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9月15日、東京国際フォーラムで開かれた就職イベント「職選広場〜転職者・新卒者のための合同企業説明会〜」。オープニングセミナーにはスポーツジャーナリストの二宮清純さんとフリーアナウンサーの中田有紀さんが登場し、豊富な取材体験談を交えながら転職・就職に向けての心がまえを紹介しました。 |
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自分の才能を開発するのは自分
Will(意志)があればSkill(技術)はついてくる |
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中田 二宮さんはスポーツジャーナリストという立場からいろいろな方と接する機会が多いと思いますが、特に印象に残っている方がいらっしゃいましたら、エピソードを交えてお話しいただけますか。
二宮 いろいろなスポーツを取材していますが、一流や超一流になる選手は、これは自分にしかないというオンリーワンの技術を持っていると思うんです。たとえば野茂の「トルネード投法」、イチローの「振り子打法」、荒川静香さんの「イナバウアー」。世界を制した選手は、代名詞になるようなオンリーワンの技術を持っています。
そこで考えるのは、「自分は自分以外の誰にもなれない」ということ。自分の才能を開発するのは結局自分しかいないんじゃないか、と。
野茂もイチローも最初は「邪道だ」といわれたんですよ。「そんなフォームでコントロールが安定するか」「そんなに足を上げてヒットが打てるわけないだろう」といわれたんですが、そこで大切なのは、彼らは信念を貫いたということだと思うんです。
中田 邪道といわれてもそれを貫き通して、やり続けたということですね。
二宮 そうですね。「Skill」はとても大切ですが、もっと大切なのは「Will」ではないか。私がスポーツを取材していて、いつも感じていることです。結局「志」ということです。
中田 技術よりも意志、信念ということですね。
二宮 そうですね。「Will」があれば、「Skill」はいずれ生まれてくるのではないか。それでは「Will」とはどういうことか。
野茂がアメリカに行くときに、私と野茂とある選手の3人でメジャーリーグの夢について語る番組に出ました。
私は野茂とは社会人時代から懇意にさせてもらっていたんですが、そのある選手が野茂に「野茂さんは英語が話せますか。メジャーリーグで英語が話せないといじめに遭うんですよ」といったんです。野茂は何といい返したかというと、「僕はアメリカに英語を覚えに行くわけじゃない。野球をやりに行くんだ」といったんです。その段階で私は野茂の成功を確信しました。
もちろん英語は覚えないより覚えた方がいいのですが、それは成功のための手段。手段が正しければ目的が達成されるかというと、そんな保証はどこにもない。
最後はやはり「Will」なんですよ。「僕はアメリカに野球にやりに行くんだ」というあの鉄の意志があったからこそ野茂の成功があったのではないか。これはスポーツだけではなくて、まずは自分の「Will」はどこにあるのかを確認すべきなのではないかと思います。
中田 でも「Skill」から入ろうとする方や、何か身につけていないと自信が持てないという方もいらっしゃいますよね。
二宮 人それぞれの考え方を否定するわけではないんですが、重要なのは「何をやりたいのか」だと思うんですね。これをやるためにこれを身につけなければいけない、というものがあるべきではないかと思うんです。 |
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失敗は投資、未来のための資産
幸せなのは後悔しない生き方 |
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二宮 ここにいらっしゃるみなさん、私も中田さんも含めて、確実に死に向かって動いています。残り時間はどんどん少なくなっています。人生の砂時計みたいなものを持っていたら、このトークショーが終わったら、みなさんの人生は確実に1時間縮んでいます。
そう考えると、今やらなければいつやるのか、ということになる。今日やらないと明日もやらないのではないか。よく私も「あと10年若かったらな」というんですが、そういう人はだいたい10年前にも同じことをいっているんですよ(笑い)。要するにやらない人はいつまでたってもやらない。やる人はいつでもやる。
中田 何かをやるのに遅いということはありませんよね。
二宮 もちろん「やらない自由」もあります。みんながみんな頑張る必要はない。だけど、やった方が人生はおもしろいんじゃないか。
何が幸せな生き方かを考えた場合に、「後悔しない生き方」がいちばんじゃないかと思うんです。
私はよくスポーツ選手を四つのランクに分けます。
「超一流」の選手は、イチローのような、ほとんどパーフェクトな一部の天才。
「一流」は、確実に失敗を糧にでき、次のステージに行ける人。
「二流」は、同じ失敗を何回も繰り返す人。だから私などはたぶん二流になると思うんですけれども(笑い)。
その下に「三流」、失敗を恐れて何もやらない人。これはどうしようもありません。「失敗をしない」ということは「成功もしない」ということですから。
私は失敗の数だけ成功があると思っています。人それぞれやりたいことは違うと思いますが、すべてにおいて「チャレンジする」ことは尊いことだと思います。
中田 「宝くじは買わないと当たらない」といいますが、何かチャレンジしないと先には進まないですよね。
二宮 結局、失敗を「負債」と考えるか、「投資」と考えるかなんです。今の時代は、失敗は「投資」、失敗は未来の成功のための「資産」と考えた方がいいと思います。
中田 もし何かにチャレンジして失敗したら、それはたまたま自分に合わなかっただけで、何かまた違うことをやってみようと考えた方がいいわけですね。
二宮 そういう考えもあるでしょうし、次はこうやったらうまくいくというふうに考えることもできる。とにかく失敗がないと成功はありません。
宝くじが当たったみたいな成功があるかもしれませんが、それは先まで続かないんですね。失敗を一回経験すれば「ここがまずかったから失敗したんだな」と考えるわけです。すると次は、成功率がかなり高くなってくる。そう考えたらやはり失敗すべきであると。失敗するためにはチャレンジしなければいけない。
私はいつも、「無理」と「無謀」とは違うと思っているんです。無理はすべきです。たとえば自分の現在の値段としての「現在値」が仮に8だったとすれば、やはり10のところに行かないと先に行けないわけです。多少の無理はすべきだと思います。
でも「一か八かだ」と根拠もなく挑戦するのは、仮に成功しても次につながりません。だから「無理」はやるべきだけれども、「無謀」とは違うんだと。これは似て非なる言葉ではないかと思うんです。 |
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成功のヒントはどこにでも落ちている
自分で探し当てることができるかどうか |
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中田 今まで会ったスポーツ選手や関係者のなかで、失敗や挫折をバネに成功している方はいらっしゃいますか。
二宮 たとえば中日の川相昌弘コーチ。元巨人の名遊撃手ですよね。彼は確かドラフト4位ぐらいの入団で、いわゆるエリートではないんです。もともと高校まではピッチャーをやっていたわけですから、内野手の経験もほとんどあったわけではない。
ではどうやって名手になったかというと、あるテニスプレーヤーのショットをヒントにしたそうです。ボールに入るあのスピード、「これは守備も同じだ」と。そしてショートストップの極意をつかみ取りました。技術は誰かに教わるものではなくつかむもの。成功のヒントはどこにでも落ちていて、自分で見つけられるかどうかです。
それを考えると、アンテナが高くなるんですよ。ヒントはどこにでも落ちている。それを自分で探し当てることができるかどうかなんだと。アンテナの感度が高い人は、いろいろなものから会得することができるわけです。
川相選手は、感度が高かったんです。体が大きいとか、足が速いというだけが才能ではなくて、創意工夫ができることも一つの力。やはりそれは磨いていくべきではないかと思います。
中田 常にアンテナを張りながら、いろいろなことに興味を持って情報を得ることが大事なんですね。私たちにも当てはまりますね。
二宮 回り道と思えることが実は回り道ではないんですね。無駄だと思うことのなかにも、いろいろなヒントがある。玉石混交の情報があるので、目利きにならないと。アンテナが高くないと取捨選択もできませんから。
あらゆるところに成功のヒントは転がっているのではないかと思っています。
中田 私もアナウンサーという仕事をしていますが、地方局にいた新人時代、毎日、二紙か三紙の新聞のコラム欄を50字以内にまとめることを上司から指導されました。「これがアナウンサーの仕事と何か関係があるのかな」と思っていたんですが、1年ぐらい続けていくうちに、物事を考える力が身につき、要約してまとめて口にして出せるようになりました。このように、「意味がないかな」と思っていたことが身になっていたという経験もありますし、やはり回り道というのは大事なんですね。 |
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回り道を経験の多さに
ハンディをアドバンテージに変える |
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二宮 回り道をしたぶん、経験の引き出しが増えるんです。スポーツでも世界的に名を上げた選手には、この道一筋ではなくて、いろいろなスポーツをやっていた選手が多いんです。
たとえば柔道の鈴木桂治選手。鈴木桂治の足技は本当に世界一です。足首で刈るといういい方がありますね。これは谷亮子さんがいったんですが、鈴木桂治は「指で刈る」と。
では何でそんなことができるかというと、彼はあまり知られていないんですが、実は中学までサッカー選手だったんですよ。
彼は茨城の出身で、鹿島アントラーズに入りたかったんだそうです。ジーコにあこがれていて、いつもフリーキックを練習していた。それが柔道で役立っているんです。つまり、サッカーをやっていたことは回り道ではない。まさに自らの、オンリーワンのアドバンテージになっているわけです。
ほかの例でいいますと、ラグビーの村田亙選手。日本代表を長く務めました。日本を代表するスクラムハーフで、彼はヨーロッパでプロにまでなった選手ですが、スクラムハーフの身長というのはそんなに高くないんです。村田選手は174〜175cmぐらいだと思います。それでもヨーロッパの屈強なフォワードに当たり負けしなかった。
なぜかというと、彼は中学までずっと柔道をやっていた。「自分は受け身の取り方ができる」というんですよ。彼は柔道をやっていたことがアドバンテージになっているわけです。
だから無駄だと思うこと、回り道だと思うことが、後になってみたら自分のアドバンテージになっていると気がつくことが多いと思います。
中田 企業に勤める方のなかには、「どうしてこんな部署に配属させられたんだろう」「今やっていることは、レベルアップにならない」と思っている方がいるかもしれませんが、そこであきらめてしまわずに、やり遂げて自分の糧にするということですよね。
二宮 そうですね。食べものには何でも栄養があるように、あらゆる経験というのは、失敗も含めて、しないよりはした方がいいと思うんです。それを考えたら、とにかく自分に絶望しない、自分に挫折しない。
たとえば会社で窓際に追いやられたとか、会社を辞めざるを得なくなったとしても、「自分は何てついていないんだろう」と思うのではなくて、「自分は何てついているのか」と(笑い)。「これは神様がきっと自分に考える時間を与えてくれたんだな」と考え方を変えた方がいいと思います。ネガティブの方向に考えていくと、どんどん自分を追い詰めます。物事というのは考え方次第なんですね。
中田 「神様は試練を超えられる人にしかその試練を与えない」とよくいいますよね。
二宮 そう思いますね。「神は自らを助くる者を助く」などといいますけれども、スポーツはやはりそういうことが多いですね。
たとえば柔道の古賀稔彦選手。バルセロナ五輪で金メダルをとりましたが、あのとき彼は練習中に大ケガをしたんです。普通なら、もう「これで終わりだ」と思うところを、彼は「チャンスだ」と思った。何でかというと、「余計な雑音に惑わされない。集中できる」からなんです。
シドニーオリンピックで金メダルをとった当時の田村亮子さん、今の谷亮子さん。彼女もシドニーで確かケガをしたんです。「もう絶望ではないか」といわれていたんですが、彼女も同じことをいっていましたね。「これで自分は余計なことを考える必要がなくなった」と。ここなんですね。ハンディをアドバンテージに転化できるかどうか。これはやはり名人になった方が人生は楽しいと思うんです。 |
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自分を疑う、自分を信じる
その振幅数の大きさが人を成長させる |
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二宮 野茂がノーヒット・ノーランをやりました。これはコロラドロッキーズとの試合。当時のマイル・ハイ・スタジアムという球場だったんですが、標高が1,600mぐらいあるところなんです。1,600mあるということは、気圧の関係で打球が飛ぶんです。
その日は雨が降っていて、試合時間が遅れました。当然ピッチャーはイライラします。マウンドがぬかるみますよね。相手は強力打線。もうほとんど不利な状況ばかりなんですよ。
そこで野茂は、まず雨で試合が遅れている間にずっと試合のシミュレーションをしていたんです。
「雨が降っているということは、ボールはいつもより飛ばないんじゃないか」と。「ということは、高めのボールを投げてもホームランはないだろう。マウンドの方がぬかるんでいるということは、俺にバントを仕掛けてくるのではないか。きっと相手はそう考える。だったら、その辺を最初から予測しておこう。盗塁を仕掛けてくることもある。だったら……」と、待っている時間で相手が何をやるかを考えました。
それが全部当たり、ノーヒット・ノーランを達成したわけです。これは奇跡といわれたんですが、そうではないんです。運や偶然ではなく、野茂はちゃんとその不利な状況を全部頭に入れて、オセロゲームと同じように一つひとつ全部自分の色に塗り替えていったんです。
不利な状況にあるということは逆にチャンスなんですよね。よく「人生というのはチャンスこそピンチ、ピンチこそチャンス」といいますが、あれは本当です。
うまくいっているときは誰でも有頂天になります。そういうときは自分を激しく疑わないといけませんね。「これはちょっとできすぎだぞ。こんなにうまくは続かんぞ」と。うまくいっていないときは「自分はこんなものじゃない」と励まさないといけない。自分を激しく疑うことと自分を激しく信じることの振幅数の大きさが、人の成長につながるのではないでしょうか。スポーツはそのことを教えてくれます。
中田 考え方一つで変わるものですよね。
二宮 人間は、悲劇のヒロインになろうと思ったら誰でもなれる。でも「何で自分はこんなについていないのかな」と思っても状況は変わりません。だったら、どこをどう変えようかと考えて、一つひとつ状況を変えていくと「あれっ、ここまで行った。ここまで行った」と、逆に自分が楽しくなってくるわけです。
たとえばテストで最初は95点取ったら、あと5点取るしかないわけで、つまらないと思うんですよ。最初5点だったら95点も変えられる。考え方一つなんですね。 |
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仕事は恋愛と同じ
まずは好きなものを見つける |
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| 中田 「自分が何をやりたいのかわからない」と、迷っている方もいらっしゃると思います。そういう場合は、やはりいろいろなことをやってみるというのも一つの方法なんでしょうか。
二宮 私は基本的に人間という生き物は嫌いなことはやらないものと思っていますから(笑い)、まず自分は何が好きなのか、どういう仕事が好きなのかを考えるべきだと思います。好きなことは飽きないんですね。
私は小さな会社を営んでいて、インターネットなどでスポーツ情報を発信したりしています。採用面接に来る人には、まず「この仕事が好きなのかどうか」ということを聞くんですね。仕事は恋愛と一緒だと思うんです。
中田 どういうことでしょうか。
二宮 自分が好きな彼女がいるとしましょう。映画を見に行った、食事に行った、1日5時間一緒にいたとします。「今日は5時間もいた。もう十分」と思う人は、本当は好きじゃないと思うんですよ(一同笑い)。「今日は5時間会えたけれども、明日はもっと会いたい」と、あるいは「もっと一緒にいたいな」と思うのが本当の恋愛だと思うんです。
仕事もそう。「ああ疲れた。もうしばらく仕事やりたくない」と、これは本当は好きじゃないんです。だから本当に好きな仕事だったら「早く、明日が来ないかな」と、たとえば物書きの仕事だったら「また誰かに会って記事を書きたいな」と。そうであれば、これはやはり天職だろうと思うんです。 |
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個人か組織かではなく、個人も組織も
それが組織の個人のWIN-WINにつながる |
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| 中田 面接を受けに来られる若い方を見て、何か感じることはありますか。
二宮 人には誰にでも才能があると思っています。その才能をどうやって磨いてあげるか、開花させてあげるかということも私たちの仕事だろうと思うんです。しかし、その前提として自分探しにくる人がいますね。よく「どうしたらいいんでしょう?」というんですね。そういわれても困るんですが(笑い)。
中田 相談されるんですか。
二宮 たとえば「こういう記事を書く仕事に就くには、どうしたらいいんでしょうか」「取材するにはどうしたらいいんでしょうか」と。それを発見することがいちばん楽しいことなんですよ。なのに、それを私が教えてしまったら、クイズの謎解きをやっているみたいじゃないですか。たぶんその人の人生にとってマイナスになると思うんですよね。だから、「チャンスは与えますが、それを発見するのがあなたにとっていちばん大切なことだし、幸せなことですよ」と申し上げているんです。
もちろん掛け算、割り算を覚えてもらわないといけないとか、そういうベーシックな部分はありますが、そこから先は自分でどう発見するか、自分のゲームなんです。あるいは先輩から盗めばいいんです。人から教えてもらってやるというのは、最初はうまくいっても、どこかで挫折するんですよね。
だから結局、「自分探し」ではなく「自分の発見」ですね。会社は個人に対して「そういうチャンスを与えますから、後は自分で発見してください」と。それによって個人は成長し、会社にとっても利益になる。組織と個人のWIN-WINの関係といいますか。
個人と会社というのは、どちらを取るかという問題ではないと思うんです。最近では夢か現実か、仕事か家庭かとか、AかBかで考える人が多いんですが、それはナンセンスだと思うんです。AもBも、「夢も現実も」なんですよ。だって夢もない人生なんて楽しくないですよ。
中田 そうですね、仕事ばっかりでもつらいですよね。
二宮 ええ。そのかわり現実を直視していないと。現実を見ているからこそ夢がある。その夢に対する今の自分の立ち位置が今どのくらいなのかがわかっていればいいわけです。
「宇宙飛行士になる」といって、何もやっていなければ3歳の子どもの夢と同じです。やはりそこで自分の「現在値」がわかっていればいい。今もう30まで行っている人もいれば、3までしか行っていない人もいる。あと70。あと97。でもみんな可能性はあるんです。その可能性までのコストと時間の問題だけだと思います。 |
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自分を変える勇気を持つ
夢はあきらめたときに終わる |
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| 中田 二宮さんは会社を経営している立場から、どういう人材がほしいと思いますか。
二宮 あまり考えていないんですよ。なぜかというと、人を見て決めるからなんです。「こういう人」という枠に入れると、枠からはみ出る人間がいるとどうしても先に排除するでしょう?
人間は不思議なもので、赤いサングラスで見ると人は赤く見える。青いサングラスで見ると青く見えてしまうんです。だから固定観念と先入観は排除しておかないと、本当にいい人材は見つからないのではないかと思います。
野茂のトルネード投法、イチローの振り子打法を「邪道だ」といって採らなかったら、組織は強くなりませんよ。
中田 イチロー選手もドラフトは4位ぐらいでしたよね。
二宮 そうですね。イチローは、当時は名古屋ローカルの選手でした。彼は甲子園に出ていますが、あまり活躍していない。しかもピッチャーでした。
あるスカウトから聞いた話です。ある球団がイチローをドラフト3位で採りたかったと。ドラフトにイチローの本名の「鈴木一郎」と書いて提出したら、「ドラフト3位は即戦力が必要だ。名前を聞いたこともない高校生でどうするんだ」といわれたんだそうです。今、見てください。イチローを採らなかった損失がどのくらいのものか。
中田 当時はまさかここまでなるとは思っていなかった……。
二宮 たぶん誰も思っていませんよ(笑い)。でも人材というのはこういうものなんですよね。逃がした魚は大きかったということがあるわけです。
中田 企業側も「見る目」が重要になりますね。
二宮 これはもう永遠のテーマでしょうね。本当に難しい。人というのは大器晩成型の人もいれば、最初の出だしはものすごくいいけれど後が続かない人もいる。でも人生と一緒で、何があるかわからないからおもしろいと思うんです。
楽天の山崎武司選手。30代後半で今季のホームラン王ですが、彼はオリックス時代に戦力外を通告されたことがあります。そのとき彼は「このままじゃだめだ」と自分を変えたんですよね。何を変えたかというと……。
彼はそれまではミートポイントが前だったんです。飛距離も出るし、人間というのは前で思い切り打ちたいもの。でもやはり年をとるとスウィングスピードも鈍って筋力も弱ってくる。そこで、今度は引き寄せたんですよ。ミートポイントを後ろにして打つようにしたんです。これまでやってきたことを変えるというのはいちばん怖いことなんですよ。
中田 勇気が要りますよね。
二宮 そうですね。でも彼は思い切り変えてみせた。ミートポイントを後ろに置くということは、少々詰まっても、今度はライト方向に行ける。反対方向のホームランが増えましたよね。
「自分を変える」という勇気、これを彼は持っていた。普通は、「野球選手が歳をとってから急に化けたりしないだろう」と思う。でも彼は現実に40歳近くになって打法を変えて、これまでの最多ホームランを打ったんですよ。
中田 自分を変えて成功したいい例ですよね。
二宮 結局、年齢ではないんですよ。
僕が好きな映画に、『オールド・ルーキー』という映画があります。昔メジャーリーグに挑戦して挫折してマイナーリーガーで終わった選手が、その後に学校の教員になるんですね。野球部の監督をするんですが、部員に「おまえら、夢を持て」というわけですよ。でも生徒に、「そういう先生は夢をあきらめたじゃないか」といわれる。
「それなら俺から夢を見せよう」と、彼はまたチャレンジをする。そしてメジャーリーガーになるんですよ。それで彼は遅れてきたルーキー、オールド・ルーキーなんです。ジム・モリスという選手なんですが。彼の有名な言葉というのは、「夢には年がない。あきらめた段階で夢は終わるんだ」。ここなんです。あきらめなかったら可能性は残るんです。0.1%であっても。
桑田だってそう。確かにメジャーで活躍はできなかったけれど、彼の投げている姿は尊いですよ。ボロボロになってでも、また来年もやろうとするわけでしょう? 来年勝てるかというと、そんな保証はない。でも彼が今チャレンジをしていることは、絶対、指導者になったときに生きますよ。だから桑田は、未来の投資をちゃんとやっているんです。
中田 やっていることに無駄はないわけですよね。
二宮 そう思いますね。自分を励ますのは自分しかいない。自分は自分以外の誰にもなれない。あきらめるのも自分。こだわるのも自分。逃げるのも自分。やり続けるのも自分。最後は自分なんです。 |
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リーダーに必要なのは
Passion(情熱)、Mission(理念)、Action(行動力) |
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| 中田 トップやリーダーになるなら「こういう方が理想」と思う方はいらっしゃいますか。
二宮 日本サッカー協会会長の川淵さんですね。やはりすごみがあります。よく専制君主とか、暴君とか批判されていますね、私は川淵さんをよく知っていますが、あの批判は当たっていますよ(一同笑い)。
でも私からいわせれば、あのくらいのリーダーシップがなければ、日本のサッカーは終わっていましたね。私が取材を始めたころは、国立競技場で日本代表の試合の観客がたった500人くらい。チケットを束でたくさんもらいましたよ。うちに置いていたら猫がまたいでましたよ(一同笑)。それが、いまやプラチナペーパーでしょう?
当時、ラグビーの早明戦が同じ国立競技場で5万人。後楽園球場の巨人戦が5万人です。5万人、5万人、500人ですよ。民間の会社だったらとっくに倒産ですよ。
中田 今はもう日本のサッカーは……。
二宮 完全に逆転しましたよね。これはもう川淵三郎さんのリーダーシップによるものだと思います。
中田 それはどういうところですか。
二宮 プロ化しようというときに、やはり当然反対する人も出てきます。ある人が川淵さんに「早すぎる」といったんです。「景気も悪くなってきた。どこの企業が金を出すんだ。もっと落ち着いてやれ」と。もう一人の人はこういいました。「サッカーのプロ化で成功した例がない。前例がないことをやったら失敗する」と。
そこで川淵さんはこう言い返したんですよ。「時期尚早という人間は100年たっても時期尚早という。前例がないという人間は、200年たっても前例がないという」と。僕はこれは名言だと思っています。
結局やるか、やらないか、ここなんです。
中田 思い切ってやったことで成功したわけですね。
二宮 川淵さんと今のサッカーの繁栄から、ビジョンを実行に移すには、三つのことが必要不可欠なんだと学びました。
まず第一にやはり「Passion」、情熱。そして次は「Mission」、使命感、理念。最後はやはり「Action」、行動力だと思います。
まず情熱がない人には人はついていきませんよ。組織は動きません。
そして、やはり川淵さんはミッションがしっかりしていましたね。スポーツが変われば地域が変わるし、地域が変われば中央も変わっていく。この国の政府は中央集権から地方分権、あるいは地方主権へといっているけれども、それは単にかけ声だけじゃないかと。それではどうすればいいのか。
まずはこの町に生まれてよかった、この町に育ってよかったという心の財産をつくる。それがスポーツクラブなんだと。ヨーロッパはどんな小さな町に行っても教会やオーケストラやスポーツクラブがある。心のソフトをつくろう、心の財産をつくろうと。地方分権というなら、まずそれが必要だといったわけですよ。
周囲からは「できるわけがないだろう。失敗したらどうするんだ」といわれた。そうしたら川淵さん、やはり最後はアクションでした。行動力。率先垂範ですよ。
パッション、ミッション、アクション。今は時代の流れが早いですから、5年たったら違うことをいっているかもしれませんが(笑い)、今、私はこの三つをいちばん大切な言葉として、自戒的に使っているんです。この三つの言葉はリーダーのみならず、心に秘めておいた方がいいと思います。 |
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限られた人生の時間。迷ったら動く
踏み出さなければ何も始まらない |
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二宮 星野仙一さんがいった「迷ったら動け」という言葉も、名言だと思っています。
もちろん何かを決断するときには葛藤も不安もあるでしょうが、最後には動く。結局、迷ったときに踏み出すか立ち止まるかで、勝負は決まるのではないでしょうか。 中田 それは仕事でもそうですよね。
二宮 そう思いますね。そのとき考えることといったら、やはり人は「砂時計を持っている」ということ。残された人生の時間は有限だということ。
高橋尚子さんが、「24時間という時間は誰にでも与えられた平等な時間だ」といったことがあります。そうなんですよね。よく「格差社会」といわれていますが、24時間は平等ですよ。24時間を有効に使えるか、使えないかなんですよ。
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才能を認める、実績を示す
人を動かす・動かされるのいい関係をつくる |
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| 中田 企業のなかでの人の動かし方、動かされ方について、何かお話しいただけますか。
二宮 人を動かす場合には、人にはそれぞれ違う才能がありますから、まずそれを「認める」ことでしょうね。それを教わったのは、亡くなったオリックスの監督、仰木彬さんからです。
仰木さんはよく野茂のトルネード投法、イチローの振り子打法の親だといわれていますが、あれは違います。野茂のトルネード投法やイチローの振り子打法は教えられません。「人の才能を認めた」ということです。
人間は、人の才能を認めることが実はいちばん苦手。どうしても自分の才能の方を認めたがるんです(笑い)。ただこれがやはり管理職になると、人の才能を認めてあげなければいけない。仰木さんは私に、「自分の成功体験を唯一の成功体験と思うなよ」といったことがありました。「人にはそれぞれ成功体験の形が違う。登山と一緒だ。登頂ルートは10人いたら10通りある。まずはそれを認めてあげなければいけない」と。
人間は本当は自分を認められたいんですよ。ただその認めてもらうものはつくるべきなんです。私は経営者として、ちゃんと認めたい。ただ認めた以上は、それだけの実績を今度は示してくださいと、当然そういう考え方です。
中田 認めてもらったら、それに見合うだけの努力をしていかなければいけないわけですよね。
二宮 それはもう個人の問題です。努力しない自由もありますから、努力しなくて結果を出す、それでも構わないんです。ただ、努力や工夫した方が結局は結果が出やすいということ。どうするかは自分で決めてもらった方がいいんですね。 |
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年齢は関係なく、同じ土俵で戦う
重要なのは、その人の仕事がおもしろいかどうか |
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| 中田 二宮さんはご自分のお仕事は天職だと思っていらっしゃいますか。
二宮 私はスポーツが好きですし、書くことも好きです。私は子どものころ、体が弱くて小児ぜんそくになったことがあったので、スポーツに対するあこがれを人一倍もっていました。そういう意味では、いまの仕事は天職ですね。
ただ天職とはいっても、発展性がなければいけません。私が第一線でまともに仕事できるのはあと10年ぐらいですから、若い人が出てきて、私がやってきたことをさらに発展させてくれるか、修正してくれればいい。
中田 誰かにバトンをつなげたいと、若い方に期待をしているわけですね。
二宮 期待はしますが、義務ではない。「置いておくから、誰が好きな人がいたら持って走って」という話です(笑い)。
中田 日頃、後輩の方から影響されたり、ヒントをもらうことはありますか。
二宮 ありますよ。私の会社はインターネット関係の仕事をしていますが、私自身、デジタル世代ではないので、若いやつによく教わっていますよ。
そのかわり私も「取材でこういうことがあった」「この辺は落とし穴かもしれないぞ」と教えることもあります。WIN-WINは師弟関係ではない。私は師弟関係は好きではないんです。
私がお世話になった、ある大好きな物書きがいます。でも、私は何一つ教わっていない。ただ球場とかスタジアムに行って原稿を書くと、「今日はおまえが勝った」「今日は俺が勝った」と平気でいうんですよ。私からすると大後輩がですよ。この人は、若かろうが、年とっていようが、みんな平等に見ているんだなと思ったんです。
中田 先輩、後輩も関係なく、同じ土俵なんですね。直接的に教えられたことがなくても、そういう姿勢を見て何かヒントを得たり、学んだりするわけですよね。
二宮 スポーツでもそうですよ。サッカーの中田が代表に入ったときに「おい、カズ」といったりね(笑い)。グラウンドに出たら、若い人、年を取っている人、関係ない。もちろん一般社会のモラルや礼節はある。だけど、仕事になったら年齢は全然関係ない。そんなことをいっていたら組織は強くならないでしょう?
私の判断基準は「おもしろいか、おもしろくないか」ですよ。おもしろい仕事をするやつは好き。おもしろくない人がいれば、ほかにもっといい仕事があるんじゃないかと見つけてあげたくなる。人間というのは向き・不向きだから。どこに才能が発揮されるかわからないんですよ。だから自分にもっと自信を持った方がいい。失敗しても、「たまたまうまくいかなかった」と思った方がいいと思いますよ。 |
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自分の現在値を知り
眠っている才能を開花させる |
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| 中田 そういう才能を見つけてあげることも経営者側の役割になるわけですか。
二宮 そう思いますね。何か見つけた方が会社がおもしろくなりますから。「こいつこういう才能があったんだな」と。そうすると、どんな花を咲かせるのか楽しみじゃないですか。
メジャーリーグには「スリーパー」という言葉があります。「眠っている才能」という意味で、3年後か5年後か、いつ花開くかわからないということ。「スリーパー」は、永遠の才能なんですよ。永遠に花開かない人もいるんですが(笑い)、可能性があるということなんです。
その可能性を開花させるためには、「自分の現在値を知る」こと。自分を直視して、あきらめないことでしょうね。
中田 個人の努力と、企業側の見つける努力と、両方あって個人の才能が開花するんですね。
二宮 そうですね。自分自身を客観視すると自分がよくわかるんですよね。
主観にとらわれてしまうと、「私はこんなに頑張っているのに何で認めてくれないのか」となってしまうんですが、もう一人違う自分を置いておいたら、「ここが足りない」ということがわかるんですよ。
自分がうまくいっていないときは自分を信じる。うまくいきすぎているときには自分を疑うということですね。自分に対する距離感の取り方を覚えておいた方がいいかもしれません。 |
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出会いは必然。優秀なリーダーは
今いる人材で最高の組織をつくる |
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| 中田 「勝つリーダー」には、どのような要素が必要なのでしょうか。
二宮 難しいですね。極意はないと思いますが、あえて言うならば……。
人口が世界で60億ぐらいいるなかで、誰かと出会うということはきっと運命なんですよ。私はいつも「この出会いは必然だぞ」と思うようにしているんです。
フランスのワールドカップの取材に行ったときに、ある記者と名将論で議論になりました。相手は「名将と名シェフは一緒だ」というんです。「どういうことなのか」と聞いたら、5つ星のシェフは、今ある食材で最高の料理をつくってみせる。星が1つ欠けた人は、最高の料理をつくるために最高の食材を集めると。なぜ星が1つ違うのかというと、今ある食材で最高の料理をつくろうと思ったら、シェフの腕が要ると。味加減とか、さじ加減が。
食材を人材に、料理を組織に置き換えてください。
つまりいちばんいいリーダーは、今いる人材で最高の組織をつくってみせるということです。その次が最高の組織をつくるために最高の人材を集める。そこそこの人材が集まったらリーダーがしっかりしなくても、後は組織ができます。でも本当のおもしろさはそうではない。やはり今いる人材をどのように掛け合わせて、1+1を2ではなくて、3にも5にもしていくか。リーダーの味加減、さじ加減なんです。
今いる人材がそこに集まっているのは、必然ですよね。何年一緒に仕事をするかわからないけれど、どうせやるなら「楽しかったね」「有意義だったね」といった方がいい。私は、「おもしろい組織」というのがいちばん強いんじゃないかと思っています。
中田 経営する側と働く側とで、一緒になって5つ星の会社をめざしていってほしいと思います。
二宮さん、本日はありがとうございました |
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