Audiオーナーである作家・池井戸潤が自らAudiのハンドルを握り、ニッポンの風景を訪ねる旅。今回は百万石を越える加賀藩が育てた伝統工芸を今に受け継ぐ街、金沢を訪ねた。「加賀友禅のこころ」
六月。ぼくは金沢にいた。
昼食をとり、21世紀美術館で現代アートを鑑賞する。さてこの旅もそろそろ終わりかというとき、思いがけず、加賀友禅の工房を見学してみませんか、とお誘いを受けた。
そうして訪ねたのが、松島由美さんのアトリエだ。
友禅染めの工程について丁寧に説明していただき、さらに染め付けまで体験するなど楽しい時間を過ごしたのだが、そのとき宮崎友禅齋にまつわるおもしろいエピソードをうかがった。

友禅齋には、長く想いつづけたひとりの女性がいたのだという。
若くして出会って心奪われたが、思いを告げられぬままそのひとは人妻になり、やがて病に伏せっていると噂に聞く。
狂おしく恋い焦がれる友禅齋は、その女性を元気づけようと渾身の絵を描き、染め付けて一枚の着物を仕立てた。だが、それが完成したとき、危篤の一報が届くのである。
病床に駆けつけた友禅齋は、横たわる女性の布団に着物を掛けた。その絵柄はまさしく傑作というにふさわしい出来栄えであったのだが、同時に友禅齋は悟ってしまったのだ。
絵師として、これ以上の作品はもう描けない。そして、この着物が似合うのはこのひとを措(お)いて他にないのだと。
かくして、友禅齋による畢生の大作は、愛する女性とともに荼毘に付されたのであった――。

いろんな意味で、悲劇ではないか。
愛する人を失ったのも哀しいが、期せずして最高傑作をものにしてしまったのもまた、クリエーターにとっては不幸である。
ぼくは作家として毎日机にしがみついているけれど、いまだ最高傑作といえる作品を書いたことはないし、書けるかどうかもわからない。
いやいや、負け惜しみではなく、書けないからいいのだ。そんなものを書いてしまったら、その後、それを越える作品は生めないことになる。それは筆を折るかどうかの大問題だ。

では、友禅齋の場合その後どうしたのか?もしかすると、いま自分がお邪魔しているこのアトリエの存在そのものが、その答えではないかと、ぼくは思った。
友禅齋の染色技法とその芸術世界は、数百年の時を経たいま、「加賀友禅」として多くのひとが共有する伝統となっている。芸術家として自らの到達点を見た友禅齋は、後進を指導し、自らの技術を後世にまで継承しようとしたのではないか。
高みを極めた次に、時を超えた広がりを目指す――。
なるほど。友禅齋は、なかなかの男である。

Audi Q7、Audi Q5に続く第三のSUVモデルとして人気を集めているAudiのプレミアムコンパクトSUV、Audi Q3が今年5月に新しく生まれ変わった。クーペライクな美しさが際立つスポーティなボディラインと、より立体的になったシングルフレームが精悍な印象を残す。「取り回しがいいサイズなので、街の中でも快適に走れるSUVですね」と池井戸さん。
ウインカーを作動させると光が進行方向に向かって流れるように点滅するダイナミックターンインディケーターを採用したテールライトと、ロービーム、ハイビームともにLEDを使用したフルLEDヘッドライトがオプションで用意されている。パワーアップしたエンジンは、同時に約18%の低燃費をも実現。ラゲージ容量は460ℓと、余裕の広さを確保している。


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池井戸潤
池井戸潤 1963年、岐阜県生まれ。慶応義塾大学卒。98年「果つる底なき」で江戸川乱歩賞を受賞し、デビュー。『鉄の骨』で吉川英治文学新人賞、『下町ロケット』で直木賞を受賞した。13年に放映されたテレビドラマ「半沢直樹」(TBS系)は、『オレたちバブル入行組』『オレたち花のバブル組』が原作。ドラマは歴史的な高視聴率を記録し、「倍返し」は流行語にもなった。半沢シリーズ第3弾の『ロスジェネの逆襲』は100万部を超える大ヒットとなり、シリーズ第4作の『銀翼のイカロス』も発売3日で50万部を超える爆発的な売れ行きを示した。国内で最も新刊が待たれている作家の一人。愛車はAudi RS 6 Avant。
Art Direction : Hiroyuki Aoki (Mag) Photograph : Masaya Adachi Styling : Takahisa Igarashi Edit : Mitsuhide Sako , Eri Magara Produce : Teruhiro Yamamoto ( AERA STYLE MAGAZINE )