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香山リカ対談
これからの社会の”成熟のかたち”を考える
評論家 宮崎哲弥×立教大学教授・精神科医 香山リカ

4月1日掲載

「政治とメディアと有権者の関係」は今が“分水嶺”

  • 宮崎哲弥イメージ
  • 問題なのは、ここから有権者が成熟していくのか、単純なポピュリズム的なものに流されていくのかということ

  • 香山リカイメージ

香山リカ(以下、香山) 普段テレビ番組などでご一緒することの多い宮崎さんですが、ゆっくりお話する機会は意外と少なかったので、今日は楽しみにしていました。
本日、最初にお伺いしたいテーマは、「政治とメディア」です。ここ数年、私もこの問題に関心を持ってきたのですが、少し前のいわゆる「小泉劇場」という現象がどうも腑に落ちないんです。宮崎さんはあの時から何か変わったと感じていますか。

宮崎哲弥(以下、宮崎) 長期トレンドとして従来の自民党型組織選挙の基盤が崩れつつあった。農協や医師会に代表されるような各種職能団体、あるいはひとまとまりになった財界、野党系でいえば労働組合などが、大都市圏のみならず地方においても激増する無党派層に侵食されていたというのは事実です。それに替わる新たな装置として、無党派層の意見を集約=統制し得るメディアの機能や権能が浮上してきたという構図でしょう。

香山 それは、個人の自我が成熟した結果と言えるのでしょうか。

宮崎 伊丹十三がかつて『日本世間噺大系』で「スーパー民主主義」と揶揄したような、利権談合共同体選挙と訣別しつつあるという意味では成熟といえるかもしれない。しかし、共同体という“外被”が落剥した後に、社会ネットワークの結節としての「個」の利害が出るかと思ったら、マスコミが隙間をゼリー状の“外被”で補充してしまったというイメージかな。

香山 組織が瓦解し、放り出された個人がメディアに走ったということですね。

宮崎 東国原宮崎県知事や橋下大阪府知事の地滑り的大勝も、こうしたメディア的政治意思形成に基づく選挙の流れの中にある現象といえるでしょう。それは社会構造の変動に連なる動きですから、単純なポピュリズム批判で片付けられるような問題ではないのです。

香山 メディア型選挙においては、有権者は何を基準に政治家を選択するのでしょうか。

宮崎 まず見た目でしょうね。容姿と声。しかし、モデルのような容姿、オペラ歌手のような声が有利とは限りません。ここが難しいところですが……。それから、印象的なワンフレーズの立て方の巧さでしょう。

香山 確かに、石原都知事再選の時も橋下知事大勝の時も、出口調査では「人柄がよさそうだから」と回答する人が多かったように記憶しています。

宮崎 出口調査に「声も含む外的魅力」という項目がないから、その要素は「人柄」に吸収されているんですよ。

香山 ここ数年はマニフェスト型選挙をしようという動きもあります。

宮崎 マニフェストも、当初の推進者たちの目論見とは異なり、イメージ化が進んできているような気がしますね。マニフェスト中の、「改革」のイメージの濃い項目には高い評価が付けられ、「現状維持」的な項目にはマイナスのイメージが付着するような記号的操作が無意識のうちになされているような気配もありますから。

香山 小泉さんの郵政解散の時もこれで命運尽きたと思いましたが、逆に争点を絞ったことで大勝してしまいましたね。

宮崎 そこが彼の凄いところです。窮地に立ったとみせて、有権者の関心と同情を惹く。そして、いつのまにか大勢は小泉氏の勝利になっているのです。彼はそこまで読み切って勝負を仕掛ける。この野性的直感、政局観は政界随一。余人には真似できないことです。

香山 一方、年金未納発覚時の「人生いろいろ」発言は問題になりました。でも、なんだかうやむやになってしまいましたよね。

宮崎 かつてレーガン大統領が「テフロン加工大統領」と呼ばれたことがあります。どんなに失政や失言を非難されても、人気や支持率には少しも響かないことを、汚れが付着し難い合成樹脂加工の施されたフライパンなどに喩えたわけね。
ラカン派理論家のジョアン・コプチェクは、この「テフロン加工」を、彼が現実に何を語ったか、何を成し遂げたかによっているのではなく、レーガンのなかに超越的な主体性が見い出されたために生じた性質だと論じています。「アメリカ人がレーガンを愛するのは、彼の口からでる言葉ゆえではなく、ただ彼がレーガンであるからなのである」(『わたしの欲望を読みなさい』青土社)と。
メディア型選挙になるとどうしても「ただこの人」であるが故に好み、嫌うという要素が強くなります。マニフェスト論者というか、政策本位の選挙を理想とする人々の課題はこの流れにどう対抗するか、にあると思う。

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