伊藤 元重さん
東京大学大学院経済学研究科教授
伊藤 元重さん
1951年生まれ。静岡県出身。東京大学経済学部卒、79年同米国ロチェスター大学経済学博士号(Ph.D.)取得。東京大学経済学部教授、同大学院経済学研究科教授を経て、2007年より同研究科長(経済学部長)。主な著書に「ゼミナール国際経済入門」などがある。

金融市場の動向がストーリーを読み解く鍵

静と動。対照が生み出す役者の魅力

 日々時間に追われた人々が慌しく生活する大都市ニューヨークの日常。そこからはリアルな緊張感が伝わってくる。冒頭からずっと続く、地下鉄職員とハイジャック犯の緊迫したやりとりも一因しているのだろうが、作品における街全体の映像と音響がこの緊張感を一層鋭いものにしているように思える。そして、この緊張感と対照的なのがデンゼル・ワシントン扮する地下鉄職員・ガーバーの語り口である。ジョン・トラボルタ扮するハイジャック犯・ライダーとのハイテンポなやり取りの中にあっても、安定し穏やかな語り口がガーバーの不思議な魅力を引き出している。

ハイジャック犯の執拗な金融市場への執着が意味することは

 スクリーンの中には、しばしば犯人がインターネットにつながったパソコンで金融市場の動向をチェックするシーンが登場する。走り続ける地下鉄で人質に目をやりながら身代金の交渉を続ける犯人が、一方で市場の動きを追っているシーンは、彼の執拗な金融市場への執着を描き出している。同時に、人間性が欠落したかのような巨額の数字の世界、人々の人間としての営みとは関係なく日々刻々と動き続ける市場の鼓動感、目的と手段が逆転したような数字と結果だけを求める異様な集中、こうした金融市場に対するイメージを、ハイジャック犯の姿の中にダブらせようという狙いがあるのかもしれない。

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