![各セクターが協働して「SustainableJapan]を実現(1)](images/panel_index01_11.gif)
荻野 少し話題を変えます。「Sustainable
Japan」ということで、私たち主催者は、企業だけでなく、市民とか行政などのいろいろなセクターが一緒になってやっていかなければならないだろうと考えました。例えば、谷本先生がご指摘されたとおり、企業を見るウォッチャーが極めて重要になったりもしているわけです。これまで日本の社会では、企業が非常にばらばらにやっていて、NGOはあまり大きくなかったというご指摘もありました。ですから、市民団体もなかなか声が通らないとか、行政とはあまり足並みが揃わなかったことがありましたが、今後「Sustainable
Japan」を目指すために、企業だけでなく、われわれも含めてどう動いていくかを話し合いたいと思います。
まず企業とNPO・NGOと政府の関係は、谷本先生の研究領域だとうかがっていますが、具体的にどんなふうに手を組めるのか、また今後どういう関係を構築すべきか、その辺の具体的なお話があればご紹介いただきたいと思います。
谷本 その前に、そことの橋渡し的な話を少ししたいと思います。日本の大学には「企業と社会」という科目がほとんどないのですが、アメリカではほとんどの大学にあります。そこで使われるテキストに、真ん中に企業を置いて、周りにステークホルダー:投資家、消費者、NGO、政府、環境などを配置する図がよく出てきます。企業とステークホルダーは色々な関係をもっており、独立して存在するステークホルダーとの関係をきちんととらえておかねばならないというわけです。しかし、これまで日本の企業社会において、ステークホルダーが独立していたのか、企業あるいは関係する政府機関に対して何か発言する、プレッシャーをかけるような存在であったかというと、簡単にそうですねとは言えないところがあります。
先ほど「株主からステークホルダーへ」というお話もありましたが、「実は日本の企業社会にステークホルダーはいなかった」と言う人もいるわけです。いなかったというのはちょっと言い過ぎで、ステークホルダーは企業というシステムの中に取り込まれてきたといえます。例えば、日本で株主が大きな影響力を持って、企業のチェック機能を果たしてきたかというと、会社の相互持ち合い関係の中で、特定の株主がいるような状況ではなくなり、網の目のように持ち合う中で、経営者が大きな影響力を持つようになってきた。従業員や労働組合はチェック機能を果たしてきたかというと、一つの企業あるいは企業グループの長期的な雇用関係の中では、必ずしもそうではなかった。原料や商品を供給するサプライヤーはどうかというと、下請け系列関係のピラミッドの中に組み込まれてきた。また、地域社会と企業の関係は、アメリカで見るようなスタイルとはかなり違うものがあり、企業城下町が典型で、取り込まれるような関係があった。
また消費者、市民の声を代弁するようなNPOやNGOが、これまで日本で育ってきたかというとそうではなかった。そういう社会的な問題や公共的な問題はほとんど政府が対応するものであり、市民の問題ではないというイメージがかなり強かった。それが90年代後半あたりから状況がかなり変わってきました。95年に阪神・淡路大震災があったとき、「ボランティア元年」と言われ、98年にNPO法が成立して施行されたとき、「NPO元年」と言われました。市民に「自分たちの問題は、自分でできることはやらなければならない」という意識が少しずつ出始めてきたのが、ようやく90年も終わろうとする時期だったと思います。ですから、セクターごとの関係というとき、まだまだ日本のNPOやNGOのセクターは弱い。日本の中にもいろいろなNPOが誕生していますが、まだ生まれたばかりでもっと支援していかなければならない。そういった中でも、いろいろなNPOやNGOが日本の中で育ち始めてきていて、企業と多様な関係を取り結んでいる状況が見られます。
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一見複雑なように見えますが、このスライドは企業・政府とNPO・NGOとの関係について3つのパターンを示しています。(1)政府・企業からNPO・NGOに支援するようなスタイル、(2)NPO・NGOが企業や政府に対して監視・批判したり、評価したり、政策提言したりするスタイル、(3)この両方が協力し合ったり、競争し合ったりするようなスタイル。一般的によく見られるのは、政府が助成金を出すとか、さまざまな法制度のもとで支援し、NPOやNGOのセクターを育てていく、企業がボランティア活動で人を出したり、寄付をしたりするという、政府や企業の資源を活用した支援のスタイルです。
日本では、(2)と(3)に該当する団体が少ないのでイメージしにくいかもしれませんが、中にはNGOというと「企業を批判する危ない団体だ」とか、「何かというと寄付をくれと言う市民総会屋か」ということを言う人がいたりする。NPOに対して、「NPOなら何でもできる」という過大評価と、「彼らは何を代表しているかわからないし、そんな小さい団体では何もできっこないよ」という過小評価と混乱する状況が見られます。
例えば、最初にあった社会貢献のレベルでも、寄付やボランティア、あるいは企業の本業を活用したスタイルでNPOと協力関係を持つとか、新しい社会的な商品を開発していく上で関係する団体が、これまでの経験や知識、あるいはネットワークを活用しながら協力関係を結んでいくものも見られます。いわゆる社会貢献のレベルですぐ理解されてしまいますが、実際には事業の中で協力関係を結びながら進めていくというスタイルもあるわけです。どのスタイルであっても、企業とは違う視点を持ったNPOやNGOの発想や経験、あるいはネットワーク力を、これまでの企業社会とは違うものを取り込もうとしたり、あるいは社会との接点の中で彼らと手を組むという動きが少しずつ見られてきました。ですから、まだ小さくてマネジメント能力もないNPOが多いのは事実ですが、いくつかの成功事例から、こういう可能性もあることを紹介していかなければならないと思っています。
荻野 ありがとうございました。こっちとかあっちとかの一方通行ではなく、双方向ですね。
後藤さんにも同じような質問をさせてください。企業の社会的信頼度が上がる社会になるために、どういう仕組みが必要か、あるいはどういうふうに社会を変えていくべきだとお考えですか。
後藤 企業の社会的信頼度を高めるには、企業サイドでどう動くか、社会のほうでどう動くかの両方あると思います。企業の場合、自分が社会的信頼度を高めるためには、社会から期待されていることを果たしていけば信頼度が高まるわけですから、社会が何を期待しているかをどうつかむかが最大のポイントになります。多国籍企業ですと、例えば私がかかわっているGRIのガイドラインには、こんなことが求められています、こういうことが報告項目ですというのが大まかに出ています。当初は、日本企業も「児童労働だ、強制労働だ、こんなの何でだ」と結構反発がありました。「いや、これは国際労働機関(ILO)が決めた国際的中核労働4原則ですよ」、「ああ、そうだったの。そんなの知らなかった」というのが日本の現状です。でも、いま先進的な企業は大分わかってきました。
企業が社会から何を求められているかは、企業規模、活動地域、業種により違います。ですから、社会から何を求められ、何を果たしていくかを知ることが、信頼度を高めるために一番重要なことです。それは、社会とコミュニケーションしないと探れません。実はコミュニケーションが成り立つためには、相手とある程度の情報の「シンメトリシティー」がなければならない。ノーベル賞をもらったジョージ・アカロフの「レモンの原理」がそういうことを言っています。
そういう意味で、多国籍企業も含めた企業が、様々な形で環境報告書とかサステナビリティー・リポートを出してきています。その情報をベースに「わが社はこういう取り組みをしています」ということを発表し、「そうか、私が求めているものをこの企業はこういうふうに果たしているのか」ということになって初めて対話ができるわけで、報告書を出したから対話しているということではありません。
実は日本の特に先進的な企業は、かなり一生懸命コミュニケーションをやっています。日本でサステナビリティー・リポートが出始めたのは2000年以降です。私は2002年を「サステナビリティー・リポート元年」と呼んだのですが、環境報告書は90年代前半から出始めました。コミュニケーションについては、2001年くらいから、先進的な企業はさまざまな形でステークホルダー・ダイアローグを始めてきています。要するに、報告書を出すだけの段階から、コミュニケーションに進んできているわけです。
会場のロビーに、サントリーの報告書があります。あの報告書の最後に、私が座長を委嘱されて実施したステークホルダー・ダイアローグが2ページにわたって掲載されています。それは、ステークホルダー・ダイアローグの一つのパターンです。いろいろな企業の報告書はWebでも見られますし、いろいろな形でステークホルダー・ダイアローグをやっておられますので見てください。
去年、ISOの総会がバリ島でありました。私はISO14063「環境コミュニケーション規格」の日本のエキスパート、代表を仰せつかっているので、日本の環境コミュニケーションのステークホルダー・ダイアローグの実例をワークショップで発表させていただきました。これは世界中の人に驚かれました。他国は非常に概念的なことを言うのですが、実例がないわけです。私はワークショップのプレゼンテーション資料を極めて簡単に作ることができました。なぜなら、色々な企業がWeb上にこういう活動をたくさん載せているので、そこを切り取って貼り付けるだけでよかったのです。20分の話をするのに、40数枚の資料をつくって発表しましたが、皆さんは「日本はこんなことをやっているのか」とびっくりしていました。しかも、日本の企業のものは全部英語で作られているので、貼り付けるだけです。いま企業側では、そのくらい進んでいるところもあるのです。
では、市民側はどうか。私もNGOの一員ですが、NGOは日本で大変弱く、WWFのようなNGOは例外中の例外です。端的に言えば、明治33年か34年に民法を作ったとき、NGOは作らせないという社会システムをとったわけです。それは、その時の時代的要請だったと思います。そして99年にNPO法ができましたが、まだまだ財政的なサポートやいろいろな観点で、日本でNGOとかNPOを本当に育てようという状況になってきていない。市民一人一人が報告書を読めば、その相手企業と同じように全部分かるかというとそうはいかないので、やはり欧米のようにNGOを育てていかなければならないと思います。
また、日本で組織的に動いている事業者が70万社とか80万社とか言われる中で、報告書を出しているのはたかだか1,000社くらいですから、これを今後どう広げていくかも課題です。始まったばかりですから、現状がお粗末だとかいって文句を言うよりは、自分も含めて努力をしていき、社会全体で育成していかなければならないと考えています。
荻野 ありがとうございました。先ほどの情報の「シンメトリシティー」、対称性ということですか。
後藤 そうですね。完璧に対称にはならないのですが、あちらが情報を全部持っていて、他方が全然持っていなければ、一方的押しつけか説得しかないわけです。実は1992年のリオ・サミットで「リオ宣言」が採択されており、その第10原則でまさにパートナーシップがいわれています。「環境問題は、個々の市民が関与することにより最もよく解決される。そのために政府は、政府の情報や企業の情報を市民に行き渡らせるように努力し、市民参加を促進する努力をしなければならない」という原則だったと思います。例えば、PRTR法は企業の化学物質の情報ですが、それを政府に報告させてオープンにするという形で、社会に企業の化学物質の情報を出しているわけです。情報の透明性を高めることで初めてコミュニケーションが成り立ちます。もちろん、そういった法律に基づく部分だけではなく、約900社とか1,000社が、不景気の時代にもかかわらず、多額の予算をかけて独自に努力して環境報告書やサステナビリティー・リポートを出されているのが実情です。
谷本 よく「消費者の自立」という言葉が言われます。企業側には情報があって、消費者側には情報がない。自分で情報を獲得して自立して意思決定しなければならないといっても、あらゆる商品に関して、まして環境対策や社会対策に対してまで一般消費者が自分で情報を得ていくことはなかなか難しい。そこに第三セクターとしてのNPOやNGOの役割が期待されるわけです。政府でも企業でもない、独立した第三の立場としてNGOが専門的な能力を高め、ただイメージとして批判するのではなく、具体的な調査に基づいて批判したり、具体的な政策提言をしたりしていけるようなものがなければ、個人に独立・自立しろと言ってもなかなか難しい。
日本の社会では、NPOにようやく光が当たって、「自分たちが自分たちの問題に取り組まなければならないんだ」ということが理解され始めたところだと思います。一番弱いのは、調査し、政策提言できるようなNPOやNGOがないことですから、ここの部分をいかに育てていくかが、サステナビリティーを考える場合でも非常に重要な課題の一つだと私は思っています。
荻野 というわけで、鮎川さん、NGOのおひとりとして色々注文もついたようです。率直なところ、実際に企業とパートナーを組まれても大変なこともあるかと思いますが、今の谷本先生からの激励、エールに応えることも含めて、お考えをお願いします。
鮎川 私たちは、どちらかというと企業とのパートナーシップそのものを目的にしているのではなく、それを通して温暖化防止の政策を作るという、ある意味で、政策提言的なところでかかわっています。その一つの事例としてクライメート・セイバーズというのがあり、これはWWFと協議し、既に公表されている目標よりも野心的な追加的な削減量を目標にして、それを第三者機関に認証・検証してもらうという、かなりハードルの高いプログラムです。アメリカでは専門の担当者がいて、IBM、ジョンソン&ジョンソン、ナイキ、ラファージュ、コリンズ、ポラロイドといった6社が協定を結んでいます。昨年、佐川急便が日本第1号となりましたが、これはかなりの努力が必要です。私がいま直面している問題は、こちら側の努力が足りない点もあるのですが、第2号が出てこないことです。 これは私たちの働きかけが不十分なこともあるのですが、何よりも日本の企業風土の中で、NGOやNPOと何かやるというのがまだなかなかないこと、将来の目標を掲げるという点でハードルがすごく高いこと、さらに私としては、日本としての温暖化対策のビジョンがないことが大きな点ではないかと言わせていただきたいと思います。
それはどういうことかというと、95年にIPCCという科学者の集団が報告書を出しました。その時点では「直ちに50〜70%の温室効果ガスの排出を削減しなくては、安定化ができない」という報告で、それを受けて京都議定書ができ、平均5.2%の削減という、かなり慎ましい目標を掲げたわけです。それに向けた日本の目標はマイナス6%ですが、それすら達成できそうもないという状況で、日本はどのようにして温暖化を防いでいき、どういう社会を築いていくのかという長期的なビジョン、哲学みたいなものが示されていないと私は思います。
ついこの間、イギリスは2050年までにマイナス60%という、かなり大幅な削減目標を掲げました。いろいろな問題点もありますが、それに向けてありとあらゆることをやると言って、ビジョンを掲げています。日本では、経済と環境の両立という言い方をされていますが、環境なくして経済はないのではないかと私は思います。温暖化がこれだけ深刻になっている中で、次の新しい政策が出てこないのは非常に歯がゆいというか、懸念しています。
荻野 横並びの日本ではあるけれど、これだけは同じ業界のライバルとか、第2号が出てくる見込みはないですか。
鮎川 お話はいろいろありますが、日本の企業は結構努力してしまっているところがあり、それに対して新たな目標を掲げることよりも、WWFと実施することにどういうメリットがあるのかというところに問題がいってしまっているのと、達成できなかったらどうなるかというペナルティーを恐れるところもあります。むしろ欧米は「やってやるぞ」みたいな宣言型でこういう協定が結構成り立つのですが、日本ではそれがなかなか難しいようです。
![各セクターが協働して「SustainableJapan]を実現(2)](images/panel_index01_13.gif)
荻野 もう一方、色々な注文もつきましたが、行政の立場からはどうでしょうか。
佐藤 先ほど「シェアーホルダーからステークホルダーへ」というのが大きなポイントだと申し上げ、後藤さんからは受容性、レスポンシビリティー、信頼度、こういうお話がありました。全部を総合してみると、企業がその活動により影響を与える人たちに、どれだけ自分の行った行動をきちっと説明していくのかという説明責任が重要だろうと思います。
では、説明されたほう、つまり、われわれステークホルダーはそれをどうとらえていくのかが大変な課題だろうと思います。われわれも全員ステークホルダーだとすると、そのステークホルダーとしていろいろな視点があります。例えば、会社で働いている人は従業員としてのステークホルダーですし、その会社がどこかの会社と付き合いがあると、その会社の製品を買っているという意味での顧客かもしれないし、消費者かもしれない。ましてや会社の就業時間後、NGOの活動をするということもあるかもしれません。つまり一人ひとりの個人が、企業という組織体にステークホルダーとしてどういうかかわりをするのか、また自分はその主体としてどういうかかわり合いを持つのかという、まずその基本的な考え方や視点をきちっと持つ必要があるのではないか。ISOのルールないしはガイドライン化も、そういう視点を提供することでも大きな意味があろうと思います。
われわれ行政も、先ほどフランスの例で申し上げたようにステークホルダーの一人です。したがって、われわれもステークホルダーとして、企業に対して物申していかなければならないし、またそのとらえ方ないしは情報のシンメトリー、情報の提供の仕方という意味での枠組み作りも必要だと思います。
ただ、注意しなければならないのは、「それならすぐルールを決めて、CSR法を作ってやればいいではないか」という批判がありますが、サステナブルなものはあまり硬直的であってはいけないと思います。今の視点でこのポイントは大事だと思っても、5年、10年たつと中身は変わっていくわけです。すると、固定的な強制的な仕組みでなければ動かないというよりは、みずからの努力、それをスクリーニングする第三者の目といったものをきちんと育て、CSRの世界が切磋琢磨するような良循環に発展させていくべきでしょう。すると、企業は、行政が出した法律さえ守ればいいのではなく、自分で考え、自分でステークホルダーに発信し、その評価を受けてさらにそれを変えるということで、むしろもっと大変な責任を負うことになるかもしれません。しかし、そういう時代の流れの中で、3つの分野をきちっと把握しなければならないので、その付託にこたえていくのが、これからの企業のあり方ではないでしょうか。
それから、われわれも色々な立場のステークホルダーになりますから、いろいろな立場の複合的な、かつ長期的な視点で、この企業の活動を見ていくというルールや認識のあり方が必要だと思います。そういう観点から、谷本先生や後藤さんや鮎川さんからお話がありましたように、コミュニケーションの場、ないしは情報をきちっと提供しそれを議論する場を、これからお互いにどんどん作っていく必要があると思います。
ISOでこういう議論をしていくと、「CSRは本当に企業だけの責任なのか」というところに行き当たり、最終的にISOは「これはすべての組織体が負うべき責任だろう。したがって、CSRのCをとってしまおう」という議論になっています。ソーシャル・レスポンシビリティー、すべての個人、すべての組織体がみずから負うべき義務と役割がないと、この社会全体がうまくいかない。サステナブルな社会をつくるためには、すべてのプレーヤーが、だれかの問題ではなく自分の問題として取り組んでいくべきであろう。そのときの役割をそれぞれの立場で把握しながら提言し、また情報をもらってさらに提言するというやり方で、サステナブルな社会を維持していくことが一番求められているのではないかと考えています。 |