、大きな社会問題となっています。気になるのは、「偽装」という過激な言葉が先行し、似て非なる問題が一緒くたにとらえられ、論じられているのではないかということです。

例えば、今、多くの関心を集めている中国製冷凍食品の農薬混入事件は、生産管理の問題であり、さらにいえば、何者かによる故意の混入が強く疑われていますから、偽装と一線を画さねばなりません。

もう一つ、少し古い例になりますが、雪印乳業の加工牛乳の食中毒事件を挙げてみます。当初、問題の製品を加工した大阪工場で細菌が繁殖したものと疑われ、同工場の生産工程のずさんさが盛んに取り上げられました。しかし、その後、原因は、同社の北海道・大樹工場で、ツララが落下し、電源ケーブルを切断したために起こった停電により、保冷装置が停止し、脱脂粉乳に菌が繁殖したためであることがわかりました。それが原料として大阪工場に送られてしまったのです。ところが、この事実が、一連の報道の中で大きく扱われることはありませんでした。

トップを辞任に追い込むことが報道の目的と化し、そのトップが辞任すれば報道量が急減すると聞いたことがありますが、事実を公平に伝えるという基本がおろそかにされたとしたら、その姿勢は反省されるべきでしょう。

まず事実を正しく把握し、それが偽装なのか生産・品質管理上の問題なのか、また、故意か過失か、不可抗力か、論点を整理してかからなければ解決は見えてきませんし、教訓も得られません。


CSR論はまず「困難さの認識を」

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  • 現実には、利益追求以前に厳しい競争の中で生き残るためのギリギリの手段である場合の方が、はるかに多いのではないでしょうか

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偽装表示の場合はもちろん、問題の原因が誰かの故意や過失であったとしても、その問題を起こした企業の責任は免れません。雪印の場合、「事故」後の対応には多くの問題がありましたし、中国から食品を輸入ないし販売した業者も、そのブランドを信頼して購入した顧客を裏切ったことは事実です。こうしたことは、最近よく耳にする「CSR(企業の社会的責任)」の最も基本的な部分と言えるでしょう。ただし、実際にその責任を果たすのは、極めて困難であることを認識しておく必要があります。

例えば、偽装が行われる理由として「利益至上主義」が挙げられます。しかし現実には、利益追求以前に厳しい競争の中で生き残るためのギリギリの手段である場合の方が、はるかに多いのではないでしょうか。「モラルハザード」という言葉は、わが国では道徳意識の低下・欠如といった抽象的な意味合いでとらえられがちですが、経済学では「他に損失を与えて自らの利益を得る行為」と定義されています。道徳心を持ちつつも、資金繰りやノルマに追われて不法な行為をしてしまう。これを防ぐには、大変な努力が必要です。

CSR論には、もう一つの問題があります。株主利益至上主義ともいえるアングロサクソン流の企業観がそのまま輸入されているために、「株主に対する責任」が真っ先に掲げられていることです。しかし、株主の利益は企業の利益と一体であり、その追求が、従業員や顧客の利益、さらには環境保護などと相反する場合があります。それに企業はいかに対応すべきかを、問題ごと、つまり各論で明確にする必要があります。

これは大変に困難なことですが、その困難さを知らない、もしくは、回避したCSR論をよく目にします。

困難を困難と知ること。そして、何よりもまず、モラルハザードを防ぐ努力をすること。そこでは、管理体制の強化、成果主義の見直しなどさまざまな施策が必要となります。ただし、消費者のあくなき欲求が、経営者や従業員のモラルハザードの一因ともなっており、企業に責任を押し付けるだけではなく、私たち消費者の責任も考えなければならないと思います。


福田 秀人(ふくだ・ひでと)
福田 秀人(ふくだ・ひでと)
21世紀社会デザイン研究科 特任教授(企業の危機管理)

1976年慶應義塾大学商学研究科博士課程単位取得退学。企業の経営戦略の見直しと管理体制の整備・運用指導に従事。CSRについては、「CSR推進の意義と課題」21世紀社会デザイン研究6号、08年。近著に「見切る=強いリーダーの決断力」祥伝社、06年,「モットーは「着眼大局・着手小局」。現在、放送大学客員教授、慶應義塾大学非常勤講師、航空保安協会評議員。

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