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香山リカ対談

「変わりゆく日本女性の生き方」その背景に流れるもの
エッセイスト 酒井順子×立教大学教授・精神科医 香山リカ

2008年6月1日掲載

“それが当たり前”という思想は意外に強い

  • 酒井順子イメージ
  • 今のところ、振り子を行ったり来たりしているだけで、多様性という方向にむかっていこうともがいているという段階でしょうか。
  • 香山リカイメージ

香山 今までの話の流れからすると、「結婚なんてしなくてもいいもん!」などと、肩ひじ張っていた私たちの世代の方が実は特殊なのかもしれないとも思えてきちゃいますね・・・。ところで、酒井さんもお読みになったとおっしゃっていた水木しげるさんの奥様が書いた『ゲゲゲの女房』(武良布枝著、実業之日本社)を先日私も読んだのですが、この奥様がすごい。水木しげるさんも彼女を「生まれたから、生きているという人」と表していますが、彼女には“人に依存しないで生きていく”という発想は最初からなかったそうですね。水木さんとお見合いして一日で結婚を決め、水木さんに「アシスタントをしろ」と言われればして、「引っ込んでいろ」と言われれば引っ込み・・・という感じの人生だったそうです。さすがに時々寂しくもなったりもするのですが、旅行に連れて行ってもらうと安心する、みたいな。

酒井 でも、かえってそれくらいの感覚でいた方が幸せって寄ってくるような気もしますが・・・。

香山 え、何ですって!?今の発言は、戦後の女性の歩みを全否定するようなものなんですけどー。

酒井 そ、そうですか?でも、私たちの親の世代ってみんな水木しげるさんの奥さんみたいだったなぁって思いますよ。他人のお金を使って生きていく宿命みたいなものを何とも思わないで生きていけたという意味で。

香山 なるほどねえ。きっと、日本では「それが当たり前」「そういうものだ」という力って意外に強いんですよね。

酒井 そう思うと、ほんの数十年で相当変わった感じがします・・・あ、でもそんなこともないですね。今の女子大生が「男の人は大変、私は就職したくない」などと思うのも、昔の価値観と実は地続きのものかもしれませんから。

香山 確かにそうかもしれませんね。その一方で、「結婚するのが当たり前」と思って結婚したものの、今になってこれでよかったのかと悩みはじめる人も増えていますよね。その受け皿になっているのが、韓国ドラマだと思うんです。私はあれは女性の葛藤(かっとう)のものすごい回収装置になっていると思います。

酒井 意外な人が実は韓国ドラマファンだとわかってびっくりすることも多いですよね。

香山 そう。ドラマなんだけど、たまにヨン様が日本に来たりするので“現実”でもある。旅行や語学勉強のモチベーションにもなる。ただの夢物語よりは現実的にいろいろやることがあったりするから、そこで現実逃避として気が済んでいるところもあります。

酒井 それで、気が済んでいる間は平和ですね。

香山 今日お話して、各世代でいろいろな生き方や価値観が見えてきましたが、あえてまとめるとすると、後で修正するにしても一応ライフプランのようなものを若いうちにきちんと持っておいた方がよいということでしょうか。もはや取り返しがつかない私としては、なんだか悲しいのですけど・・・(笑)

酒井 私もすでに悲しいです(笑)

香山 私は自分が学生の頃は、これからの社会ではもっと多様な生き方や家族形態が認められるようになっていくと信じていたのだけれど、実際は少し違いましたね。昔の価値観に揺り戻されている感じ。

酒井 本当に、“ちゃんと結婚した後に出産”思想は意外に根強いですよね。

香山 今のところ、振り子を行ったり来たりしているだけで、多様性という方向にむかっていこうともがいているという段階でしょうか。

酒井 実は私は今、日本、中国、韓国の負け犬の比較研究をしているのですが、大きな結論としては、いずれの国でも儒教の影響が強いということを感じます。「家」というものがないと安心できないという。

香山 なるほど。確かにそういう側面はありますね。儒教、恐るべし!ご成果が本になるのを楽しみにしていますね。私としては、そういったたくさんの研究もふまえた上で、いろいろな価値観が認められるような社会に少しずつ変わっていけばいいなと思っています。もちろん、現在籍を置く立教大学でも、女子学生のキャリア支援をしっかりサポートしますよ!
今日はいろいろなお話ができて本当に楽しかったです。ありがとうございました。


酒井順子署名 香山リカ署名

酒井 順子(さかい・じゅんこ)
酒井 順子(さかい・じゅんこ)
1966年東京生まれ。立教大学卒業後、広告会社勤務を経てエッセイストに。

『負け犬の遠吠え』が婦人公論文芸賞、講談社エッセイ賞受賞。近著に『都と京』『枕草子REMIX』『女子と鉄道』『いつから、中年?』等。

香山 リカ(かやま・りか)
香山 リカ(かやま・りか)
1960年札幌生まれ。東京医科大学卒業。精神科医。立教大学現代心理学部教授。

臨床経験を生かして、新聞、雑誌などの各メディアで、社会批評、文化批評、書評など幅広く活躍。著書に、『いまどきの「常識」』『ぷちナショナリズム症候群』『なぜ日本人は劣化したか』。