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香山リカ対談

2012年11月1日掲載

チャペル主催キャンプに参加した学生に見られる変化とは

香山 八木チャプレンが担当されている「奥中山ワークキャンプ」はどのようなプログラムなのでしょうか?

八木 奥中山ワークキャンプは、岩手県の奥中山にある社会福祉法人カナンの園の知的しょうがいと共に生きる方々の生活の場「小さき群の里」を訪問させていただき、労働を通して施設利用者の皆さんや職員の皆さんと交流を図りながら、参加者自らが自分自身と向き合い、他者と向き合うことを目的としています。私はこのキャンプに、立教大学着任以来、毎年担当チャプレンとして参加しています。

香山 キャンプに参加した学生はどのようなことを感じ、学びとるのでしょう?

八木 このキャンプの魅力を説明する際、私は奥中山には「何もないけど全てがある」というフレーズを用いています。奥中山には文明社会を象徴するようなものはほとんどありません。最寄り駅までは歩いて1時間、電車も1時間に1本、歩いて1時間もかかるコンビニなど、不便さを数えればキリがありません。しかし、そんな「何もないところ」にいったん身を置き、人とすれ違うことすら少ない日常では、道で人に出会うことが喜びになります。だから見知らぬ人とも自然とあいさつを交わすようになる。また、日が暮れると辺りにネオンサインなどはなく暗闇となり、遊びに出かける場所もないから誰かと共に過ごすことや語り合うことこそが貴重な時間だと実感できるようになるのです。
つまり、文明の利器が生活の中から消える奥中山では、それによって不便さを思わされるのではなく、本当の、自然体の人間の営みとその豊かさを思い出させてくれる。つまり「全てがある」のです。

香山 キャンプの参加前と参加後で学生に何か変化は見られますか?

八木 大いに変わります。分かりやすい例を一つご紹介します。参加者の一人に、大手企業に内定を得ていた学生がいました。彼は、このキャンプに参加することで、人と触れ合うことの楽しさや豊かさに気づき、自らの生き方を見つめ直したのです。このまま大手企業に入社することが果たして自分の生き方なのだろうかという疑問を持ち、じっくりと家族や私たちチャプレンとも相談した上、内定を辞退しました。そして大学院に進学し、現在は福祉施設で働いています。まさに生き方が変わったのです。

香山 生き方まで変えてしまう魅力がこのキャンプにはあるのですね。先生は10年以上、親身になって学生と接してきた中で、学生たちとの関係やコミュニケーションにおける変化を感じることがありますか?

八木 この10年で、コミュニケーションの中心が、実際の会話からメールへ、メールからフェイスブックやツイッターといったSNSと呼ばれるツールに移行しました。コミュニケーションは本来双方向であるはずなのですが、SNSの世界では、自分が関心のあることだけに反応するという一方通行的な側面があるため、日常のコミュニケーションにおいても、自分の関心事からそれた場面になると反応しないということが生じ、結果、加速度的にコミュケーションを不得手とする学生が増えていると実感しています。コミュニケーションとは何か、また、震災後によく言われる、絆とは何かということについて、いま一度考える必要があると思います。こうした課題に向き合うきっかけを与えてくれるのが、まさにこの奥中山ワークキャンプをはじめとした正課外教育なのです。