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Rikkyo Voices 社会情勢に対する立教大学からの提言
表情を読むしくみ 相手の表情を見るとき、目はどのように動くのか? 教授 長田佳久
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 私たち、ヒトは極めて多彩、多様な顔を持っており、しかもその違いは微細で、瞬時にその違いを識別しています。私たちの周りを見渡してみても顔ほど微妙な違いを持つ対象は存在していません。人物同定という他者を識別するだけではなく、感情の表出、その変化、年齢、性、人種、魅力、性格、態度、場合によっては職業など様々な特徴を顔から知ることができます。顔はその人についての客観的情報と内的、主観的状態を合わせ持っています。私たちの研究室では、表情や人物同定など顔認知の研究を精力的に続けてきて、新しい事実を発見してきました。

 顔研究ではしばしば静止した写真の顔(静止顔)を使い表情認知の研究をしますが、顔の何を手掛かりにして表情を認知しているかは議論の分かれるところでした。顔を構成する眉、目、鼻、口といった個々の形態の変化を手掛かりとしているのか、それともそれらの部分的特徴間の配置の変化を手掛かりとしているのかということです。マンガのような線画による静止顔(シェマティックな顔)を使って、定型化した眉、目、鼻、口を変化させた6つの典型的な表情(喜び、驚き、悲しみ、嫌悪、恐れ、怒り)を実験参加者に判断してもらいました。顔のパーツである眉、目、鼻、口を福笑い遊びのようにランダムに取除くと、表情に特徴的なパーツの形態(例えば、喜びでは、口が大きく開き、眉が八の字になる等)を手掛かりにして表情を判断しますが、パーツ自体が減ると当然のことながら表情の判断は困難になります。ところが驚いたことに、シェマティックな顔ではなく、静止顔の写真では、パーツを隠しても実験参加者は表情を正確に判断しました。何を手掛かりに表情を判断しているかを探るために、実験参加者の目の動き、眼球運動をミリ秒の単位で追跡すると、表情を構成する眉、目、鼻、口という部分よりも、それらの形を変えている表情筋によってでき上がるシワ(皮溝)に眼球が動いていることを発見しました。(Figure 1)
Figure 1. 表情読み取りの眼球運動の軌跡、数値は注視点の停留の長さを示す。
なんと、表情に伴うシワが表情認知に重要な役割を果たしていたのです。さらにシワが顔全体の低解像度の情報(画質の粗い画像)を構成し、特定の表情の認知と深く関係していました。この成果は理化学研究所特別研究員、長坂泰勇氏(本学博士課程後期課程満期退学、2004-6アイオワ大学心理学部特別研究員)との共同研究で明らかにしたものです。

 ところで、私たちの日常では静止した顔を見ているわけではなく、表情は絶えず変化して動いています。本学現代心理学部の本間元康助手(本学博士課程後期課程退学、本学アミューズメント・リサーチセンター心理プロジェクト研究者)との共同研究では、静止顔ではなく、動画像を見せて表情を判断してもらうと、動いている動画像の表情は、静止画像より早く表情が読み取れることがわかりました。顔動画像は表情の読み取りにポジティブな役割を果たさないとここ数年言われてきましたが、事実は逆でした。

 また、眼球運動はどのようになるのでしょうか。表情のない中立的な顔から特定の表情に変化する動画像、例えば、中立から典型的な笑顔までの動画像を見せると、眼球運動は極めて少なくなり顔の中心から動かなくなります。他方、先の例で述べたように静止画像では、眼球運動はかなり移動します。(Figure 2)
Figure 2. 静止画像における注視点
表情を認知するため、静止画像では探索的に動いていた目は動画像では動かなくなります。(Figure 3)
Figure 3. 動画像における注視点
動画像を見ているときには、目を動かさなくても顔のパーツやシワが動くので、表情判断の手掛かりが得られます。おそらくこれが眼球運動を抑えている原因と考えられます。

 私たちの目の機能を見ると、色や形など様々な視覚情報は目の最も視力が良いわずかな領域(中心窩)を使って、くっきりと高い解像度で捉えられています。これに対して目の周辺部は、視力は驚くほど低いのですが、動きの情報には敏感です。この機能によって、私たちは相手の表情を見るときに自分の目を動かさなくても済んでいる訳です。

 顔研究はさらに進展しています。Hull大学のChan Hon Liu専任講師(本学アミューズメント・リサーチセンター心理プロジェクト研究者)との共同研究では、正面顔の写真だけを使って斜め顔をコンピュータで作成し、2つの顔画像の人物同定の可能性を追求しています。1つの顔画像から他の角度の顔画像を作成し、犯罪捜査などで活用できる応用的研究にも世界に先駆けて着手しています。

 これらの探求は基礎心理学研究を深化させる研究でありますが、それとともに、時代の激流に流されるかのように急激に変貌し、荒んできている人間のこころと社会、コミュニケーションなどの問題の解決に向けて貢献することが期待されていることとも深いつながりがあります。

本研究は、平成17〜21年度文部科学省オープン・リサーチ・センター整備事業による私学助成「心理アミューズメントの技法及びコンテンツに関する研究」、平成16〜18年度文部科学省科学研究費「顔の動きが顔認知に及ぼす効果−眼球運動分析による検討−」、及び財団法人コスメトロジー研究振興財団「顔の運動情報が表情認知に与える効果に関する心理学的研究−視覚空間周波数分析を用いて−」の支援のもとに推進されました。
おさだ よしひさ(Osada Yoshihisa)
1972年立教大学文学部心理学科卒業。名古屋大学文学研究科心理学専攻修士課程修了。京都大学霊長類研究所心理部門、神経生理部門共同研究員、立教大学文学部心理学科助教授を経て、1999年3月より教授。1992〜95年・2000〜2003年米国マサチューセッツ工科大学脳認知科学部客員研究員。日本基礎心理学会理事、常任編集委員、本学アミューズメント・リサーチセンター心理プロジェクト代表、主要研究テーマは、錯視、顔の認知、眼球運動など視覚を中心として、ヒトとヒト以外の霊長類の知覚、認知のメカニズムの解明
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