「ニッポンの夏の端正な避暑ゴルフ」ホームコース選びは結婚に似ている。美貌(コースレイアウト)に一目惚れする人もいれば、身長の高さ(全長7000ヤード以上)だけは譲れないという人もいる。ここ富士桜カントリー倶楽部は池井戸さんが選んだホームコースの一つだ。
「何年か前も猛暑で、とにかく涼しくプレーできる場所を探したんです」
都心の池井戸さんの住まいから河口湖まで、中央自動車道がすいていれば2時間かからない。猛暑の夏も、標高約1000メートルの富士桜カントリー倶楽部にはからっと涼しい風が吹いている。
この日も東京は8日間続いた猛暑日のまっただ中だったが、日陰に入れば十分心地良い。
「やっぱりいいなあ」
新作の執筆に集中していたため、ほぼ一カ月ぶりにクラブを握るという池井戸さんはアウト1番のフェアウェーをまぶしそうに見ている。びっしりと目の詰まったベント芝のフェアウェーは滑らかな絨毯のよう。振り返れば富士山がすぐ近くに見える。

3週間で600枚ほどの原稿を書き上げた池井戸さんは「まだ頭がゴルフに切り替わらないな」と言って、ドライバーをおそるおそる振った。軽いドローで飛び出したボールはフェアウェーをとらえた。
「何も考えていないから逆にいいのかな。でも、机の上に距離感があっているときは、アプローチの勘が働かないからね」
池やガードバンカーをうまく配置したコースは戦略的で、絶え間なく改造を続けている。この日も「フジサンケイクラシック」をドラマチックにするために、18番のガードバンカーの改修が進められていた。
「たぶん最終日はあのバンカー側にピンが切られますね。トッププロもぼくらアマチュアもレベルに応じてそれぞれのゴルフが楽しめます」

速いグリーンが好きという池井戸さんは、1ピンの距離のパットを次々に沈めていく。「きょうはまだ10フィートぐらいだけど、気候の良い秋などはスリリングですよ」
ここのグリーンにはニューベントのA2が植えられている。ゴルフの祭典・マスターズが開かれるオーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブと同じと言われている。トーナメントの「フジサンケイクラシック」開催時だけでなく、通常営業時でも高速グリーンを維持している。
リゾートコースはややもすれば、だらしなくなりがちだが、富士桜カントリー倶楽部は隅々まで神経が行き届き、グリーンの仕上げ一つとっても端正だ。

折り返したインの10番からは風も吹き出した。少し風があるだけで、体感温度はぐんと下がる。
「夏の間、この近くで仕事をしたらはかどりそうだなあ」
作家の避暑地は軽井沢が定番だが、池井戸さんは河口湖周辺の落ち着いた雰囲気が好みだという。
「コースがオープンしている4月から12月までは、それぞれの季節の良さがありますね。春は桜が、秋は紅葉が見事です。雪をかぶった富士山は静岡側から見るのとは違った迫力がありますよ」

Text by Osamu Kato

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弘法筆を選ばすとは言うけれど
池井戸さんのクラブは、アイアンもドライバーもエポンゴルフ(遠藤製作所)のヘッドにファイアーエクスプレスというシャフトを挿している。ひとことで言えば「通好み」のセッティングだ。
遠藤製作所は国内外の有名ゴルフクラブをOEM製造している知る人ぞ知るメーカー。ファイアーエクスプレスはヘッドスピードの速い池井戸さんにぴったりで、タイミングが合うと高弾道でどこまでも飛んでいく球が出る。
フィッターが組み上げたセットで池井戸さんにぴったりと合う。ただ何年か使うと、「もっと飛ぶ」とうたう新製品が出て、ゴルファーを誘惑する。
池井戸さんも誘惑に負けて昨年はボロンシャフトのドライバーを購入したが、「まったくタイミングが合わず」すぐに現在のセッティングに戻した。
「弘法筆を選ばずとは言いますが、ゴルフはクラブを選んでいる時間も楽しいですね」

富士桜カントリー倶楽部

志村和也設計で1975年に開場。標高約1000メートルの富士北麓に位置し、猛暑のなかでも涼しい高原ゴルフが楽しめる。1996年から8回「フジサンケイレディスクラシック」を開催し、2005年からは「フジサンケイクラシック」の舞台として親しまれている。

住所:〒401-0302 山梨県南都留郡富士河口湖町小立7187-4
電話:0555-73-2211

富士桜カントリー倶楽部 公式サイト

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