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2006年度 新学部・新学科開設記念 連続シンポジウム
『輝く未来へ-仕事を通じて人生を学ぶ-』
第一部 記念講演「輝く未来へ-仕事を通じて人生を学ぶ-」

多くを学んだセールスの現場

  「今日は講演とパネルディスカッションを通して、私がこれまでどうやって仕事をしてきたか、いま何を考えているかを、ハダカになってお話ししようと思います。」こうして、林さんは語り始めた。
 高校を卒業して就職するが、当時の女子社員は「職場の花」、やりがいのある仕事は、まず与えられなかった。こうした状況を「同期の男性が、営業で楽しそうに仕事をしている姿を、うらやましく眺めた、それが原点かもしれません。」と振り返る。
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林文子氏((株)ダイエー代表取締役会長)
  納得のいく仕事を求めて転職した会社で、ご主人と出会い結婚。その後も転職を繰り返しつつ共働きを続けた。やがて林夫妻は、ホンダの車を購入、この時の営業マンとの出会いが転機となる。
 「とても静かな方で、彼がトップセールスなら私でも・・・」
 近所のホンダ営業所の求人に応募。女性には無理と言われたが、結局熱意が通じたという。
 「小さな営業所で、仕事の基本は社長自らの個人指導。最後に、車が売れたらこうしてお届けするんだと、プロの洗車の技を見せてくださった。その心遣いの細やかさが、とても勉強になりました。」
 林さんは、当時本で読んだ「1日100軒」の飛び込みセールスを素直に実践する。その中で、買わないと言いつつ笑顔で応対してくれた若い奥さんに心ひかれ、度たび訪ねるうちに、風邪をひいた彼女の買い物を引き受けた。
 「勝手に押し掛けている私に、時間を割いて応対してくださるだけでありがたい。皆さんのお役に立つくらいでないとセールスなど、と気づいたんです。」
  商売抜きの「お買い物セールス」が評判になり始めた頃、例の奥さんの紹介で、そのご主人の部下に最初の車が売れたのだとか。
 「目の前のお客様に心を尽くしていれば、思わぬところに輪が広がる。身をもってそれを教えていただいた。」
  業績は自然に上がりだし、ショールーム勤務となる。「お客様は、車の売り買いであっても、やはり人との触れ合いを求めている。だから、まず相手に興味を示して人間関係を創る。そして、心に訴えるおもてなしをしたんです。」と話す林さんの売り方は、スペックの説明に終始する男性の先輩たちとは違った。ほどなく年間百数十台を売るトップセールスに。しかしさすがに過労で体を壊し、年間休日の多いBMWへ転職することになる。

 
ほめて力を引き出す

 次に林さんは、海外メーカーで初めて日本に系列の輸入販売会社を設立し、徐々に売り上げを伸ばしつつあったBMWに入社する。
 車は性能がよければ売れる、そんな一種の殿様商売を、当時のBMWはやっていた。だからセールスもどこか無造作で、サービスすなわちメンテナンスという発想しかなく、ショールームというより営業マンの詰め所のような雑然とした環境で、平気で商談をしていた。
 「女性の感覚が当時は全く入っていなかったんだと思います。でも、車1台に400万円ですよ。買うまでのプロセスもとびきり幸せな体験に演出して差し上げないと。」そう考えた林さんの「林流おもてなしセールス」はここでも力を発揮。2年目には100台近くを売り、トップを争っていた。
 6年が経過し、営業課長となっていた林さんは、女性で初めて支店長に抜てきされた。売り上げが最下位に低迷し、人員も半分に削られていた支店の立て直しを命じられたのである。女性の上司に戸惑うスタッフを、林さんは次のように分析した。
 「皆さん、とても素敵な男性でした。でも自分の魅力に気づいていない。それどころか、貧すれば鈍す、以前バリバリ車を売っていた頃のスキルすら忘れていたんです。」
 彼らにビジョンや戦略を語ってもムダだと感じた林さんは、自信を取り戻させることに専念した。
 「一緒に仕事ができて嬉しいと伝える、とにかくよいところを見つけてほめる、だめなところも頭ごなしにだめと言わない、これを徹底しました。自分が上司にしてほしかったことをしただけなんですけどね。」
 支店の売り上げをまたたく間にトップに押し上げた林さんは、4年後再び最下位の支店を任されることになった。着任してみると、状況は全く同じ。「ほめごろしの林」と陰口をたたかれてもひるまずほめ続け、叱る時は机をたたいて叱った。この支店も3カ月でトップになった。

社長の仕事は社員を幸せにすること
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高岡美佳(本学経済学部助教授)
  そして、再び大きな転機が訪れた。フォルクスワーゲンの輸入販売会社ファーレン東京の、社長就任を要請されたのだ。当時を次のように振り返る。
 「フォルクスワーゲンの日本の責任者が私に、3つのことを言いました。まず『社長の仕事は社員を幸せにすること。あなたにはそれができる。』次に『あなたが企業のトップになることは、日本の働く女性たちへの応援歌になる。』そして最後に、『私は上司として、全力であなたをサポートする』と。本当に感動しました。」
 BMWの部下たちは、人を大切にする林流を、社長となってもっと多くの人に知らせてほしいと、快く送り出してくれた。
 「私は彼らに一人前の上司に育ててもらった。部下と上司の関係は一方向ではなく、学び合いなのだと改めて感じました。」
 200人をまとめる社長となっても、林さんのやり方は変わらなかった。自らが「報連相」を実践し、社員の一人一人に機会をとらえて声をかけた。また、お客様と目線を同じくするために、勤務時間を大幅に短縮するなど、従来の業界の「常識」とは逆の改革を次々に行った。その結果、ファーレン東京は4年間ですべてが倍増という急成長を遂げる。
 「フォルクスワーゲン東京と改名した記念パーティーの会場から、喜びの笑いの渦が絶えない。これが社長の醍醐味なんだとかみしめました。」

素晴らしい社員とともにダイエーの再出発
 それから林さんは、古巣のBMWに社長として戻り、さらに1年半後、ダイエー会長に就任することとなったのだ。
 「スーパー業界は、お客様も働く人も8割が女性。ところが経営の中心にいるのは、自動車業界同様男性ばかり、女性の感覚がほとんど入っていない。私にお声がかかったのはとても意義があることだと考えたんです。それに、会社が窮況にあっても変わらぬ笑顔で接客する、素晴らしいダイエー社員の皆さんを見て、是非一緒に仕事がしたいと。」  再建に向け、林さんは5万人の従業員にアンケートを実施。それをもとに、プロジェクトチームで新生ダイエーの企業理念、戦略、変革方針を作成した。
 その中で決まった新しいスローガンを次のように紹介して、林さんは講演を締めくくった。
  「『ごはんがおいしくなるスーパー ダイエー』。そこにどんな工夫があれば食卓がより楽しく、生活がより豊かになるか。それをいつも一番近くで考えている存在に、私たちはなります。」

第二部 シンポジウム「林文子さんと語る」

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加藤治人(本学経済学部会計ファイナンス学科4年)
高岡 ダイエー会長として、日本で最も注目される女性経営者として、あるいは大変魅力的な1人の人間として、いろいろな面から林さんにお話しを伺いたいということで、パネルディスカッションとしては珍しいテーマを設定してみました。それでは早速、どなたかご質問を。

加藤 現在4年生です。これから社会に出て、あわよくば社長にまでと思っているのですが、リーダーとしての人との付き合い方のコツを教えてください。僕の場合、一生懸命になると人をほめる余裕がなくなり、怒りの感情が出てしまいがちなのですが。

 上昇志向があって頼もしいですね。相手の方への尊敬の念を持って、いいところを探すことからスタートすれば大丈夫だと思いますよ。その際、特に男の方は相手の全体をほめようとしがちだけれども、例えばネクタイ1つでもいい、気がついたところから褒めるんです。同時にあなた自身を見せるような会話を心がける。それがきっかけとなって人間関係ができていけば、仮に感情的になってしまっても通じるものはあるはずです。

杉本 私は中小企業同友会の教育委員をしているのですが、社員教育にはどのような理念であたっておられますか。

 やはりすべては人から始まると思うんです。そして、押見総長も良くおっしゃっるように、教育は「コラボレーション」、一方的に教え育てるのではなく、お互いに強みを引き出し合うことだと考えています。

杉本 企業再建にあたり重要なのは意識改革だと思うのですが、林さんが社員に最も強く訴えたいことは何ですか。また、新しい経営理念を作る過程では厳しい意見もいろいろ出たと思うのですが。

 全従業員が共有すべき行動指針の冒頭で、「お客様の声にすべての価値の原点を求める」と言い切りました。それから、あなたの再生がダイエーの再生である、会社の窮境も見方によってはチャンスですから、そこであなた自身がどれだけ飛躍できるかが大切だと。全従業員アンケートの中では、お客様と日々接しているパートの方々の厳しいご意見が大変参考になりました。創業者のもとでずっとやってきたダイエーには、上の者にきちんと意見を言うという風土が、やはり不足していたようです。

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竹内緑(本学経済学部経営学科4年)
竹内 先日学生何名かで練馬店を見学させていただいた際、野菜がとても新鮮でおいしそうに見えました。ご著書の中にも「ショールームを演出する」という言葉がありましたが、店舗は具体的にどのような方針で変えていかれるのですか。

 スーパーは地域の皆さまの毎日の台所・冷蔵庫ですから、そんなに奇策・奇略はありません。むろん鮮度は重視していますが、それよりむしろ、そこにいる従業員が元気で明るい、その「気」が野菜を輝いて見せたのではないでしょうか。隅々まで清潔であること、お客様と従業員が自然にコミュニケーションをとれること、そんな平凡な積み重ねを大切にしていきます。

内海 これまでのダイエーのイメージはやはり価格破壊。でもこれからは、消費者の価値観がどんどん多様化していく。それにどのように対応していかれるのでしょうか。

 ひとつの商品を大量に仕入れて、どの店舗も金太郎飴のように、というチェーン展開のメリットは、もう生かせない時代になりました。今後は、食品中心の小規模な店舗、百貨店的な性格をもった店舗、専門店をテナントとして入れるなど、さまざまな選択肢の中から、地域の特性に合わせて戦略を考えるしかありません。
 その中で、お惣菜に工夫を凝らして働く女性を応援していきたいですし、高齢の方のニーズには小分け売りなどで対応していきます。

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内海節子氏(京浜容器株式会社 代表取締役社長)
内海 働く女性といえば、私だけでなくこれから社会に出ようという女子学生のみなさんも聞きたいと思うのですが、超多忙な林さんが仕事と家庭を両立させてこられた秘訣は何ですか。

 週に1度は手料理を。食べ物が大半の問題は解決してくれるような気がします(笑)。あとはノロケになりますけど、結婚記念日など特別な日に手紙を書く、私を選んでくれてありがとうと折りに触れて言葉にする、若いころのロマンチックな思い出を語る、などなどいろいろやっています。ぜひお勧めしたいのは、ご主人と2人でお出かけというときに、別々に出てどこかで待ち合わせをすること。ちょっとときめきますよ(笑)。

高岡 ご主人に対しても社員に対しても、あなたが好きだ、あなたを気にかけているときちんと伝えることが大事だという点では同じですね。会場の方からご質問はありますか。

聴衆1 「おもてなし」をコンセプトにしたスーパーが他にも出てきていますが、どのように差別化を?

 高級食材をそろえて、といったお店もあるようですが、それとはもちろん方向性が違います。私の考えではやはり大切なのは、店員のホスピタリティーで、ここに力を入れていくのですが、お客様にご満足いただくのはなかなか難しいですね。

聴衆2 新生ダイエーのミッションの中で、林さんが最も強く訴えたいものは?

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杉本惇氏(株式会社中経出版 代表取締役社長)
 行動指針の2番目に置いた「私たちはお互いを認め合います。明るい笑顔のチームワークでオープンコミュニケーションに努めます。」ハダカになって相手にぶつかることは簡単ではないので、「努」という字を使いました。

高岡 最後に、次世代の経営者や学生たちにメッセージをお願いします。

 ここにいらっしゃる皆さんの規模くらいの会社が、日本の経済を支えています。そしてまた、それは社員同士の一番いい関係が作れる規模でもあると思います。ご一緒に、楽しく前向きに仕事をしていきましょう。そして学生の皆さんも、あまり先のことを思い悩まずに、先輩を信じて飛び込んできてください。

高岡 ありがとうございました。

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開催予定
7月16日(土)
文学部主催/池澤夏樹氏(作家)
『思想の道具としての日本語』
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7月30日(土)
経済政策学科主催/神野直彦氏 (東京大学教授)、小島明氏 (日本経済研究センター会長) 『グローバル化時代の人づくり』
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9月24日(土)
立教大学主催/村上龍氏 (作家)、小島貴子氏 (本学コオプ・コーディネーター) 他、トークセッション『問いを立てる能力』
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10月8日(土)
経済学部主催/加藤紘一氏(自民党衆議院議員)、岡田克也氏(民主党衆議院議員)、寺島実郎氏(三井物産戦略研究所所長)、泉宣道氏(日本経済新聞社編集局次長兼アジア部長)他 『日本のアジア政策を考える』
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10月11日(火)
経営学部主催/北城恪太郎氏(経済同友会代表幹事、日本アイ・ビー・エム会長)、中村江里子氏(フリーアナウンサー) 『グローバルに活躍する人材』
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10月29日(土)
立教大学・東京中小企業家同友会共催/林文子氏(ダイエー会長兼CEO) 『輝く未来へ〜仕事を通じて人生を学ぶ〜』
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11月3日(木)
コミュニティ福祉学部主催/レスリー・チェノウエス氏(クイーンズランド大学上級講師)他 『福祉先進国における しょうがいしゃ福祉:その実態と課題』
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11月14日(月)
現代心理学部主催/鍋田恭孝氏(精神科医)VS 香山リカ氏(精神科医) 『対談:思春期の心と身体−美しさへのこだわりの意味をめぐって−』
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11月26日(土)
理学部主催/安保正一氏(工学博士、大阪府立大学工学部教授)他、『未来を拓く魔法の新素材−光触媒の現状とさらなる可能性−』
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12月3日(土)
社会学部主催/久保伸太郎氏(日本テレビ放送網社長)他、『フルデジタルの時代へ−21世紀のテレビとは−』
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12月15日(木)
立教大学主催/玄田有史氏(東京大学助教授)、本学OB・OG、 小島貴子 (本学コオプ・コーディネーター) 『立教大学がめざすもの』
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