最先端医療を担うスペシャリストをめざして
チーム医療
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近年、医学の進歩と医療技術の高度化・専門分野化には目覚しいものがある。それと平行して医療現場ではさまざまな専門職がお互いに対等に連携し患者中心の医療の実現をめざす「チーム医療」が主流になってきた。そのため、高度な知識と技術高い職業倫理を持ったスタッフの養成が課題となっている。
医師・救急救命士・チーム医療 看護師・助産師 薬剤師・歯科衛生士 理学療法士・作業療法士・はり師・きゅう師・義肢装具士 診療放射線技師・臨床工学技士・臨床検査技師 言語聴覚士・視能訓練士 管理栄養士・社会福祉 これからの医療
医師
近年では医療技術の高度化に伴い、様々な検査や、薬剤治療、リハビリテーション、カウンセリングなど、各分野で分業化が進んでいる。その専門スタッフたちが患者の病状に応じてチームを組み、連携して治療に当たるのがチーム医療だ。医師を舵取り役として、それぞれの立場からの意見をフィードバックしながら、一人ひとりにとって最善の治療法を探り、実践していく。患者の心身を総合的にケアし、QOL(クオリティオブライフ=生命、生活の質)を高める医療の形として、その進展にますます期待が高まっている。


チーム医療とは
各専門スタッフが連携し患者一人ひとりにとって最善の医療を行う

中島宏昭先生
昭和大学横浜市北部病院副院長
中島宏昭先生

プロフィル なかじま・ひろあき/1971年、昭和大学医学部卒業後、同大医学部第一内科入局。米国 Mayo Clinic免疫・アレルギー部客員研究員や、都立荏原病院内科部長を経て、2000年、昭和大学横浜市北部病院呼吸器センター長、教授に就任。現在は同院の副院長も務める。著書に「生きる。生きる今を支える医療と福祉」(人間と歴史社、分担執筆)ほか

 医療現場でチーム医療の重要性が叫ばれる昨今、その中で医師に期待される役割とは何なのか。診療科の枠を超えた総合的な医療を実践する、昭和大学横浜市北部病院副院長の中島宏昭先生にお話を伺った。


技術を提供するだけが 医療ではない


  医療に携わるすべての人の使命として、「全力を尽くして治るべき病気を治す」ということが、まず挙げられると思います。
 そのために知識を蓄え技能を磨いていくわけですが、さらに「治らない病気を背負った人たちが、最期まで希望を持って生きられるようお手伝いする」ということも、もうひとつの大きな使命です。これは、今までの医学教育に足りなかった部分でもあります。

  というのは、医療の現場に出ると、現在の医学では治すことのできない病気を持つ人は多く、自分の知識や技能が役に立たないという状況に直面することが少なくないからです。けれど、そんなときこそ患者さんのそばに立って、これからの生き方を患者さんご自身やご家族とともに考え、サポートしていくことが求められているのではないでしょうか。そのためにもチーム医療が必要です。単に技術を提供することだけが医療ではないのです。


チームのまとめ役としてそして責任者として


 チーム医療の中で医師が果たす役割は、薬剤師や理学療法士、栄養士など、チームを構成するメンバーの知識や意見を引き出していくことです。みなさん、各分野の専門家として医師にはない知識や技能を持っています。それらを出し合って、患者さんの置かれている状況を分析し、その人にとって一番いい方向に向かうためにどうすればいいかを話し合います。その中で医師は治療方針を決定
し、各スタッフに役割分担をしていくわけです。
  ですからリードはするけれど、決して自分の考えを押し付けるものではありません。

医師

  とはいえ、医師には大きな責任があります。たとえば、患者さんの体にメスを入れることが法的に許されているのは医師だけですし、薬剤治療においても、使う薬の種類や投薬量を最終的に判断して処方するのは医師です。ほかの職種と比べて認められた医療行為の領域が広い分、責任も非常に重いのです。
  そしてもうひとつ、医師の重要な仕事であるインフォームド・コンセントについても、今改めて考えておきたいと思います。インフォームド・コンセントというと、手術など大きな治療をする際に限ってのことと思われるかもしれませんが、本来は診療のすべてに必要なことなのです。「診察しますがよろしいですか?」「では胸の音を聞きますよ」と、一つひとつを確認しながら進めていくことで、患者さんとの信頼関係を深め、よりよい治療に結びつけることができるのです。


これからの医療現場に求められる医師とは


 私が患者さんと最初に向き合う際に心がけていることは、まず「目で受け入れる」ということです。どんな思いでお互いがお互いを見るかで、人間関係は変わるものですよね。ですから、「今日はお会いできてうれしいです」「なんでもおっしゃってください」という気持ちを伝えることが大事だと思っています。チーム医療でもそうですよね。「ぜひ何か教えてください」という姿勢でいると、みなさんいろいろな意見を出してくれます。
  こんなふうに、周囲と積極的にコミュニケーションをとりながら良好な人間関係を築き、常に自分の能力を引き出す努力をしながら、患者さんの人生に貢献するために働くこと。今、何よりも医療現場で求められているのは、こういった志のある医師だと思います。

  これから医師を目指す人は、「どうして医師になりたいのか」をぜひもう一度考えてみてください。その思いはそれぞれ違うかもしれませんが、「目の前にいる病気の人をなんとかしたい」という強い気持ちがあれば、医療の現場に立ったとき、本当にやり甲斐を感じることができるでしょう。おもしろいことに、医師の人たちに、学生の頃と今、どちらが充実しているかとたずねると、ほぼ100%が今だと答えます。今のほうが生き甲斐を感じると。きっと患者さんの人生に、意味のある貢献ができていると思えるからなのでしょうね。これからの医療を担う人材に期待しています。(談)


救急救命士
1991年に米国の制度を導入、救急隊員の行う応急処置の範囲を拡大した新国家資格。救急車で心肺機能停止状態の傷病者を搬送する間、医師の指示のもと、「除細動(電気ショック)」「気管挿管」、「薬剤(アドレナリン)投与」などの高度な応急処置をする。
 
受験資格
(1)高校卒業後、文部科学大臣、厚生労働大臣指定の養成施設で2年以上必要な知識と技能を修得した人。(2)消防法に規定する救急業務に関する講習の課程を修了し、5年以上、または2000時間以上の実務経験の後、養成研修の選抜試験資格を得て、さらに研修を終えた人。

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