本学は、1639(寛永16)年に浄土真宗本願寺派の西本願寺に設けられた僧侶養成機関に始まります。明治期に一般教育科目を取り入れ、高等教育機関としての体制を整えて、1922(大正11)年に大学として認可されました。2009年には創立370周年を迎えます。もちろんただ古いだけでなく、長い歴史の中で積み重ねてきた豊かな知的資源を常に新たに発信し続けてきた大学であると自負しています。
私立大学はそれぞれに「建学の精神」を掲げています。建学の精神とは、言い換えれば大学設立の目的であり、本学のそれは、浄土真宗の精神に基づく教育を施すことです。
親鸞聖人が説かれた浄土真宗は、自己中心的な我執の迷いから抜け出せない、自分の力で悟りを開くことができない、私たちのような人間に開かれている教えです。阿弥陀仏は、すべての衆生を救うという願いをたて、それを完成されました。この阿弥陀仏の願いの深い意味にめざめ、信心を獲(え)て念仏申し悟るべき身とならせていただく、これが浄土真宗の本願他力の教えです。このことをより具体的に言うならば、私という存在が、阿弥陀仏の願いの中で、生物・非生物の区別なくさまざまな存在とそのはたらきによって、支えられていることに感謝しながら、自身の精一杯の力を尽くして生きるということ。日常的な言葉で言い表すなら、もったいない、ありがたい、お陰様といった謙虚さと感謝の心を持つことにつながる教えです。
このような建学の精神を、私たちは、次のように平易に表現した5項目にまとめています。
こうした建学の精神の普及をはかるため、本学では、全学生を対象に「仏教の思想」という必修科目を開講しています。前期は釈尊の教え、後期では親鸞聖人の教えを中心として学びます。授業以外にも様々な宗教行事があります。5月に親鸞聖人の誕生を祝う降誕会(ごうたんえ)、10月には親鸞聖人のご遺徳を偲(しの)ぶ報恩講。毎月15日はお逮夜(たいや)法要、16日にはご命日法要、21日にはご生誕法要が営まれ、毎朝、勤行が行われています。こうした行事に自由に参加することを通して学生に浄土真宗の教えを伝えていますが、聞いたことや感じたことが、人生において最も感受性が豊かな青年期の人格の形成において何らかの形で残り、生きる支えになってくれればいいと思っています。
私は大学の役割は教育、研究、社会貢献(エクステンション)だと思います。その中でも第一の使命は、教育だと考えます。近年では少子化の影響で学生確保の観点から「学生にとって魅力ある大学になるには、教育にもっと力を入れることが必要」と言われますが、それは本来、当たり前のこと。もともと高等教育機関である大学の第一の使命は教育なのです。
本学では、総合的な教養教育と広い視野を持つ専門的職業人の養成を目指しています。一時期、カリキュラム改革の流れで、一般教育科目と専門教育科目の区別をなくそう、という方向に進んだ時に、大学には一般教育科目がなくてもいい、と間違って受け取られた面もあったと思います。私は社会福祉科に所属していますが、社会福祉の勉強をするにも、やはり人間や社会や歴史についての基本的な教養が必要です。幅広い教養を十分に身につけて、その上で専門的な知識を得てほしい。日本の将来を考えると、きちんとした教養を身につけた世界に通用する人物、現実社会の中で様々な問題・課題を自ら発見し、多様な知識や自身の経験、他者との関係の中でその解決方策を見出して、行動することができる人物が求められていると思います。 本学は、このような人物を育成するにあたって、先に述べた建学の精神を根底においています。つまり、自分の生きる意味や、自分と自分以外のすべての「いのち」の尊さといった、人として生きていく上での心のよりどころを確立することを基底において、正課・課外における特色ある教育を展開しているのです。このことが本学の個性であり、また使命であると考えています。
そして、もちろん研究、社会貢献をすすめることも大きな使命です。例えば、瀬田学舎は開設当初から地域との連携に力を入れており、1991年には、いちはやく産官学連携や生涯学習などの社会連携事業を行うREC(龍谷エクステンションセンター)を作りました。当時はまだ「エクステンション」という言葉が耳慣れない時代でしたが、新しく専用棟を建ててセンターを完成させました。現在、RECは京都学舎、東京、大阪でも事業を展開しています。
研究所としては、仏教文化研究所、社会科学研究所、科学技術共同研究センター、国際社会文化研究所を置いています。これとは別に、学際的・複合的に研究を推進する「人間・科学・宗教総合研究センター」を設置しました。ここには九つのプロジェクトがあり、その内八つは文部科学省が進めている私立大学学術研究高度化推進事業に採択されたもの。もう一つは本学独自に必要と認めた、アフガニスタン新発見仏教遺跡の学術調査プロジェクトです。
長い歴史を持つ本学は、世界的にも貴重な資料を数多く保存しています。本願寺の歴代ご門主の蔵書を集めた「写字台文庫」、国宝や重要文化財も含まれる貴重書、明治時代に中央アジアを調査した大谷探検隊が持ち帰った資料……。これらの所蔵品を調査研究し、その成果を直接的に地域・世界に発信していく場としてミュージアムを設立することとしています。こうした事業は、学部教育はもちろん研究者養成にも生かすことができるでしょう。ほかにも計り知れない効果があると考えています。
仏教を建学の精神に掲げ、長い歴史と伝統を持ちながら最先端の科学分野の教育研究をすすめる、この両面の特色をこれからも出していきたいと思っています。
本学は、これまで4次にわたる長期計画のもとで諸改革に取り組んできました。現在推進している第4次長期計画では、「人間・科学・宗教」をキーワードに、「共生(ともいき)をめざすグローカル大学」を21世紀の龍谷大学像とし、高度化・多様化・流動化といった改革方策を展開することにより、本学の個性化を図っていこうとするものです。
私の役割は、まず、この第4次長期計画において掲げている諸課題について、なすべきことを完遂することにあると考えています。と同時に2010年以降に展開する新たな大学改革方策を整備し、これに着手していかなければなりません。
これらを成し遂げることによって、本学の教学を充実・発展させ、世界に通じる高等教育機関としての使命を果たすことになると確信しています。
若原道昭(龍谷大学学長、短期大学部教授)
わかはら・どうしょう●京都大学大学院教育学研究科博士課程単位取得満期退学。1982年龍谷大学短期大学部講師として着任、92年から龍谷大学短期大学部教授。97年4月〜2003年龍谷大学短期大学部長・龍谷大学短期大学部専攻科長。2003年4月〜07年3月末まで龍谷大学副学長
専門分野:教育哲学。主な研究業績:共著『社会福祉と仏教』『教育の原理と課題』