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独特の食感で、デザートとして人気の高いあの食品「ナタデココ」が、がんの診断装置をはじめとする最先端ナノテクノロジーの主役に!そんな画期的で、しかも非常に意義の大きい研究を進めているのが、立教大学理学部・化学科の田渕助教授だ。興味深いその研究内容とともに、理科・理学を学ぶことの大切さと楽しさを伺った。
菌が作ったナノテク素材が「がん」を的確診断
ナタデココをがんの診断に活用できないだろうか・・・ この、突飛とも思えるアイデアが浮かんだのはコンビニで買い物をしている時でした。当時私が参加していた、ナノテクノロジー(ナノテク)を応用した、がん診断システムの研究プロジェクトが、やむをえない事情で解散。使える資金も設備も限られる中、何とか研究を続けられないか、と悩んでいた私の目が、ふとデザートの棚に止まったのです。
ナタデココは発酵食品の一種で、成分の99%は水、残りの1%はバクテリアの作り出すセルロースという物質の繊維です。この繊維は、幅数十〜100ナノメートル(以下nm)、厚さ数nmのリボン状で、それが複雑にからみ合って立体的な網目構造を作っています。以前、全く別の目的でナタデココを研究した時に得た知識が、進行中の研究内容と不意に結びつきました。
1nmは1mの10億分の1で、H2O、CO2といった分子1つ1つの大きさを測るのに適した単位です。最近よく耳にするナノテクは、このnmで測られるような極小の物質をコントロールする技術のこと。つまりナタデココは、バクテリアによるナノテク製品にほかならない、そう気づいたわけです。人類が近年、ようやくたどりついた最先端技術を、バクテリアは涼しい顔で使っていたのです。
早速実験を行なってみると、ナタデココの実力は予想をはるかに上回っていました。
がんは、異常を起こした遺伝子によって引き起こされます。したがって、血液を分析し、こうした遺伝子の有無を調べることにより、がんにおかされているかどうかを診断できるのです。
ナタデココの網目構造をフィルターとして使うと、まず、血液中から検査の妨げとなる物質を効率的に取り除くことができます。
さらに、バクテリアを培養する際の条件を変えて、網目の細かさを適切に調節することにより、そこを通り抜ける速さから遺伝子の異常を容易に見分けられるのです。
また、繊維の間にたまる水を微細な鏡として利用して光を増幅し、遺伝子の構造のようなナノの世界を観察する場合の感度を大幅に上げることにも成功しました(CDを作る時に用いる技術もこれを応用しています)。
こういったことから、コンビニでの思いつきは、大変な発明に結びつきそうなのです。
社会に貢献する新技術を立教大学、日本から
ナタデココを使ったがん診断システムのメリットはたくさんあります。
まず、先ほど紹介した機能のすべてをクレジットカード大のデバイス(装置)に収めてしまうことができます。しかも原料はデザートと同じナタデココですから大変安価で、医療費高騰の抑制にも寄与します。
また、従来がんの診断には、最短でも2〜3週間かかっていますが、これでは早期発見が大切といいながら、万一の場合、検査中に進行してしまうことにもなりかねません。その点、このデバイスなら、採血したその日にも結果を出すことが可能です。しかも、精度が非常に高いのです。
さらに、生物が作り出したナタデココは生分解性(細菌などによって水・二酸化炭素などに分解されてしまう性質)にすぐれ、焼却処分をしても環境負荷はほとんどありません。何千年も食べられ続けている食品ですから、人体への安全性も証明済みです。
このがん診断デバイスは現在、試作品の段階で、まずは医療の現場で性能を検証してもらうための製品化を目指し、研究開発を進めています。今後はさらに、ナタデココをさまざまなナノテク技術に応用する研究も行なっていく予定です。そこでは、環境にもヒトにも優しいという特徴が、より大きなポイントとなるはずです。
今のところ、ナノテクの視点からナタデココに注目しているのは、世界でも私だけのようです。ただ日本には、このような新しい研究に対して、国などの補助が出にくいという困った現状があり、研究資金の調達をはじめ苦労は少なくありません。そうした中で、私の研究の価値を認めて、活動の場を与えてくれた立教大学に感謝しています。
ぜひとも、人々や社会への大きな貢献が期待されるこのナタデココによるナノテクを、立教大学発、そして日本発の技術として確立したいと願っています。
身近な疑問の解決から発明へ――理学を学ぶ醍醐味
もし、あなたがナタデココを食べて、そのコリコリした食感の正体は何だろうと興味を持ち、調べてみたとしたら・・・。あなたはバクテリアの驚くべき仕事ぶりを知ることになり、それがもしかしたら世界的な発明につながるかもしれない。これこそが、理科・理学を学ぶ醍醐味だと、私は考えています。
最近、学生の理科離れが問題になっていますが、私には信じられません。こんなに面白いものを勉強しないなんて、非常にももったいないと思います。
たしかに、学校での理科の教え方には問題があるのかもしれません。実験や観察もろくにせず、紙の上だけで、それも原子・分子といった見ることも触れることもできないものの性質から覚えさせられてしまう。これでは、理科は難しい、つまらないと思ってしまうのも無理はないでしょう。
ですがもともとは、化学をはじめとする理学の研究はすべて、たとえば「なぜリンゴが落ちるのか」といった身近な疑問・興味から出発しているのです。そしてまた、その研究成果は、私たちが日常使う工業製品のすべてに生かされています。一般には、モノ作りは工学の領域で、理学は地味な基礎研究ばかりと思われているかもしれませんが、理学的研究の裏づけのないモノ作りなどありえません。実は私は、これまでどちらかというと工学系の研究機関で仕事をしてきたのですが、その中で理学的研究の重要性を強く実感したのです。
立教大学理学部には、4つの学科があります。すべての科学技術の基礎となる数学と情報科学を扱う数学科、極小の素粒子から極大の宇宙まであらゆる物質のふるまいを追究する物理学科、分子レベル・細胞レベルで生命活動の根源を解明する生命理学科、そして私の所属する化学科は、身の周りの物質の性質や変化を化学現象として研究しつつ、とくに環境問題への化学的アプローチに力を入れています。私自身、この4月に着任したばかりなのですが、文系大学のイメージが強い立教大学にあって、理学部の設備の充実ぶり、研究レベルの高さに驚きました。徹底した少人数制の授業は、教える立場からとしても喜ばしいことです。
高校生の皆さん、興味が尽きることのない自然の理(ことわり)を、立教大学理学部で一緒に学びましょう。そして、あなたのあふれるアイデアを未来の科学技術につなげてみませんか。
たぶち まり(Tabuchi Mari)
中央大学理工学部卒業。東京大学医学部附属病院分院研究助手。味の素株式会社中央研究所勤務。株式会社バイオポリマー・リサーチにてナタデココの研究に従事。徳島大学工学部NEDO研究員、同大学薬学部NEDO研究員、CREST研究員、同大学ヘルスバイオサイエンス研究部COE特任講師を経て、2006年4月より立教大学理学部化学科助教授。主要研究テーマは、ナノバイオサイエンス。環境、生体に優しい素材を探索したり合成してナノレベルで徹底解析し、その特性を引き出しヒトや社会に役に立つものへの応用に導く、ナタデココはその1つ。 |
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「団塊の世代と<セカンドステージ市民大学>」
経営学部教授 笠原清志
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「職業だけでなく人生の「キャリア」」
キャリアセンター事務部長
加藤敏子 |
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