メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

12月13日朝日新聞デジタル朝刊記事一覧へ(朝5時更新)

新着記事一覧へ

香山リカ対談

2012年7月2日掲載

これからの社会で求められるグローバルな人材とは?

香山 コミュニケーション能力について考える際、私たち精神科医の間では、アメリカでの診断基準が世界標準となっています。ところが、どうもそぐわないケースがあるようです。それは、社交の場においてネガティブな評価を受けたり、他人に辱められたりすることに強い不安を抱く「社会不安障害」という精神疾患があるのですが、この基準に照らすと、日本人の引っ込み思案な性格や奥ゆかしさまでが、この疾患に当てはまってしまうということが、問題視されています。そして、コミュニケーション能力が高い人の定義が、何でも主張できて、初めて会った人とでも社交的に会話ができたり、堂々とプレゼンテーションできたりといったステレオタイプに限定されてしまうのです。グローバル化やダイバーシティが叫ばれる中で、こうした画一的な人材を育成することが大学の役割だとしたら少し疑問です。私としてはもっといろいろな人が居てもいいと思います。シャイな人、あまり自己主張しない人など、それぞれにいろいろな良さがあってもいいと思うのですが、池田先生はどう思われますか。

池田 同感です。実はグローバルな人材という言葉が独り歩きしているのではと感じることがあります。ここで、「グローバルな人材=世界を舞台に適切な役割を果たしていける人材」と考えれば、そこにはさまざまな役割があって当然です。ぐいぐい引っ張っていくリーダーシップを持った人材も必要ですが、異文化コミュニケーション学部が一番大切にしているのは、相手の置かれている環境や文化、そして価値観などを理解し、尊重した上でコミュニケーションを図ることができる、そして人と人をつなぐことができる、そのような人材の育成を目指すことです。

香山 グローバル化というと、一部の先進企業や外資系企業における話だと思われがちですが、実はそうではありませんよね。例えば、昨年の大震災の際、東北で被災した外国人の実態についてはあまり知られていません。農村や漁村に海外から嫁いで被災した場合の補償やその後の生活支援といった問題や、不法滞在の外国人の把握など、国内のいたるところでグローバル化への対応が急務となっている現代において、言語というツール以外にどのような能力が必要と考えられますか。

池田 そうですね。グローバル化というと、海外に進出していくことに重点が置かれがちです。しかし、いまや東京をはじめとした都市部には、多くの外国人が暮らし、多文化な環境にあり、グローバル化しているといえます。今後、そうした異文化が共存するコミュニティの中で、一人の人間としてどう役割を果たしていくかを考えられる、そういう力がグローバル社会においてとても大切になってきています。海外に出かけて行くことだけがグローバル化ではありません。これから人口が減っていく日本が、どう海外からの人材を受け入れるかということも考えていく必要があるのです。

香山 多文化コミュニティの中で必要とされる人材を育成するために、異文化コミュニケーション学部では、何か特徴的な取り組みをされているのでしょうか。

池田 留学から帰国した3年次に、留学中の経験を糧に、専門的な知識を深めていきます。そのため、「異文化コミュニケーション領域」「言語教育領域」「複合地域文化領域」といった3つの専門研究領域を設け、自ら興味のある領域について専門的に学べるカリキュラムとなっています。こうした専門的な学びを通して、企業におけるグローバル化への対応はもとより、国際開発、国際協力という視点で、いろいろな地域の人が共生するコミュニティにおいて、核となって引っ張っていくばかりではなく、コミュニティの構成員同士を核となって結び付けられる、そういう人材に育ってほしいと願っています。

香山 異文化コミュニケーション学部で専門的な知識やスキルを身に付けた卒業生にとって、今後ますます活躍の場が広がっていくと考えられますね。

池田 今年第1期生を送りだしましたが、企業への就職はもちろん、教員としての採用や大学院への進学など、異文化コミュニケーション学部にふさわしい、多彩な進路となりました。

香山 異文化理解というニーズが、さまざまな分野に広がっていることの表れでしょうか。本日はありがとうございました。


池田 伸子(いけだ・のぶこ)
立教大学異文化コミュニケーション学部長、同学部教授。異文化コミュニケーション研究科言語科学専攻教授

1986年国際基督教大学教養学部語学科卒業。94年同大学教育学研究科(視聴覚教育専攻)博士課程前期課程修了。97年同大学同研究科(同専攻)博士課程後期課程退学。同年九州大学留学生センター助教授。2000年博士号(教育学)取得(国際基督教大学、論文博士)。2002年立教大学経済学部助教授。04年同大学同学部教授。08年同大学異文化コミュニケーション学部教授。12年4月より同大学同学部長、異文化コミュニケーション研究科言語科学専攻教授に就任。専門は日本語教育、教育工学。主著に『CALL導入と開発と実践―日本語教育でのコンピュータの活用』。

香山 リカ(かやま・りか)
立教大学現代心理学部教授、精神科医

1960年札幌生まれ。東京医科大学卒業。臨床経験を生かして、新聞、雑誌などの各メディアで、社会批評、文化批評、書評など幅広く活躍。著書に、ベストセラーとなった『しがみつかない生き方』『勝間さん、努力で幸せになれますか』ほか、『がんばらなくていい生き方』『そこからすべては始まるのだから 大震災を経て、いま』『気にしない技術』『「看取り」の作法』など多数。