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過酷な脳神経外科の
苦悩とやりがい

東京女子医科大学病院 脳神経外科 医師 高野裕樹さん

くも膜下出血や脳梗塞(のうこうそく)など、命をかけた手術が行われている脳神経外科。そんな命と直結する現場に日々身を置く若き脳神経外科医、東京女子医科大学病院の高野裕樹さんに、自身の医師としての原点や、受験生へのアドバイスなどを語ってもらった。

医師になった姿を見据えて

「医師を目指してほしい」という両親のすすめもあり、小学生の頃から漠然と自分は医師になると思っていたんです。中高一貫校に進学し、医師を志す同級生たちと一緒に切磋琢磨(せっさたくま)できたことで、その夢は強くブレないものになりました。

最初から脳神経外科医をめざしていたわけではありません。中学・高校と野球部に入っていてスポーツが好きだったので、ケガをした選手をサポートする整形外科医になりたいと思っていました。気持ちが変わったのは、大学1年生のときです。母親をくも膜下出血で亡くしたことで、命に直結する現場で働きたい、という気持ちが芽生えた。脳にも興味があり、どちらにも関われる脳神経外科に進むことを決めました。

これから医学部進学をめざす人は、「どうしたら医学部に入れるか」ではなく、「どんな医師になりたいか」を見据えてほしいと思います。そして、その夢を持ち続けることが大切です。しかし、成績が上がらないと医学部進学を諦めてしまう人も多い。モチベーションを保つには、セミナーや講演会などに行き、実際の医療現場で仕事をしている人の話を聞いてイメージすることが効果的だと思います。我が家では、朝日新聞に載った医療系の記事を母がスクラップしてくれていたので、それを読んで最新の医療事情を学びながらモチベーションを高めていました。結果的に小論文対策にもなりましたね。

今の医学部入試は、以前のように学力重視ではありません。小論文を取り入れたり、面接の比重を大きくしたり、医師の素質を求める大学が増えています。今後はさらに、コミュニケーション力やリーダーシップなど、臨床現場で必要な力が求められるようになると思います。だから、なかなか学力が上がらなかったとしても諦めないでほしいですね。

ハワイで学んだ“医学教育”

大学時代、一番印象に残っているのは5年生と6年生の時にハワイに2週間、タイに1カ月間の短期留学をしたことです。それまでは大学病院の臨床現場しか見ていなかったので、他の国の医療事情を学べたことはとても大きな刺激になりました。

ハワイで学んだのは“医学教育”についてです。医療シミュレーターや、「医学をどう教えるか」というプログラムなどもあり、とても勉強になりました。帰国後には、医学教育を下級生に教えるため、有志でサークルを結成したんです。勉強会を開いたり、どう教えていくかをみんなで考えたり。留学やサークル活動は、卒業後の研修先選びにも役立ちました。

日本では、基本的に臨床の現場に出てから“外来力”をつけていきます。しかし海外では、医学教育で外来の接し方やコミュニケーション、マナーなどを学生の段階から身につける。早くそうしたことを学びたくて、初期研修は指導力に定評のある長野県の佐久総合病院を選びました。この病院は分からないことを分かるまで教えてくれたり、すぐに振り返りをしてくれたり、サポート体制が整っていて、外来で患者と接する機会も多い。研修医時代にそうした経験を積めたことは、脳神経外科医になってからの外来にも生きました。

人気のある研修医病院は全国から志願者が集まるので倍率が高く、就職活動しないといけません。病院によって異なりますが、筆記試験や面接、小論文で採用が決まります。逆に定員割れしている病院は医師の人数が少なく、中には十分な指導が受けられないところもあります。初期研修の2年間を有意義なものにするには、実際に病院へ行って先生の話を聞き、雰囲気を見て、何を身につけられるかを確認してから選ぶことが大切です。

大変だからこそやりがいがある

脳神経外科医になって感じるのは、学生の頃に考えていた以上に、自分の力で患者を救える確率が低いということです。これまで4年間やってきて、救急で運ばれ瀕死(ひんし)の患者さんを自分たちの力で救えたと思えるのは、十例あるかないか。実際は手の施しようがない状態で運ばれてくる方がとても多いのです。そういう人に無理やり手術をするのは負担が大きいので、どうすればいいかを日々悩み続けています。重症の患者を診る科ということは分かっていましたが、実際に医師になってみると、その答えを出すのが一番苦しいですね。

特に判断が難しいのは、手術をすれば命は救えても、寝たきりになってしまうような状況です。患者の意志を聞きたいのですが、意識がないことも多々ある。退院して看病するのは家族です。だから家族の意向がとても大事になります。患者の意識がない場合は、どんな人だったのかを推測して、家族に話を聞く。そして自分の家族だったらどうするかを考えるようにしています。

一方で、技術の進化により治療できるようになった病気も増えています。今注目されているのは、「経皮的血栓回収療法」というカテーテル治療です。これにより脳梗塞を発症して8時間以内なら、大きな血管に詰まった血栓を取り除けるようになりました。

ただ、発症後8時間しかないので、施術するには救急要請する必要があります。より多くの人の命を救うには、まず啓発活動をして多くの人にこの治療法を知ってもらうこと。さらに救急隊が手術できる病院に患者を運ぶシステムや、到着後すぐに手術する院内の体制づくりが急務です。現在、病院到着後90分以内の再開通をめざすルールをつくるなど、国を挙げて取り組んでいます。

日々、命をかけた手術をする脳神経外科では、なかなか体と心が休まる時間はありません。他の科に行ってしまう医師もたくさんいますし、僕も思い悩んで不眠症になったこともありました。でも大変だからこそ、患者を救うことができた時の喜びはすごく大きいです。命に直結する現場に身を置きたいなら、ぜひ脳神経外科医をめざしてほしい。そう思える人は、きっとやりがいを感じられるはずです。(談)

たかの・ゆうき/2012年、神戸大学医学部卒業。同年、佐久総合病院初期研修医。東埼玉総合病院脳神経外科、亀田総合病院脊椎(せきつい)脊髄外科、東京女子医科大学附属八千代医療センター脳神経外科などを経て、18年から東京女子医科大学病院脳神経外科に勤務。

※掲載内容は取材・作成当時のものです。

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