「加賀百万石の粋を今に伝える」伝統工芸文化を育て、加賀の地に花開かせた前田家。金沢の人々の美しさに対する意識の高さは、時代を超え、今も市民に受け継がれている。
北陸新幹線が開業し、多くの観光客が訪れ活気が溢れる金沢の街。
「金沢の街にはインテリジェンスがある。京都とはひと味違う、質素を旨とした武家社会が育んだ端然とした美意識を感じます」と池井戸さん。
けれど、かつては金沢も、地方都市が抱える街の中心部の空洞化という問題に直面していたのだそうだ。

『金沢21世紀美術館』がある場所は、郊外に移転した金沢大学の小中学校があった場所で、賑わいを創出することを目的に、空洞化対策の一環として設立が計画された。開館から10年以上が経った今では、ここを訪れることを目的にする旅行者も多い日本屈指の人気美術館になっている。
マイケル・リンの作品「市民ギャラリー」は、加賀友禅の伝統的な柄をモチーフに描かれた壁面の作品。その前の椅子に座り、ヤン・ファーブルの「雲を計る男」を眺めることもできる。この場所は交流ゾーンと呼ばれる場所にあって、無料で誰でも楽しむことができる。「ただ座っているだけで心地が良い。この美術館は金沢の人たちにすっかり溶け込んでいるね」

金沢城公園の隣にあった石川県庁も郊外へ移転した。元県庁だった大正時代の建物は半分を保存し、もう半分をガラス張りのモダンな造りにして『しいのき迎賓館』として開業。
兼六園からもほど近い旧陸軍の兵器庫として作られた赤レンガ棟は、『いしかわ赤レンガミュージアム』として今年4月にリニューアルされている。
加賀百万石の城下町として栄え、第2次世界大戦の空襲を受けなかった金沢は歴史的な建造物が残っている街だが、それらを人を呼び戻すための力に代え、中心部に賑わいを取り戻している。

代々の加賀藩主が、工芸に秀でた職人を呼び寄せて文化事業を奨励したことから、金沢には様々な伝統文化が今も残されている。特に金沢箔は全国のシェアの99%を占める。
『金箔屋さくだ』で、1万分の1ミリという薄さにまでひたすら打ち延ばして作る金箔の製造工程を見学させていただいた。金を挟んで打つために使う箔打紙を作るだけで3ヵ月の工程を要するのだという。ちなみに、繊維がきめこまかなこの箔打紙が、“おしろいを落とさずに脂だけがとれる”と、芸妓さんたちの間で人気のアイテムとなり、「あぶらとり紙」として愛用されている。
池井戸さんが訪れたこの日は平日だったが、金箔を貼る体験工房は大変な賑わい。江戸時代の藩主の施策が、時を超えて今も金沢の街を潤している。

加賀友禅もまた、加賀藩の文化振興政策の庇護の下で確立していった技術である。京友禅の創始者と言われる絵師、宮崎友禅斎が、晩年は金沢に身を寄せたと言われている。ぼかしの加わった模様と、自然描写を重んじた虫喰いなどの独自の技法が生まれた。
旅の終わりに、加賀友禅作家の松島由美さんの工房にお伺いし、彩色の体験をする機会を得た。実際に筆をとり、ぼかしを入れる方法を教わった。池井戸さんの周囲にお弟子さんが集まり、口々に筋がいいと褒めてくださる。
加賀友禅の技術が今に残っているのは、金沢がお寺の多い街だという理由もあると松島さんは話す。住職の着物が染め物の職人の技を支え、染め師と友禅作家が共に和服の文化を守ってきた。美しさを尊重し、丁寧に暮らす意識が、多くの人を魅了する金沢の街を作っているのだろう。

Text by Eri Magara
池井戸潤のエッセイはこちら

器で呑む
食事の前に立ち寄った『倫敦屋酒場』で、池井戸さんはショットグラスと運命的な出会いをしてしまう。

「いろんな器で酒を飲んできましたが、手に入れたいと思うものはありませんでした。でもこれは底が厚くて、そのずっしりとした重さが手に馴染む。またこのグラスで飲みたくなりました」 しかも金継ぎがしてある世界にひとつだけのグラス。即お買い上げ!

『倫敦屋酒場』にこのグラスの由来を尋ねた。
「東京・麹町で『ザ・ウイスキー』というグラスショップを開いていた二唐武平さんが作ったグラスなのですが、お亡くなりになって新しいものが手に入らなくなってしまいました。ほんとうにいいグラスなので、型をとってお作りしているんです」タイミングが合えば店で分けていただけるそうだ。

金沢21世紀美術館

昨年の入館者数は約176万人と、地方都市の美術館としては破格の人気を誇る。北陸新幹線が開業した今年はさらに増える見込みだ。敷地に境界がなく、建物にはどこから入ってどこから出てもよい。ちょっとした休憩や待ち合わせなど、市民の憩いの場にもなっている。建築の設計は、妹島和世+西沢立衛/SANAA。

住所:〒920-0962 石川県金沢市広坂1-2-1
電話:076-220-2800

金沢21世紀美術館 公式サイト


金箔屋さくだ

ひがし茶屋街からほど近い『金箔屋さくだ』は、ここで箸や小箱などへ金箔を貼る体験もできるとあって、多くの観光客が訪れる。1階がショップ、2階はギャラリーになっていて、お手洗いも金箔、プラチナ箔というゴージャスな空間になっている。

住所:〒920-0831 石川県金沢市東山1-3-27
電話:076-251-6777

金箔屋さくだ 公式サイト

Audi Q3
クーペライクな美しいボディラインが際立つプレミアムコンパクトSUV、Audi Q3。「取り回しがいいサイズなので、街の中でも快適に走れるSUVですね」と池井戸さん。
Audi Q3 の詳細はこちら

Art Direction : Hiroyuki Aoki (Mag) Photograph : Masaya Adachi Styling : Takahisa Igarashi Edit : Mitsuhide Sako , Eri Magara Produce : Teruhiro Yamamoto ( AERA STYLE MAGAZINE )