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立教WOMAN

2013年11月11日掲載

立教WOMANでは、女性に対する社会の期待が高まるとともに、女性の働き方が変わりつつある現在、さまざまな分野で活躍する立教大学の女性校友を、本学経営学部教授で、「女子学生キャリア支援アドバイザリーボード」のメンバーでもある高岡美佳教授が訪ね、キャリアとライフスタイルを中心にお話を伺います。第3回となる今回は、西武鉄道株式会社に女性総合職一期生として入社し、同社において戦後初の女性運転士として乗務後、結婚・出産を経て、現在は育児と両立しながら特急レッドアロー号の営業計画の立案に携わっている木村有加さんにご登場いただきました。

好奇心をかき立てられた立教大学の学びと仲間

高岡美佳(以下、高岡) 木村さんは立教大学文学部ドイツ文学科(現・文学部文学科ドイツ文学専修)を卒業後、西武鉄道に女性総合職一期生として入社し、同社で戦後初の女性運転士として乗務されていたそうですが、学生時代から鉄道会社を目指されていたのですか。

木村有加(以下、木村) 就職活動では業界を特定せず、鉄道のほか、人材派遣、メーカー、流通など幅広い分野に目を向けていました。また自分自身の可能性を限定したくないという思いがあり、さまざまな業務を経験できて、自分の能力を試せる総合職を希望していました。そんな折、西武鉄道のインターンシップに参加し、鉄道会社は鉄道事業のほか、沿線の不動産事業や観光事業など幅広い事業を展開していることを知りました。当時やりたいことを一つに絞れなかったこともあり、この会社なら自分にもできることがあるのでは、自分の可能性を広げられるのではと思い西武鉄道に入社しました。

高岡 「自分の可能性を限定したくない」という言葉が印象的ですが、そう考えるようになったきっかけがあればぜひ教えてください。

木村 立教大学での学びや出会いが影響していると思います。高校時代は英語が好きで、語学自体にも興味があり、大学では他の言語も学んでみたいと思っていました。そんなとき、ドイツの「ノイシュヴァンシュタイン城」というお城の写真を見たことがきっかけで、ドイツの文化に興味を持ち、いつか訪れてみたいという思いから立教大学の文学部ドイツ文学科を選びました。実際に入学してみると、ドイツの歴史や文化などのさまざまな要素に魅かれて入学してきた学生が多く、多様な視点を持った友人にたくさん出会えました。
それに好奇心をかき立てられるような授業が充実していて、自由な発想で自分の好きなことを勉強できる恵まれた環境でした。中でも3年次生でゼミ論文を書いたこともあって、ゼミの授業が一番印象に残っています。そのゼミの合宿で岐阜県の小さなテーマパークを訪れたときのこと。園内に点在する迷路のような建築物を鑑賞する体験型モダンアート空間で、何気なく見学したら1時間足らずで見終わってしまうような場所だったのですが、そこにあった小高い丘を何度も登っている先生の姿を目にしたのです。よく見ると、素手だったり、軍手をしていたり、眼鏡を外していたりと、さまざまな方法で登っていらっしゃいました。不思議に思い理由を伺うと「同じ対象でも、方法や考え方を変えることで違う感覚を楽しむことができる」と教えていただきました。そのときに、当たり前のものを当たり前だと思わないでその先を追究してみることや、一つのものを多角的に見ることの大切さを教わった気がします。

高岡 大学教育で重要なのは、木村さんが自ら気付かれたように、一つのことを徹底的に調べ、徹底的に考えることによって答えを導くことの楽しさを知ることで、生涯学び続ける意欲や前向きな姿勢を身に付けることだと思っています。そうした学びを通して、木村さんは何事にもチャレンジしたいという好奇心を持つようになったのかもしれませんね。

基準となることの責任の重さを痛感

高岡 西武鉄道に入社後は、女性総合職のパイオニアとして初めての経験をたくさんされたと思いますが、いろいろとご苦労もあったのではと想像しています。

木村 西武鉄道でいう「総合職」は駅係員、車掌などの現場を経験し、ゆくゆくは本社の中核を担う職種です。西武鉄道には戦後から私が入社する2006年まで、運転士どころか女性の駅係員や車掌も居なかったため、同期入社のうち私を含めた4名が60年ぶりに現場を担当する女性社員でした。入社当初は駅係員として配属され、勤務は朝9時から翌朝9時まで、途中仮眠時間はあるものの24時間勤務が基本ですので、会社からはこうした勤務を女性が行うことに対していろいろと配慮していただきました。だからこそ「女性だからできません」とは言わないと決めて、自分ができることは率先してやるように心掛けました。一方で女性として配慮されていることを意識するあまり、無理し過ぎないことも大切だと考えていました。私の働き方が、今後の女性総合職の一つの基準になるということで、プレッシャーを感じていたのは確かです。

高岡 ダイバーシティーという言葉が一般化し、人の多様性に配慮した組織づくりが求められる今、男性だから、女性だからという視点で業務を分担するのではなく、各個人の資質に応じておのおのができることを行い、互いをフォローし合える環境が望ましいですね。駅係員を経験された後は、いよいよ女性運転士第一号の道を歩まれたわけですが、自ら希望されたのですか。

木村 駅係員を1年少々務め、車掌を半年経験したところで、人事から「運転士をやってみないか」と打診がありました。しかし、入社当時から「現場経験後は女性ならではの視点や発想を生かして、沿線開発や沿線を魅力ある街にする業務を担当したい」という希望を持っていたため、即答することができませんでした。西武鉄道では「専門職」と呼ばれる現場を専門に担う職種が別にあり、総合職の男性でも全員が運転士を目指すわけではありません。また乗客の皆様の命を預かる責任の重い仕事であり、高度な運転技術や事故などに冷静に対処する判断力が求められます。一週間悩みましたが、これまでの経験を生かしてチャレンジしようと、受けることにしました。

高岡 きっと人事の方も木村さんのそれまでのチャレンジ精神や働き方をご覧になっていて、適性を感じられていたからこそ、打診されたのだと思います。入社当初は沿線の周辺地域の開発に関わる業務を希望されていたとのことですが、今はどうですか。

木村 駅係員から運転士まで経験する過程で、これから先も鉄道会社の基幹である鉄道事業に携わりたいと考えるようになりました。夢や目標を持つことは大切ですが、それにこだわり過ぎないで、最終的になりたい自分をイメージできていれば、そこまでのプロセスは結局どのように転んでも、自分の行きたい方向に向かうのだと感じています。今は、やりたいことに向かって進む中で方向転換することは悪いことではないと思うようになりました。

高岡 自分が本当にやりたいことは、頭で考えているだけではなく、実際に動いてみることによって見つかるものですよね。学生の就職活動にも木村さんのお話はとても参考になると思います。