「景勝の地で神々と遊ぶ」趣味の世界はどんなものでも果てがない。釣り人は「魚釣りは奥深い数学のようなものだ。誰も完全にマスターする事はできない」と言うし、登山家は「征服すべきは山の頂上ではなく、自分自身だ」と宣言する。ゴルファーもまた「ゴルフは人生そのもの」と語る。仕事ではない何かに熱中し、失敗と成功に一喜一憂するのは、つき詰めれば、日常の世界を離れる体験だ。
遠近に霊山ありて初ゴルフ
近鉄賢島カンツリークラブのスタートホール前には山口誓子の句碑がある。
賢島のホテルに泊まり、伊勢神宮に初詣に行くのを習わしにしていた誓子にとって、伊勢志摩国立公園の風景はなじみのものだった。神々が宿る山々に抱かれたこのコースは、同時に全米女子プロゴルフ協会(USLPGA)公式戦を日本で唯一2006年から毎年開催している最先端のコースでもある。
ティーグラウンドに立つとダイヤモンドカットに刈られたフェアウェーが美しい。USLPGA公式戦を機に、縦縞のゼブラカットをやめ、より公平なダイヤモンドカットにした。ゼブラカットは緑が濃く見える部分の芝が逆目で、落ちた地点によるランの出具合に差ができると言われている。
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この日は「TOTOジャパンクラシック」開催直後ということもあり、グリーンも池井戸さん好みの早いグリーンに仕上がっていた。「うーん、このグリーンは読めないね」
大きな傾斜のあるポテトチップグリーンではなく、微妙な傾斜がカップ回りにある。「キャディーさんの読みを聞いても、切れないと思っているから体が微調整しちゃうなあ」
設計した上田治は「柔の井上誠一、剛の上田治」と呼ばれる日本を代表する設計家で、師事したアリソン同様に身長を超すような深いバンカーを戦略的に配置している。
池井戸さんはスイング改造中ということもあり、ドライバーが左右に散り、得意のアイアンでなんとか取り戻すという苦しいラウンドだった。
「ティーショットのボール位置をちょっと左に置くようにして、スイングを修正中です。まだどうもしっくりこないなあ」

理想のスイングを視野に入れた調整は、なかなか固まらない。
アイアンでティーショットを打てる四つのパー3で、楽々ピンそばにつけ、三つのパーを取っているだけに、ドライバーの不調ぶりは際だつ。
「うーん。ここだけ元のアドレスに戻して打ってみようかな」
13番パー5で業を煮やした池井戸さんが言った。
きれいに振り抜いたティーショットはフォローの風に乗り、ぐんぐん伸びる。落下地点は緩やかな下りで、ランも出た。
「やっぱりこっちかな」
池井戸さんも苦笑いを浮かべるほどのナイスショットだ。

きれいに刈りそろえられたフェアウェーを歩き、落下地点に向かうと、芝にスプレーで書かれたアルファベットの文字が目に入ってくる。TOTOジャパンクラシックでの女子プロのドライビングディスタンスの記録だった。
いくつもそんなマークを超え、池井戸さんも嬉しそうだ。
一緒に回ってくれたキャディーも「280ヤード以上飛んでいますね。試合の日も今日と同じくらいの風とティーグラウンドだったので、ほぼ同じ条件です」と話す。
残りは230ヤード弱。ウッドを持った池井戸さんの第2打はちょっとフックがかかってグリーン左のバンカーにつかまった。そこから楽々と脱出し、ピンまでは約4メートルの下りフックライン。
「これは入るよ」
池井戸さんはそう言って、真ん中からバーディーパットを決めた。
「入ると思えるときは結果もついてくるね」

バーディーを取った良い気分のまま、14番ホールのティーグラウンドに立った池井戸さんは言った。「もう一回だけ新しいアドレスを試してみようかな」
「あ~っ」
フックしたボールはやはり大きくフックし、左の斜面に止まった。
「挑戦なければ進歩はない、なんて言うつもりはなくて、やっぱりもっと良くなるかもしれないと思うと試しちゃうんだよね」
作家としては「手を抜いた作品は出せない」と自らにプレッシャーをかけ、完成度を高めているが、ゴルフでは別のようだ。
「気の合う仲間とのゴルフの楽しさは何物にも代えられませんが、小説のアイデアを考え、原稿を書く楽しさもまた至極の体験です。ゴルフより小説を書く方がちょっと才能があるかな」

Text by Osamu Kato

池井戸潤のエッセイはこちら

ボール選びは「不変」が基準
池井戸さんはタイトリストのボール「PROV1」をラウンドで使っている。ギアマニアとまでは言わないまでも、遠藤製作所のヘッドにファイア-エクスプレスのシャフトを挿した渋いアイアンを愛用するにしては、王道の選択だ。

「あちこちでボールをもらって試すこともありますが、このボールのスピンのかかり具合がちょうどいいですね」

来年には「左にいかない」よう誂えたドライバーも出来上がり、同じボールで飛距離性能も試せる。

「このボールを選んでいるのは、ずっと使い続けられるから。モデルチェンジしても基本的な感触は同じなので、安心して使えます。他の新製品の多くは何年かでなくなってしまうことが多いのが残念ですね」

近鉄賢島カンツリークラブ

名設計家・上田治が手がけ、1969年にオープン。伊勢志摩国立公園のリアス式海岸と緑に包まれた美しいコースであると同時に、名物のアリソンバンカーが要所に配置された戦略的なコースになっている。2006年以降、全米女子プロゴルフ協会(USLPGA)の公式戦が毎年開かれている。

住所:〒517-0501 三重県志摩市阿児町鵜方3620-5
電話:0599-43-1082

近鉄賢島カンツリークラブ 公式サイト

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