「世界遺産・富士の裾野を遊ぶ」2013年、富士山が国内で17番目の世界遺産に登録された。登録名称は「富士山‐信仰の対象と芸術の源泉」。25ある構成資産のうち半数程を2泊3日の旅で巡ることができた。
富士の裾野を渡る風が涼やかに木立の梢を揺らし、繁殖期を終えた鳥たちがおだやかに鳴く夏の『青木ケ原樹海』を散策した。同行いただいたのはネイチャーガイドの高山 弘さんだ。
樹海は9世紀頃の富士山の噴火活動で流れ出た溶岩流の上にできた森。そこここに溶岩洞が口を開け、木々たちは岩の上に積もったわずかな厚さの土に根を張って生きている。
「不思議と蝉の声が聞こえませんね」、池井戸さんが高山さんに尋ねた。
「このあたりは10センチ程度の土の厚さなので、蝉の幼虫は生きられないようです。樹海の中でも土が深い場所には蝉がいるのですが」
風によって倒された木の根を見ると、岩の上を這うように根を張っていたのがわかる。
「倒されてしまっても、スポンジの役割を果たすコケから水分を得て、生き残る木もあります」と高山さん。摩訶不思議な姿の奇木は、そんなふうに試練を耐えた姿なのだ。

実は『青木ケ原樹海』は、世界遺産の構成資産には含まれていない。観光開発が進んだ富士山は“自然”遺産ではなく、“文化”遺産として登録されているからだ。
登録にあたってはゴミの多さも問題とされてきたが、観光客のマナーの向上と地元の方々の努力で、美しさを取り戻している。
「1時間半歩いて、空き缶ひとつと自転車1台のゴミを見かけただけでした。たくさんの人がトレッキングを楽しんでいる場所で、それだけの数に留まっているのは素晴らしいことだと思います」と池井戸さん。
樹海にまつわる俗説には誤りが多いことも分かった。高山さんがポケットから方位磁石を取り出す。“樹海の中は磁石が利かない説”の検証をしてくれるのだ。磁石を岩の上に置けば針がわずかに振れることもあるが、離せば方位はわかる。
「樹海内の溶岩は磁鉄鉱が多いのでそのように言われていますが、わずかな磁力なので、方角がわからなくなるほどではないんです」

そして、信仰の対象として世界“文化”遺産の構成資産になっているのが、ここ『北口本宮冨士浅間神社』だ。平安時代に活発に活動していた富士を鎮めるために建立されたと伝えられている。
同様に、信仰の対象として世界遺産の構成資産になっている『御師 旧外川家住宅』は、江戸時代後期に優勢を極めた冨士信仰の信者、富士講の世話や指導をした場所だ。

富士山の伏流水がこんこんと湧き出す美しい『忍野八海』もまた、信仰の対象として資産のひとつに数えられている。富士講の修験の霊場だったからだ。現在は透明度の高い池に大型の淡水魚が悠然と泳ぎ、池のすぐ近くまで土産物店が迫る。
観光資源として古くから開発されてきた富士。それゆえ、問題の改善の余地アリという宿題付きで世界遺産へと登録された。今後この登録がきっかけとなり、富士を守り、保全への方向に舵を切るのか、注目が集まっている。

Text by Eri Magara
池井戸潤のエッセイはこちら

夏のほうとう一本勝負!
野菜たっぷり、カボチャの甘みととろんとした麺の食感、山梨に来ればやっぱり食べたくなるほうとう。
この旅の始めに、腹ごしらえのために寄った『ほうとう不動』東恋路店の、郷土料理の店とは思えない攻めのデザインの店舗にビックリ。建築家の保坂猛さんの設計で、世界的な建築賞を多数受賞している。
富士山にかかる雲のような外観で、店を正面から見ると、背景に堂々たる富士山を従えている。
内部も有機的にうねる白い大きな空間になっていて、日中は自然光だけで光がまわっている。冬以外は基本的にオープンエアーで、我々が訪れた夏らしい天気に恵まれたこの日はかなり暑かったのだけれど、クーラーなしの店内で、半円形に開いた雲のすき間に覗く富士山を眺めながらアツアツのほうとうをいただくのは、それはそれで旅の1ページにふさわしい思い出深い体験になった。

ほうとう不動 公式サイト

北口本宮冨士浅間神社

約1900年の歴史を誇る富士信仰の聖地。古木が繁る参道を進むと、木造では日本最大の冨士山大鳥居や大樹の御神木が立つ。吉田口登山道の起点がある。

住所:〒403-0005 山梨県富士吉田市上吉田5558
電話:0555-22-0221


北口本宮冨士浅間神社 公式サイト

Audi A1
レースで培かってきた技術を市販車へ投入したスポーツカーがAudi R8だ。圧倒的なパワーと俊敏な加速、そして安定感のあるコーナリング。ドライビングへの情熱を掻き立てられる一台。
Audi R8 の詳細はこちら

Art Direction : Hiroyuki Aoki (Mag) Photograph : Kiyoshi Tanaka Styling : Takahisa Igarashi Edit : Mitsuhide Sako , Eri Magara Produce : Teruhiro Yamamoto ( AERA STYLE MAGAZINE )