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インタビュー

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人との比較ではなく
常に自己ベストをめざすことが大切です

国立スポーツ科学センター
メディカルセンター
副センター長・主任研究員
奥脇 透さん
おくわき・とおる/1959年生まれ。84年、筑波大学医学専門学群卒業。茨城西南医療センター病院、鹿屋体育大学助教授などを経て2001年JISSへ。日本オリンピック委員会(JOC)の医学部サポート部門副部門長、専任メディカルスタッフも務める。整形外科認定医・専門医。日本体育協会公認スポーツドクター。

人間力のすべてで人と向き合う


高校3年の冬まで真剣に花園をめざしていたので、本格的に勉強を始めたのは受験直前でした。周囲は浪人するものと思っていたかもしれませんが、私はそんなに諦めが良いほうではありません(笑)。最後まで悪あがきをしました。筑波大学に合格できたのは、たまたま苦手な問題が出なかったなど、ラッキーな面もあったと思います。ただ、数学だけは昔からずっと得意で、他の教科が悪くても数学では人に負けないようにいつも頑張っていたので、その自負が最後に自分を支えてくれたのかもしれません。もちろんどの教科もまんべんなく点が取れるに越したことはありませんが、得意分野にひたすら磨きをかけることで不調から脱するというのは、トップアスリートの場合にもあることです。これから受験に臨むみなさんも、何かひとつそういう武器を持つといいかもしれません。

大学に入り、ラグビーでケガをしたときに整形外科の先生にお世話になったことがきっかけで、スポーツ医学を志すようになりました。当時の仲間に聞くと、10年後にはスポーツドクターになって飛び回りたいなんて言っていたようですが、具体的に何をすればいいかわかっていたわけではありません。指導教授から言われたのは、医学全般を広く学びなさい、少なくとも10年は臨床もしっかりやりなさい、ということでした。スポーツ医学は応用医学ですので、これとこれさえ学べばいいといったカリキュラムはありません。それは裏を返せば、どんな道を通っても、本人の意志と努力があればスポーツドクターになれるということです。私の専門は整形外科ですが、同僚には内科や婦人科、放射線科などの医師もいます。受験生のみなさんは、今の勉強が将来何の役に立つのかと疑問に思うことがあるかもしれませんが、先に明確な目標があれば、その途上で経験したことは後で必ず生きてくると思います。

私たちスポーツドクターは、試合の前後だけ選手のケアをしているわけではありません。ひとつの大会が終わった直後から4年後を見据えて、あるいは選手がジュニア時代から8年後に照準を合わせて一緒に体づくりに取り組む、といったことも大切な仕事です。選手は良い結果を出すためならどんなハードワークもいとわない。指導者は選手に思う存分やらせたいと思っている。しかし医師は、ときにはその気持ちにストップをかけなければならないこともあります。

もし私が彼らの信頼を得ていなければ、「あの先生の言う通りにしていたら記録が伸びないから無視しよう」と思われてしまうでしょう。そこで練習をセーブすることを納得してもらうには、栄養学やメンタルトレーニングの知識が役立つこともあります。少しキザな言い方をするなら、医師というのは自分の人間力のすべてで人と向き合う仕事であり、どんな学びも体験も、決して無駄にはならないと思います。

予防医学的な観点で障害を防ぐ

私が受験生のみなさんにぜひ知ってほしいのは、自己ベストをめざすことの大切さです。何かひとつでも、昨日より今日を良くしようと努力すること。他者と比べて一喜一憂するのではなく、昨日の自分に挑むこと。そうやって一歩ずつでも前に進んでいけば、いつか望む未来に手が届く。そのことを私は、これまで出会った多くのアスリートから教えられました。

本当は、あらためてこんなことを言うまでもなく、人は必ず毎日進歩しているはずなんです。普通に生活をするだけでも昨日より確実に経験が増えているものだし、新聞に目を通せば何かひとつは新しい知識を得る。悩んでいるときには自分が全く停滞してしまったように感じることもありますが、決してそんなことはありません。「壁は自分がつくるものだ」といった有名アスリートもいます。自分でつくった壁なら、自分で壊すことも可能なはずです。勉強というのは、最後には自分ひとりの力でやるしかないものですから、受験生は誰でも孤独です。しかし苦しくなったときには、同じように孤独と戦い、自己ベストに挑み続けて成功を手にした多くのアスリートを思い出してほしいと思います。

これからスポーツ医学の分野で必要なのは、予防医学的な観点で、日常の生活動作も含めたアドバイスを選手に与えられるようにすること。そのための知見を積み上げていくことです。簡単なことではありませんが、私たちが今、苦労しながら経験していることを下の世代に伝えていけば、いずれスポーツ障害は未然に防ぐのが当たり前という時代がくるかもしれません。私たちスポーツドクターにとっては、せっかく大会に同行したのに出番はありませんでした、というのが一番の理想です。それはケガも病気もなく、選手が力を出し切れたということですから。地味な仕事かもしれませんが、スポーツの感動の陰には必要な黒衣だと思っています。もし若い人のなかでこの道を志す人がいれば、大いに歓迎します。(談)

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