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広告特集 企画・制作 朝日新聞社メディアビジネス局

ニッポン、グローバル人材のリアル

キャリアパスとしての青年海外協力隊。
新卒隊員がアフリカのガボンで得た「ご機嫌力」

「非日常」に飛び込むことは、リスキーでありながらも刺激的だ。しかし、非日常は「日常」と地続きである。慣れてしまえば日常になってしまう非日常を、永遠に味わい続けることなど誰にも出来ない。

知らない国へ向かい、これまでの常識が通用しない環境の中で地域に貢献する「青年海外協力隊」もまた、いつまでもそんな非日常の中で過ごせるわけではない。

二年というあらかじめ定められた任期は必ず終わる。そして、帰国した後には、日本での新たな日常である進路を決定しなければならない。

この進路には、多くの隊員が悩むという。この記事の主人公である元青年海外協力隊員の石山紗希さんもそんな元隊員のひとりだ。

彼女が隊員として過ごしたアフリカのガボンのこと、帰国後に働き始めた特定非営利活動法人ETIC.(エティック)について、彼女の上司である鈴木敦子さんと共に伺った。

非営利活動法人ETIC.
石山紗希さん
ローカルイノベーション事業部(チャレンジ・コミュニティ・プロジェクト)
大学卒業後、2012年9月から青年海外協力隊に参加、2年間アフリカのガボンで野菜栽培隊員として活動。
2015年4月よりETIC.に参画。
現在はローカル企業の経営革新に期間限定で挑む求人を紹介するプログラム、YOSOMON!を担当。

非営利活動法人ETIC.
鈴木敦子さん
事務局長/ディレクター
大学時代に起業家を目指す学生の勉強会として活動する団体ETIC.の立ち上げ段階から参加。大学卒業後に自ら起業するも、98年からはETIC.の事業化に伴い経営スタッフとして再びETIC.に参画。
現在はバックオフィスマネジメントを担当。

新卒でアフリカへ。「野菜」に馴染みのないガボンで農業活動

——本日はよろしくお願いいたします。早速、青年海外協力隊時代のことについてお聞かせください。石山さんは新卒で隊員になり、「ガボン」という国に行ったそうですね。ガボンという国名は、初めて聞きました。どんな国なんですか?

石山:ガボンは中部アフリカの赤道直下にある国です。石油が出るので農業のような第一次産業が発達していなくて、野菜は他の国から輸入するもの、というのが常識なんです。だからガボンの人は、野菜がどういう風にできて、どういう経緯で市場に並ぶのかを全然知らない。

そんな風に野菜に馴染みのないガボンで、私は脱石油依存経済のための産業多角化・農業活性化の一環として、ガボンの人たちと一緒に農業に親しむための活動をしていました。

言葉も、働き方も違う土地ガボンで体験した、極限でのチームビルディング

——「野菜に馴染みがない」という感覚は、農業の盛んな日本にはちょっとないですよね。農業にはもともと関心があったんですか?

石山:私はもともと大学で農業を専攻していて、農家さんと関われる仕事がしたい、と思っていたんです。でも、実際に勉強していたのは農業経済学だったので、しっかりと実地での経験があったわけではありませんでした。そのため、出国前にはJICAの農業研修(技術補完研修)とフランス語の研修(派遣前訓練)を2ヶ月間程受けてからガボンに向かいました。

ガボンの子供たちと一緒に収穫した野菜を持っての一枚。

鈴木:もともとやりたかったことに近いことを、ガボンで出来ていたんだね。研修を受けたとはいえ言葉の壁もあるだろうし、相当大変だったと思うんだけど。

石山: 本当に大変でした。私が行ったときは町に日本人は私だけだったんです。語学も一応研修は受けましたが、ガボンで話されているフランス語はアフリカ訛りがすごいので、言葉も通じなくて、初めは寂しくて寂しくて(笑)

なんとなく、周りが笑ったら自分も笑う、みたいなコミュニケーションから入って言葉は学びました (笑)

——コミュニティに入っていく段階でも大変だったんですね。ガボンと日本では相当文化が違うと思うのですが、文化的な面での苦労もありましたか?

農業局での一枚。異文化・異言語の中で、信頼関係を築き上げた。

石山:思い返すと全部良い思い出なんですが、よく考えると苦労ばかりですね。そもそも、ガボンは国土の8割が森林で、都市を除いて多くの家のすぐ裏がジャングルという環境なんです。つまり、ジャングルに入ればジビエとなる野生の鳥獣も獲れるし、バナナやキャッサバ、マンゴーも自生しているのでガボンでは食べ物には困らないんです。

そういう環境・文化で暮らす人に農業をしよう!と呼びかけるのは難しかったですね。それに、生きて行くのには困らない環境なので、中にはあまり働かないガボン人の同僚もいたり。言葉もままならない中、喧嘩をしたりして、大変でした。

鈴木:本当に、国内で普通の新卒として就職していたら絶対に直面しないような状況だったんだよね(笑)

——外国で、言葉もろくに通じない、分からない同僚と一緒に仕事をするというのは、ある意味、極限でのチームビルディングだったのかもしれませんね。

大変なことも多かったけれど、ガボンが大好きと語る石山さん。耳元に光るピアスも、アフリカ大陸をかたどったものだ。

石山:怒っても、黙々と働く背中を見せても、泣いても働いてくれなかったので、途中で同僚と働くことにこだわるのは諦めました(笑)一緒にやりたい気持ちはあったのですが、中には昼間からビールを飲んでいる同僚もいて、こういう感じでも生きていけるのか、と働き方について考えたりもして・・・。

そこで、発想を切り替えて一緒に働ける人を職場以外の場所に探しに行ったんです。地域の住民や学校、病院をあたって、農業に興味を持ってくれる人を見つけました。

——現状のまま立ち止まることなく、自分で新たな可能性を探しに行ったんですね。興味を持ってくれる人がいたのは嬉しいですね。

石山:ガボンの人にとっては、お米ひとつとっても「お米って、一粒一粒実るんだ!」という驚きがあったみたいです。収穫の時にはとても嬉しそうにしてくれて。ただ栽培するだけではなく、食育的な部分もあったかもしれませんね。

青年海外協力隊のもう一つの課題「帰国後どうする?」

——大変なことが多かった、というお話でしたが、石山さんの笑顔からガボンでの活動がとても充実していたことが伝わってきました。ガボンにいた頃は、帰国後の進路について考えることはありましたか?

ガボンの畑で育てた稲

石山:向こうでも考えることはありましたが、どうしても実感が湧かないので、具体的に考えたのは帰国後です。青年海外協力隊は、客観的に日本を見るいい機会になりましたし、同じ日本人隊員でも、「自分がどんな生き方をしたいか」ということがはっきりしている様々な人に出会って、視野が広がりました。

私は将来的には故郷の青森で暮らして、農家さんと関われる仕事がしたいと考えているので、それまでに日本国内に様々なネットワークを作ろうと思いました。そういうことが出来る働き方を探して、JICAの進路相談カウンセラーに相談したり、自分で調べたりしていましたね。

——いま働いているETIC.さんの存在を知ったのはいつですか?

石山:ウェブで調べているうちにETIC.の求人を見つけて、全国で色々な取り組みをされている方と一緒に仕事ができそうだったので、興味を持ったんです。

求人内容も、「ETIC.で何年か働いた後に、地域で何かやりたいと思っている人」を応援してくれる、という内容だったので、私にぴったりだと思いました。ちょうどその頃、品川で行われていた、地域で暮らすことや働くことに興味のある人向けのマッチングイベントにETIC.が参加していたので、青森から夜行バスで行きました。 私がいまETIC.で働いているきっかけです。

遠いようで近い、青年海外協力隊と日本国内の地方創生

——石山さんがやりたいこととETIC.さんがぴったりマッチしていたんですね。具体的に、ETIC.さんとはどんな団体なんでしょうか?

石山さんの採用面接も担当した、上司の鈴木さん。

鈴木:簡単に言うと、「起業家型リーダーの育成」を目指してインターンシップや起業塾を開催しています。

地域と関わるローカルイノベーション領域にも力を入れています。地域で挑戦したい人・東京にいながら地域と関わりたい人に対して、地域とパートナーシップを組んで様々なアプローチを紹介したり。

石山:私がやっているのも、日本各地の地域振興の取り組みのお手伝いです。例えば、地域のローカル企業の経営革新と、都市部のビジネスパーソンを期間限定でマッチングするサイトを運営しています。

ローカル企業の経営革新に、「よそ者」だからこそ出来ることがある、という考えのもと石山さんが運営に携わっているYOSOMON!

ご機嫌力・巻き込み力、フィールドが違っても活きる能力は同じ

——馴染みのない地域に入り込んで、新しいことを行う、という意味では青年海外協力隊と共通する部分がありますね。

石山:フィールドがガボンか日本の地域かというだけで、やっていることは本質的には同じだと思います。地域で何かをやりたい方・ネットワークを持っている方を起点に、興味を持っていなかった方たちもどんどん巻き込んで、火をつけていけたらいいなと考えています。

関わりのない地域に入って、人を巻き込んでいくことに関しては、隊員時代に鍛えられました。

——鈴木さんは、石山さんを面接されたとのことですが、何が決め手で一緒に働きたいと考えたんですか?

鈴木:何よりも、ポジティブで大らかなところです。とても「ご機嫌」でいられる人だなという第一印象で。人格に基づいている部分はあると思ったけど、やっぱりガボンでの「経験」が大きいなと。

ガボンで全く思い通りに行かない時、全く想像していなかったことが起きた時に、自分で働きかけてなんとかした、という話を聞いた時に「買いだな」と思いました。起業も同じで、そういう時に「うまく行かないじゃん」って批判する人では無理なんです。そういう時こそ、「ご機嫌」な気持ちでやり続けられる「ご機嫌力」のある人じゃないと。

石山さんの魅力は「ご機嫌力」と語る鈴木さん

「思い通りにならない経験」がキャリアを切り開いた

——石山さんのキャリアパスは、ガボンで活動した青年海外協力隊時代、日本の地域に関わるETIC.さんでの今のお仕事、青森に帰って農家さんと関わりたい将来、と明確に一本の線で繋がっていますね。

石山:そうですね。今の仕事もそうですが、きっとガボンでの経験は将来青森に帰った時にこそ、より活きるんじゃないかと考えています。

東京の仕事は「やりたい人」だけで集まってやっているけれど、地域では色々なしがらみがあって、スムーズにいかないこともあると思うんです。そういう時に、ガボンで学んだ「入り込む力」や、「思い通りにならなかった経験」を活かしたいです。

——最後に、青年海外協力隊に応募することを迷っている人には、どのようにアドバイスしたいですか?

石山:シンプルですが、行きたいという気持ちがあるなら、絶対に行ったほうが良いです!仕事や健康状態など、様々な外的要因で協力隊に行くことが難しい人も多いので。

私の場合は、子供の頃に教科書で見てから青年海外協力隊に憧れていたので、「協力隊に行く」ということ自体が目的になっていたところがあります。今振り返れば、それを経てどうしたいか?というのも考えて行けたら良かったな、と思うので、これから応募する方はそこまで考えられると、もっと視野が広がる良い経験になると思います。

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