「ニッポンの神の国へ」二十年に一度の式年遷宮により、古より技術が継承され、未来へとニッポンの心を伝えていく「伊勢神宮」。清らかで安寧な空気感と凛とした佇まいに、自然と心に感謝の気持ちが満ちてくる。
「穏やかないいお参り日和になりましたね」。神宮の神職さんに迎えられ、内宮へと続く大鳥居をくぐり、宇治橋を渡る。世田谷区とほぼ同じ広さを持つ広大な伊勢神宮の敷地の中でも、五十鈴川から先が神域となる。
日本には古事記や日本書紀が伝える神話の故郷がいくつもある。この「作家、池井戸潤。ニッポンを走る」の連載も、神話の国・宮﨑からスタートしている。しかし、ここ伊勢神宮こそ神の中の神、日本神社界の中心。神様に毎日朝夕のお食事を捧げ、五穀豊穣と平和と繁栄の祈りを捧げる祭儀が、神話が伝えるとおり現在まで続けられている。
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参道の玉砂利を踏みながら、天照大御神を祀る正宮を目指す。広大な敷地に深い森を湛えた木々の息吹に包まれ、自然と感謝の気持ちで胸がいっぱいになる。ご先祖様が眺めた景色は、今も昔もきっと変わらないのだろう。
神宮は二十年に一度、式年遷宮が行われ、神様は新宮にお引越しされる。690年から続く式年遷宮により、神宮は同じ姿で生まれ変わりを続けている。遷宮は社殿だけに留まらず、御装束神宝と呼ばれる服飾品や調度品にまで及ぶ。約1300年前の昔から現在、そして未来へも、変わることのない姿で私たちの心の故郷であり続けてくれるに違いない。

正宮でお参りした後は、別宮を参拝する。
風日祈宮(かざひのみのみや)では、風雨の災害のないようお祈りした。御酒殿(みさかどの)にはお酒の神様が祀られている。「神様はお酒が大好きです」との説明に、「神様と気が合うな」と笑う池井戸さん。
参道を歩きながら、「神様のための調度品には、織機もあります。神様が機織りをなさいます。神様は働くことが好きなんです」と神職さんに教えていただいた。
「伊勢神宮の存在感がとても心地良いのは、すべての日本人が帰れる場所だからでしょう。毎日元気で働けることに感謝しなくてはいけませんね」
2016年、ここで「伊勢志摩サミット」が開催される。自然を畏れ感謝する日本人の心が、世界の人々へと伝わるに違いない。

伊勢に着いたその足で向かったのが、伊勢根付の職人、中川忠峰さんと梶浦明日香さんの工房だ。伊勢根付は、伊勢神宮の参拝客の土産物としても珍重された日本独自の細密彫刻。江戸時代に大ブームとなった伊勢参りから「無事帰る」「子孫繁栄」などの縁起を担いで、ヒキガエルやネズミをモチーフとした作品が多く造られた。
朝熊山で採れる黄楊(ツゲ)は固く、細部にまで彫刻を施すことができる。ポケットのない着物に印籠や巾着、煙草入れなどの提げ物を腰の帯に引っ掛ける道具として、使い込まれた“粋”な意匠の根付でお洒落を楽しんでいた。けれど、着物を着る機会が減るとともに、根付を目にすることも少なくなっている。

梶浦明日香さんは、なんと元NHKキャスター。取材で訪れた根付職人の中川忠峰さんの仕事とお人柄に惚れ込み、根付を広めたいとこの世界に飛び込んだ。大英博物館には根付のコレクションがあり、根付を題材にしたノンフィクション『琥珀の眼の兎』がイギリスの2011年ブックオブザイヤーに選定されている。日本人には馴染みが薄い根付も、海外では美術工芸品としての評価が高い。
「知らないことがたくさんあるなぁ」と、根付を初めて手に取った池井戸さん。「そうだ、グリーン上でゴルフのパターのカバーを外した時、ポケットにねじ込んでいるけれど、根付を使ってベルトに下げてみようかな。根付の小説も読んでみよう」伊勢の伝統工芸に携わる若者はみな仕事熱心、勉強熱心だったと池井戸さん。「僕は日本の工芸品はもっと評価されるべきだと思っています。工芸の評価システムが一般化されるといいですね」

Text by Eri Magara
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「おかげ犬」も参拝したいワン!
池井戸さんのエッセイに「おかげ犬」が登場したが、この「おかげ犬」(代参犬)の一刀彫を製作したのが、彫刻家の中野結衣さん。伊勢の一刀彫は、神宮に従える宮大工が端材を使って縁起物を刻んだことが始まりと言われ、一度の刻みがそのまま仕上がり面になるような荒削りで大胆な造形が持ち味。仕事場に伺った時、中野さんも伊勢神宮で頒布される来年の干支の一刀彫の製作の真っ最中。「祖父が神宮の干支守を毎年買っていたので、子どもの頃から馴染みのあるものでした。師匠を探して一刀彫を始めて6年、去年から干支守に自分の刻印を押せるようになりました」と嬉しそうに話していた。伊勢根付の梶浦さん、漆芸の村上麻紗子さんなどと、伊勢の伝統工芸に携わる若手で勉強会を重ねている。
そういえば件の「おかげ犬」、今も犬は参拝できるのか気になり神職さんに伺ってみた。にこやかに「遠慮していただいています」との答え。……ですよね。

伊勢神宮

およそ二千年もの間、国の平安を祈り続けている伊勢神宮。天地をあまねく照らす日の神様、天照大御神をお祀りしている。伊勢神宮に「心の故郷」を感じる日本人が、今も数多く参拝に訪れる。

住所:〒516-0023 三重県伊勢市宇治館町1
電話:0596-24-1111


伊勢神宮 公式サイト

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