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産婦人科医のスポーツドクター、という道を拓く

東京大学医学部附属病院女性診療科・産科 医師 能瀬さやかさん

華やかなスポーツ記録の陰で、女子選手が抱える、無月経や月経困難症といった婦人科の問題──。能瀬さやかさんは、日本では対策が遅れていたこの分野に立ち向かい、女性アスリート外来で診療に携わる。目的に向かうその行動力は、医師を目指す受験生たちにも力強いメッセージをくれる。

女性アスリートに健康な競技人生を

いま私は、大学病院の産婦人科医として診察や手術に対応しながら、2017年に国立大学附属病院で初めて開設された「女性アスリート外来」を週1回担当しています。婦人科系の問題を抱える女性アスリートへの治療方針を立て、試合へのコンディショニングのための月経周期調節や、月経困難症の治療などを行う外来です。

競技スポーツに参加する女性の多くに「利用可能エネルギー不足」「無月経」「骨粗鬆症」の症状があり、この問題は1992年にアメリカのスポーツ医学会から提起されました。原因は、運動量に見合った食事が摂取できていないことによるエネルギー不足。脳の下垂体からの黄体化ホルモンの分泌量が抑えられ、月経不順や無月経に至るのですが、それだけでなく、免疫や消化器、精神、代謝など、全身に悪影響を及ぼし、パフォーマンスの低下をもたらします。疲労骨折のリスクも高まります。

しかし、日本のスポーツ界でそれが周知され、対策が取られるようになったのはこの5年くらいです。スポーツ指導者の中には「女子選手は月経が止まって一人前」と発言する人がいたり、選手本人も「月経がないほうが楽」と思い込んでいたり、放置されがちでした。また、医師の間にもその知識は浸透していなかったのです。

研修医時代からこの問題に取り組みたいと思っていた私は、2012年に、トップクラスの選手を医学的にサポートする「国立スポーツ科学センター」に配属されたのを契機に、日本人女性アスリート約700人の調査を行いました。すると、全体の約4割に月経周期異常が見られ、無月経は7.8%。スポーツをしない同じ年頃の女性とは明らかに差があります。そこで、専門の先生方と協力して女性アスリート健康支援委員会を立ち上げ、全国の都道府県を回って、産婦人科医や指導者向けに啓発活動を行ってきました。

「おめでとう」と言える仕事を誇りに

私が医師を目指したのは、産婦人科の開業医をしている父の影響でした。病院でありながら、患者さんに「おめでとう」と言ってあげられる、その明るさがいいなあと幼い頃から思っていました。赤ちゃんからお年寄りまで、女性のすべての年代に関われること、そして内科的なことと外科的なことが一つの科で完結する、というところも魅力だと思います。

学生時代、医学雑誌で「スポーツと無月経」について書かれた記事を見つけ、「産婦人科医としてスポーツに貢献すること」を志したのですが、それは先例のない道でした。産婦人科の研修医をしながら、個人的にスポーツと名のつく研究会を調べて手当たり次第に参加したり、日本サッカー協会が主催するドクターセミナーを受講したり、模索の日々を経て、スポーツの現場にも関われるようになっていったのです。多くのデータを集めた臨床研究を、治療方針に役立てました。

アスリートは、競技に夢中なあまり「無月経が楽」と言うのですが、治療の結果月経がよみがえると「8年ぶりに月経がありました!」とすごく喜んでくれるケースもあります。やはり女性として、どこかで自分の体や将来の出産のことを考えているんですね。それまでの意識を変えて、後輩に受診を勧める姿を見ると、こちらもうれしくなります。

これからの私たちの課題は、中高生のスポーツ選手への取り組みです。骨密度などは10代からの介入が重要なので、部活動指導者に啓発していきたいと思っています。また、小児科、精神科、整形外科、運動生理学、スポーツ栄養学等の専門家とチーム医療を実現させていきたいですね。

きちんと栄養をとって、月経異常を放置せず、出産できる健康な体を守る。それはアスリートに限らず、すべての女性に必要なことです。私自身、今年の1月に出産し、生命が誕生する奇跡をあらためて実感しました。母と子、2人の命を預かり、誕生という大きな喜びを伴う場に立ち会う産婦人科医は、すばらしい職業です。これから医師を目指す人にも、患者さんの元気になった姿が見られる、やりがいのある仕事だと伝えたいですね。(談)

のせ・さやか/1979年秋田県生まれ。東京大学医学部附属病院女性診療科・産科。国立スポーツ科学センター非常勤。医学博士。北里大学医学部卒業。日本産科婦人科学会専門医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター、日本障がい者スポーツ協会公認障がい者スポーツ医、日本女性医学学会認定ヘルスケア専門医。

※掲載内容は取材・作成当時のものです。

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