Audiオーナーである作家・池井戸潤が、自らAudiのハンドルを握り、ニッポンの風景を訪ねる旅。第2回はAudi S8を駆って、尾道から松山まで、瀬戸内の島々を結ぶ「しまなみ海道」を渡った。「船に乗るな、潮に乗れ。」
千光寺の長い石畳の坂道を上ると、町を見下ろす展望台に出た。
港に沿って密集する古い町並みは雨に煙り、対岸にある造船所で溶接の炎が瞬いている。レールを打つ音とともに山陰から数両の列車が現れ、視界を横切っていった。
尾道は、一幅の絵画である。
ノスタルジックな懐かしさと素朴さ、そして地道な人々の暮らしが息づいている。
しばしそれを眺めて下山し、今回の相棒、アウディS8とともに向かったのは、瀬戸内海を縦断するしまなみ海道。全長、約五十九キロ。その名の通り、瀬戸内の島々を結んで海の上を走る道だ。

霧の立ちこめる道路をゆくS8の走りは、上質で美しい。エンジンをスポーツモードにしてアクセルを踏むと、みるみる車窓の風景がちぎれ飛びはじめるが、乗り心地は海の上を滑るように心地良い。
幻想的な光景だった。いくつかの橋を越えて行くのだが、濃い霧の中、それが谷間にかかっているのか海の上なのかもわからない。ただひたすら前方を見据え、走り続ける。
期待した海は見えないが、この辺りの海域は潮が速く、かつて難所として恐れられていたそうだ。村上水軍の海賊たちは、こんな言葉を伝え継いでいる。
――船に乗るな、潮に乗れ。
いい言葉じゃないか。人生にも通じる。生きていれば誰にだって、苦難の潮を乗り切らなきゃならないことはあるのだから。

松山に着いたのは、夜になった。
旅の疲れを落とそうと向かった道後温泉は、百二十年前、教師として赴任してきた夏目漱石も愛した湯である。
松山を舞台にした『坊っちゃん』は、軽妙洒脱な語り口だが、温泉の休憩室に残る漱石の写真は、いかにも不機嫌で、心に何かを抱え込んでいるように見える。
それもそのはず、実際の漱石先生は繊細で、何かに悩み、苦しんでいた生身の人間であった。そのせいか、そのユーモアにも、どこかもの悲しげな人生観がひそんでいるような気がするのである。

ちなみに、漱石の人生訓は「則天去私」。
私心を捨て、運命に委ねたその生き様が、かつて潮に身を任せた海賊たちに重なって見えるのもまた、旅の一興じゃないだろうか。

Audiラインナップ最高峰に位置する、スポーツモデルのプレミアムセダンAudi S8。ベースのAudi A8と同じ4ℓツインターボを520馬力までパワーアップするなど、スポーティにチューニング。ひとたびスポーツ・モードに入れると、トップクラスのセダンにして、想像以上のハンドリングの一体感が味わえる。
革新的なマトリクスLEDヘッドライトは、対向車、先行車、歩行者を確認し、その車の動きに合わせて照射するエリアの光量を自動調節する。
厳選されたマテリアルをふんだんに使った上質なインテリア。標準装備のBOSEサラウンドサウンドシステムに、スピーカーから逆位相の音を与えることで車内騒音を低減させるなど、より高い快適さをつくり出している。

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Audi S8

池井戸潤
池井戸潤 1963年、岐阜県生まれ。慶応義塾大学卒。98年「果つる底なき」で江戸川乱歩賞を受賞し、デビュー。『鉄の骨』で吉川英治文学新人賞、『下町ロケット』で直木賞を受賞した。13年に放映されたテレビドラマ「半沢直樹」(TBS系)は、『オレたちバブル入行組』『オレたち花のバブル組』が原作。ドラマは歴史的な高視聴率を記録し、「倍返し」は流行語にもなった。半沢シリーズ第3弾の『ロスジェネの逆襲』は100万部を超える大ヒットとなり、シリーズ第4作の『銀翼のイカロス』も発売3日で50万部を超える爆発的な売れ行きを示した。国内で最も新刊が待たれている作家の一人。愛車はAudi RS 6 Avant。
Art Direction : Hiroyuki Aoki (Mag) Photograph : Kiyoshi Tanaka Styling : Takahisa Igarashi Edit : Mitsuhide Sako , Eri Magara Produce : Teruhiro Yamamoto ( AERA STYLE MAGAZINE )