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2006年度 新学部・新学科開設記念 連続シンポジウム
採録「日本のアジア政策を考える」
   
日本のアジア外交が作ってきたもの

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加藤紘一氏(自民党衆議院議員)
山口 まず最初に、わが国のアジア外交の現状をどう捉えていますか。それぞれお聞かせください。

寺島 わが国の貿易構造は、ここ3年で対米中心から対アジア中心にはっきりシフトしました。しかし意識は、長年同盟の基軸であったアメリカを引きずっている。この混迷が、アジア外交における日本の立ち位置を危ういものにしています。
 しかし、アメリカのアジア政策の基本は、大英帝国以来の「分割統治」、つまり、内部に対立を作って自分の影響力を最大化するのだということを頭に入れておく必要があります。
 国連常任理事国入りのG4案に賛成したアジアの国は、インドに配慮したブータン、モルジブのみだった。この事実を、これまでのアジア外交の結果として、しっかり受け止めなければなりません。

加藤 10年ほど前、アジアを襲った金融危機を日本が収拾して以来、かつての嫌われる存在から頼られる存在へと変わりつつあるはずなのですが・・・。G4案については、中国、韓国ばかりか、肝心なアメリカに反対に回られたのが大きかったとは思いますけれどね。
 日本は2つのことをしなければならないと思います。
 まず、自分の大きさ・重さを自覚する。経済的には、GNPが中国の3倍、韓国の10倍、その他の国とは2ケタ違う。軍事的にも、自衛隊は日本人が思い込んでいるよりずっと力を持っているのです。
  そして、戦争を自ら総括して「やむを得ない正しい戦争」という見方をやめ、指導者の責任をきちんと認める。隣国との信頼関係がなくては始まりません。

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岡田克也氏(民主党衆議院議員)
岡田 G4案問題は、対米一辺倒でやってきて、そのアメリカとすら合意を形成できないのだから、そもそも外交といえるのかどうか・・・。もちろん、アジアの安全保障を考える上で、日米同盟の重要性は今後も変わりません。しかし、その他の政治、経済の面では、例えば「東アジア共同体構想」のように、日本はもっと独自の考え方に基づいて外交政策を展開すべきです。
 その際、日本にとって損か得かという狭い見方ではなく、豊かで平和なアジアを実現するなかで、日本の豊かさ・平和を実現するという「開かれた国益」の概念を持つことが大切だと思います。

 日本がアジアの中で孤立する原因のひとつに、やはり戦争の記憶というものがあります。中国の温家宝首相の天津の実家は日本軍に焼き払われたそうですし、東南アジアの国々にも、同様な体験を持っている人はまだまだたくさんいる。その気持ちは、侵略された国の人にしかわかりません。
 ASEAN諸国とわが国の関係は比較的良好だった。しかし彼らの本音は、ODAなどの援助がほしい、また日本という大きな市場を失いたくないという面もあったのです。
 ただ彼らは、中国に対する警戒感も持っており、その点で日本のリーダーシップに期待していることも確かです。それなのに、小泉外交の振る舞いがASEAN軽視に見えてしまう。それで溝が埋まらないということではないでしょうか。

福島 ドイツの場合、隣国との信頼回復を国家戦略として最優先し、賠償・謝罪だけでなくあらゆる努力をした。その結果、フランスとの連携を軸にEUの統合も実現しました。
 もちろん日本も、そうした意思を持っていなかったわけではない。しかし、冷戦下で事実上アメリカの意向に従わざるをえなかったため、台湾を正式な政府とみなし、中国と話し合う機会を何十年間も閉ざしてしまったのです。これはアメリカの分割統治の一例でもありますが、やはり私たち自身の責任と考えるべきでしょう。
 一方で、戦争の被害を受けた途上国の場合、かつての侵略国への敵対心をあおることで国民を結束させ、政権強化の手段とすることが少なくない。残念ながら中国にもそれが見られます。このことは心する必要があるでしょう。

中国の対アジア戦略

山口 日本にとってもアジア全体にとっても大きなカギを握る中国は、今どのような外交戦略をとっているのでしょうか。

 中国は現在、ASEAN諸国と積極的にFTAを結んでいます。それも、多少相手国に有利な形に譲歩してまで。
 この点、日本は出遅れの観がありますが、それは知的財産権や投資まで含めたFTAを考えているからです。中国の場合はモノの売買に限定したレベルの低いFTAですが、それでも政治的アピール度は大きいですね。

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寺島実郎氏(三井物産戦略研究所所長)
寺島 外交政策論とは別に、経済の実体として中国はひたひたと拡大を続けています。タイ、ベトナムなど国境に接する国々との交流が非常に深まっている。そもそも「中国」という場合、経済的には香港、台湾、華僑国家のシンガポールをあわせた有機的連合体「大中華圏」ととらえるべきです。中・台の間は政治的なカベばかりが意識されがちですが、経済的にはすでに密接な関係が出来上がっているのです。

岡田 日本がどのように考えようと、中国は自国の路線を変えることはないでしょう。中国の拡大を脅威ととらえるのではなく、むしろ中国が周辺諸国と相互依存関係を深めることは、アジアにとっても日本にとっても望ましいと、大局的に判断するべきです。
  ガス田開発など、衝突する部分は確かにありますが、これも必ず双方が得をする落とし所が見つかるはず。大切なのは、協力することがお互いプラスになるという考えで臨むことです。

加藤 上海など一部の経済発展が目覚ましいとはいえ、中国全体では国民1人当たりのGNPは日本の30分の1。日本に、そしてアメリカに追いつきたいという思いは非常に強い。そのためには周辺諸国、中でも日本と仲良くしなければならないことは十分わかっています。
  ただ将来的に、中国経済が大きく成長することは確かですね。中国人は皆、米国留学して、とにかく勉強する。外国人に対してオープンで、英語も上手。日本人がかなわない特質を持っていますから。

福島 世界人口の20%を占める中国人の所得が世界の平均に達すれば、中国のGDPは世界の20%となり、アメリカは自動的に1位の座を降ります。しかしこれは、18世紀まで何千年も続いた世界の状態に戻るというだけのことで、ごく自然な流れなのです。そして日本は、中国と分業関係をつくり、うまくその流れに乗っている。そう考えるべきだと思います。

東アジア共同体構想

山口 アジアの連携ということでは、FTA などを個別に結ぶというやり方と、共同体を構築するというやり方、二つがあると思うのですが。

岡田 個別の関係を広げてネットワークを作っていくことと、共同体を構想することは別に矛盾しません。金融、エネルギー、環境問題など、多国間で協議した方が良い問題はたくさんある。もちろんEUのような形にもっていくのは容易ではないでしょうから、まず事務局のような機関を作って、個別の問題について継続的に話し合っていくことが重要だと思います。加盟国の範囲は、ASEAN10カ国に日、中、韓、インドあたりでしょうか。

寺島 僕も、個別の問題を日本がリードして解決しながら、連携のメリットを確認していく、それを積み上げて統合に至るという方法が良いと考えています。 アメリカは、アジアが統合して自分が排除されることを非常に警戒している。日本としては、アメリカを孤立させずに、しかし適切な距離を保って、アジアと重層的な関係を作ることが、「分割統治」を脱する意味でも重要です。

加藤 僕はまず北東アジア、日・中・韓3カ国の結びつきを固めるべきだと思います。ASEAN諸国は経済規模が1ケタ以上違い、一気に統合するのは難しいでしょう。それに実は、日・中・韓の統合こそが大問題なわけです。
  したがってまず、現在の6カ国協議の枠組みを、経済の面でもうまく育てていくことが重要です。本来6カ国協議は日本が主導権を握らないといけない。北朝鮮経済の面倒を見るのは、結局わが国ですからね。

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泉宣道氏
(日本経済新聞社編集局次長兼アジア部長)
 アジアの場合、民間企業による実質的な経済統合はかなり進んでおり、域内の貿易比率は02年の統計で53.3%。これはEUには及ばないものの、NAFTAをすでに上回っています。足りないのは、やはり政治のリーダーシップでしょう。
  アメリカの懸念という話がありましたが、ハーバードのジョセフ・ナイ教授は、12月の東アジアサミットには日本やオーストラリアが加わっているので心配はしていないと発言されています。

福島 EUは政治的統合はうまくいっていますが、経済的統合は必ずしもそうではない。一方日本は、民間企業が海外で250万人の雇用を生み出し、うち200万人がアジアです。相手国からも感謝されるこうした良好な経済関係を作っている例はほかにない。これは大きなベースになるはずです。中国も共同体の実現を望んでいるのです。
  ある日中共同研究の中で、中国側の研究者がこう言っています。靖国、教科書など過去の問題をいくら論じても、両国の関係修復はできない。それは、東アジア共同体構築という作業を共に進める中で、初めて可能になる、と。(これからのアジア外交への提言)

山口 最後に、これからのアジア外交はどうあるべきか、お考えをお聞かせください。

加藤 21世紀は間違いなく「アジアの世紀」になります。人口は世界の半分を占め、経済ブロックとしては、現在北米、EUの次ですが、数年で2番手として、おそらく10年でトップに立つ。この大事な時に、日・中が喧嘩しているようではダメです。
  今、日本は、「アメリカの豊かさに追いつけ」という目標にゴール目前で疑問を感じ、でも代わりになる答えが見つからない状態ですよね。しかしこれは、中国:インドをはじめアジア諸国がこれから通る道です。先に答えを見つけて彼らを導く役割を、私たちは担っているのです。

岡田 アジアの時代に、日本がその一員でいられる。これは非常に幸運なことです。このチャンスを活かしきるためには大変な努力が必要だと思いますが、それを上回る果実があると信じています。
  日本は過度に自信を喪失しているような気がします。最近の排他的ナショナリズムの傾向も、その裏返しではないでしょうか。これまで日本が成し遂げてきたことは決して小さくない。その「自信に裏付けられた謙虚さ」、すなわち、多様性を認める柔軟さ、相手を認める寛容さ、過去の過ちを認める率直さを持ってアジアの国々に対していくことが、私たちに求められていると思います。

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福島清彦
(本学経済学部教授 前野村総合研究所主席エコノミスト)
寺島 9・11以来、日本外交は「特殊なアメリカ」の力の論理に振り回された。しかし、世界はやはり、平和的統合の道を探りつつあると思います。日本は改めて、「軽軍備の経済大国」としての実績を21世紀の国家モデルとしてアピールすべきではないか。それがアジア諸国の信頼回復にもつながると思います。
 また、これからアジアは、各国がそれぞれリーダーという「ネットワーク型発展」の時代に入ります。日本は「名誉白人」的なつまらぬ自尊心を捨て、アジアの目線で対等につき合うことが大切です。
 最後に具体的な提言ですが、「アジア太平洋研究所」といった一大情報集積基地を、ここ日本に作るべきです。それは、世界中の優秀な人材をわが国に引きつけることにもなる。そもそも、北朝鮮情報をアメリカのリークに頼っているようでは、外交どころではありません。

 情報のギャップについては、われわれマスコミの一部の報道にも責任があります。例えば中国でサッカーファンがモノを投げられた事件でも、すぐに「反日」と結び付けて報道してしまうケースがありました。でも現地でよく話を聞いてみると、国内の試合でも興奮したファン同士よくあることらしい……そうした例は、残念ながら少なくありません。
  ですから、実際に出かけていって、自分の目と耳で情報を確認するということも、やはり大事だと思います。最近日本人は、ある種の閉塞感から、とかく内向きになる傾向があるような気がします。若い人たちには、ぜひ積極的に外に出て「開かれた日本」を目指してほしいですね。

福島 現在、日・中の外貨準備高はそれぞれ約85兆円。しかしそのほとんどがアメリカの国債に流れ、あの国の過剰軍備・過剰消費に使われるという異常な状態です。
 共同体構築の第一歩として、早急に通貨協力を進め、アジアの資金をアジアのために使える体制を整えることが重要です。
  また、情報集積基地については、システムづくりもさることながら、学生諸君が語学力と、分析ツールとしての政治学:経済学などを見につけ、ぜひその担い手として活躍していただきたいと思います。

山口 大変気づきの多いシンポジウムになりました。ありがとうございました。

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開催予定
7月16日(土)
文学部主催/池澤夏樹氏(作家)
『思想の道具としての日本語』
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7月30日(土)
経済政策学科主催/神野直彦氏 (東京大学教授)、小島明氏 (日本経済研究センター会長) 『グローバル化時代の人づくり』
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9月24日(土)
立教大学主催/村上龍氏 (作家)、小島貴子氏 (本学コオプ・コーディネーター) 他、トークセッション『問いを立てる能力』
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10月8日(土)
経済学部主催/加藤紘一氏(自民党衆議院議員)、岡田克也氏(民主党衆議院議員)、寺島実郎氏(三井物産戦略研究所所長)、泉宣道氏(日本経済新聞社編集局次長兼アジア部長)他 『日本のアジア政策を考える』
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10月11日(火)
経営学部主催/北城恪太郎氏(経済同友会代表幹事、日本アイ・ビー・エム会長)、中村江里子氏(フリーアナウンサー) 『グローバルに活躍する人材』
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10月29日(土)
立教大学・東京中小企業家同友会共催/林文子氏(ダイエー会長兼CEO) 『輝く未来へ〜仕事を通じて人生を学ぶ〜』
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11月3日(木)
コミュニティ福祉学部主催/レスリー・チェノウエス氏(クイーンズランド大学上級講師)他 『福祉先進国における しょうがいしゃ福祉:その実態と課題』
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11月14日(月)
現代心理学部主催/鍋田恭孝氏(精神科医)VS 香山リカ氏(精神科医) 『対談:思春期の心と身体−美しさへのこだわりの意味をめぐって−』
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11月26日(土)
理学部主催/安保正一氏(工学博士、大阪府立大学工学部教授)他、『未来を拓く魔法の新素材−光触媒の現状とさらなる可能性−』
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12月3日(土)
社会学部主催/久保伸太郎氏(日本テレビ放送網社長)他、『フルデジタルの時代へ−21世紀のテレビとは−』
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12月15日(木)
立教大学主催/玄田有史氏(東京大学助教授)、本学OB・OG、 小島貴子 (本学コオプ・コーディネーター) 『立教大学がめざすもの』
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