船木 まず自己紹介をかねて、温暖化に対するお立場・お考えをそれぞれお願いします。
原沢 国立環境研究所で、温暖化の影響について研究しています。
実験が不可能な分野ですが、ここ数年で気候モデルが急速に進歩し、スーパーコンピューターを使って将来の変動を予測できるようになってきました。それによると、例えば大気中のCO2濃度が現在の約2倍になった場合、気温上昇は世界平均で4度、極地方などはさらに大幅で、氷や雪に決定的なダメージを与える。東京でも熱帯夜が2ヵ月ほど増加し、豪雨が増える、といった結果が出ています。
さて、「2℃未満」という数字は90年の第2回世界気候会議で示されました。といっても絶対的な根拠があるわけではなく、様々な知見を総合して導き出されたものです。実際、生態系を維持するには1℃が限界といった見解もあるのですが、人間社会の持続可能な発展を主眼とする長期目標として、また議論の出発点としては、まず妥当ではないかと思います。
辰野 企業経営者、また登山家・カヌーイストの視点で、専門家とは違う角度からお話しできればと思います。
スイスにあるアイガー北壁には、通称「ホワイト・スパイダー」、白いクモが足を伸ばした形で岩肌にはりついた氷壁があり、世界の登山家が目指す難関となっています。ところが今年の夏、これが「黒いクモ」になっていた。雪が全くない。夏場でも雪が降るはずだったアルプスの山々の頂上付近に雨が降り、解かしてしまったのです。
岩山には水を蓄える森林がないため、観光地として有名なインタラーケンをはじめ、ふもとの地域では、洪水による大災害がおきました。観光が重要産業であるスイスは、これについて積極的な情報発信をせず、あまり大きなニュースになりませんでしたが、ヒマラヤだけでなく、ヨーロッパでもこうした影響が出始めているのです。
明日香 東北大学・東北アジア研究センターで、主に温暖化の政治・経済的側面を研究しています。
ここ100年、大規模な自然災害は着実に増えており、その8割は暴風雨・洪水などの気象災害です。それによる死者も年間5万人にのぼり、その9割が途上国。こうした事実は、日本人にはあまり知られていません。しかし、温暖化が進めば被害は間違いなく拡大していくでしょう。
温暖化対策は、「予防原則に基づいた政策判断によるリスク管理」です。気候がこれからどうなるのか、不確実な部分はたくさんありますが、大きな問題が起こってからでは遅い。個人が事故や病気に備えて保険に入るのと同様、社会や国レベルでのリスク管理が必要です。「2℃未満」という数字は、全体が協調して行動するための1つの基準として、科学的というより政策的に決められたもの、と考えればよいと思います。
村山 私の専門は短期的な気象予測と、気象と健康の関係を研究する「生気象学」です。
温暖化の影響と見られる異常気象を、私たちはここ日本ですでに体験しつつあります。例えば、昨年は台風が10個も上陸し、各地に集中豪雨による被害をもたらした。一生に一度あるかどうかという洪水災害に、2度3度と見舞われた地域もある。にもかかわらず、全国の7割の地域は例年より降水量が少なく、半分以下という所すらあったのです。
また近年は、北陸地方の降雪量がかつての半分以下、つまり冬場の山の上の「水のストック」がそれだけ減った。加えて秋の長雨がほとんど見られなくなった。そして梅雨は、年によりカラ梅雨か地域的な豪雨、上陸する台風は極端に多いか少ないかというのが最近の傾向ですから、もし少ない方が重なった場合、日本は確実に水不足になります。こうしたことがいつ起きてもおかしくないのが、今の日本の状況なのです。
鮎川 環境問題に足を踏み入れたきっかけは、わが子のアレルギーでした。現在WWFジャパンで,京都議定書にかかわるさまざまな活動をしています。
その議定書が今年2月に発効しました。これはCO2排出がコストになったことを意味しているのですが、多くの人はそのことを実感していないのではないでしょうか。環境に影響を与える私たちの活動は、その影響を抑え、あるいは回復するためのコストを当然に伴うものです。同議定書が訴えるこのメッセージが、政策的にも実現されていないからです。
一人ひとりがこのメッセージをしっかり受け止め、コストをきちんと支払っていくような社会の仕組みづくりを急がなければなりません。同時に、直ちに支払うべき具体的なコストのひとつとして、本日報告のあったような被害地域が、環境の変化の中で生活を維持するための「適応措置」への支援を進めることも大切です。

船木 ご存じのように、日本は京都議定書によって、CO2排出量を90年時点を基準に6%、その後増加してしまった現状からは14%という削減目標が決められています。そして08年から否応なく実績を求められることになります。ではこの「2℃未満」という数字については、日本政府、例えば環境省・中央環境審議会の長期目標の中などでどのように扱われているのですか。
原沢 国内では中央環境審議会の専門委員会で議論されています。世界的にも、京都議定書以降の枠組みについては各国の研究者や改革担当者が種々の提案をしています。「2℃未満」を達成するためには、さらに厳しい排出削減が必要だろうといわれています。例えば2050年までに全世界で50%、日本は60〜80%というような……。そして、アメリカ、途上国も巻き込んだ共通の目標を作って必ず実現しなければなりません。京都議定書をベースにしたさらに良い制度ができ、現在および将来開発される技術、そして人々のライフスタイルの変革をもってすれば実現は可能だと考えています。
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