メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

06月18日朝日新聞デジタル朝刊記事一覧へ(朝5時更新)

新着記事一覧へ

ページトップへ戻る

JAIST シンポジウム 2016 in 東京リポート

大学院大学が取り組む 分野の壁を越えた挑戦
2016年3月6日、東京駅に程近い東京コンベンションホールで、国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学(JAIST  )のシンポジウム「Breakthrough 先端科学技術が可能にする未来」が開催されました。IoT    や人工知能、サイバーセキュリティーなどのキーワードを交えながら、近未来社会の予測や課題、それを突破するために何が必要なのか―を、JAISTの教授陣らと一緒に考えてみました。

※1:Japan Advanced Institute of Science and Technologyの略
※2:Internet of Thingsの略で、パソコンなどのIT機器以外の「モノ」にもネットがつながり情報交換できる現象。「モノのインターネット」とも

 1990年、日本で初めて大学院に特化した国立大学として設立されたJAIST。今回のシンポジウムは、同大学が得意とする先端科学技術分野に焦点を当て、目まぐるしく変化する社会の現状や今後の課題などについて活発な議論が繰り広げられた。

山頂に行かずに山を体感できる日が来る

 シンポジウム全体のナビゲーターは脳科学者の茂木健一郎氏。まとめ役のコーディネーターとして最初に登壇したのは、朝日新聞社の竹原大祐プロデューサー。テーマは「『未来メディア』で既成概念を突破する」だ。

 メディアの定義を「埋もれている情報を収集する」「情報の価値判断をする」「適切な手段で伝える」の三つであるとし、最新のトピックスを挙げながら、現代では既に三つともコンピューターなどを駆使することで実現可能になっていると分析。

 また、今、街中のカメラやスマートフォンなど、国内には45億個のセンサーがあると推測されている。全世界で考えると170億個。あらゆるところに張り巡らされたセンサーによって、今後、高い精度で信頼できる情報が収集できるようになると続けた。「そうなると、未来のメディアは、新聞社などの会社が発信するものではなく、私たち一人ひとりが情報発信して、一緒に作っていく時代が来ると考えられます」

 そもそもメディアは、現場で起こった事件や事故、感動的な事象などを、文章や映像にして五感に訴えることが原理原則だったが、これも変わっていくという。

「このままIoTが発達すると、スカイダイビングをする、標高の高い山頂に立つなどということが、精度の高い仮想現実の再現機器によって、その場に行かずに体感できるようになる」と例えた。

 一方、コンピューターやロボットが進化すると、人間の仕事がなくなり、脳を使わなくなることで退化するのではないかという問いに茂木氏は、「退化しないためには、常に思考し、ディスカッションをすることで何かを生み続けること。人は遊ぶことが仕事と思いながら楽しく働くことで生産性が上がっていけばいい」と持論を展開。

  • イメージ

    脳科学者
    茂木 健一郎
    もぎ けんいちろう/東京大学、大阪大学等非常勤講師。東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。

  • イメージ

    朝日新聞社
    竹原 大祐
    たけはら だいすけ/メディアラボ・プロデューサー。2011年、「朝日新聞デジタル」の創刊の中心メンバーとして携わる。

  • イメージ

    株式会社ラック取締役CTO
    西本 逸郎
    にしもと いつろう/プログラマーとして数多くの情報通信技術システムの開発や企画を担当。2000年からセキュリティー事業に従事。

守るべきものは何かを把握することが重要

 2番目に登壇したのは、情報セキュリティー会社・ラックの取締役CTO西本逸郎氏。テーマは「『情報を守る』ということの本質」だ。

 テクノロジーの進化によって、パソコンはもとより、家電製品、金融やエネルギーなどあらゆるものがデジタルでつながっている今、個人や法人の情報を守ることは必須要件。

 これに対し西本氏は、「まず大切なのは『守るべき情報』とは何かを理解することです」と説く。一例として、情報はその重要度によって公開・非公開を調節した方が守るべきものが少なくなるとの考えを示した。

 伊勢志摩サミットや東京五輪が迫り、サイバーテロへの対策をどうするかが議論になっている。これに対しては、「可能性としては、金銭目的で攻撃を仕掛けてくるかもしれません」と言う。

「サイバー犯罪の被害額は、今1年間で60兆円とも100兆円とも言われている。そのほとんどが、インサイダー取引や知的所有権の侵害。全体ではクレジットカードの不正使用による被害額は少ない。手口は多様化していて、例えば、企業のシステムをウイルス感染させて、それを材料に恐喝したり、株式の不正取引を仕掛けようとするケースもある」

 攻撃を仕掛けてくる側は、やみくもに攻めてくるわけではなく、ラグビーの試合などと同じように、相手の出方を見ながらエスカレートさせてくる。手を替え品を替えてくる攻撃に対して、完全に防御する方法はないという。

「共通して防御に大切なのは、『油断をしないこと』『感染時のネット遮断(封じ込め)を想定しておくこと』『ルール違反を放置しないこと』」だと対策のポイントを示した。

 更に、市民の最大の関心事である「マイナンバーは本当に大丈夫なのか? 」という問いに関しては、

「日本年金機構の個人情報流出問題で、基礎年金番号と氏名と生年月日が分かると、住所変更ができる、だから危ない、という議論があった。これは間違いで、何か手続きをする際には、厳密に本人確認をすることになっている。

 マイナンバーも人に知られたら危ないという話になっていますが、危なくないようにちゃんと建て付けができています。過度に心配する必要はありません。クレジットカードを扱うのと同じ程度の慎重さで取り扱えばいいと思います」

 30分という短い時間ながら、ビットコインの問題を始め、多くの実例を元に情報化社会の問題の本質とは何かについて詳しく解説。専門的な話ながら手書き風のスライドを映しながらの軽妙で分かりやすいスピーチに、誰もが食い入るように見入っていた。

「知的たくましさ」を持った学生を育み社会に貢献する

北陸先端科学技術大学院大学 学長
浅野 哲夫
あさの てつお/1977年大阪大学大学院基礎工学研究科修了。大阪電機通信大学工学部教授を経て、2014年より現職。

JAISTは三つの研究科    を2016年度から「先端科学技術研究科」へ統合。選択と集中を体現した改革の理由などについて、浅野哲夫学長が語りました。

二つの専門分野を同時に修められる革新的な大学院へ

 本学JAISTは日本の86の国立大学の中でも規模の小さな大学です。認知度はまだまだですが、世界最先端の研究を通じて、EUの大学ランキングでは高く評価されています。特に1980年以降設立の大学の中では世界第6位という評価を頂きました。
 私は2 年前の学長就任以来、「知的たくましさ」という言葉を大切にしてきました。これは、「幅広い経験と知を求めようとする挑戦力」のこと。大量のデータ処理が可能になり、「人工知能」の研究も盛んになっている現在、多くの職業が人口知能に取って代わられるのではないかと心配されています。こうした変化の激しい現代、一つの分野だけに打ち込んでいるのでは、成果が出にくくなっています。
 本学には学部がないため、入学すると全員が一からのスタートになり、大学とは異なった学問を専攻しやすい。在籍しているのは、年齢や国籍、知識背景の異なる多様な学生です。それぞれの個性や到達目標に応えるために、2016年度から三つの科を一つに統合。学生は、自らの学習目標に合わせて、三つの科の講義を自由に取ることができます。これまでの専攻に加えて、「もう一つの専門分野」を修められる、革新的な一大改革です。教える教員側も新しい発見や刺激があり、研究の幅が広がることでしょう。これからも、JAISTが生み出すイノベーションにご期待ください。

※3:知識科学・情報科学・マテリアルサイエンス

テーマ 変革する社会における科学技術の使命

ダイバーシティーがブレークスルーを導く
JAISTの教授陣と浦野幸氏を加えたパネルディスカッションでは、国際化・スマート化・高機能化する時代に享受する恩恵、未来予想図、より高度化する先端科学技術の未来の課題などについて、活発な意見交換が行われた。

Panelist

  • ナビゲーター脳科学者  茂木 健一郎
  • コーディネーター朝日新聞社  竹原 大祐
  • 株式会社ラック 取締役CTO 西本 逸郎

難解な先端科学技術の話題を、図表や分かりやすい例え話で聴衆を引き付けた

  • マテリアルサイエンス研究科 教授
    水田 博
    みずた ひろし/大阪大学大学院理学研究科物理学専攻修了。博士(工学)。英国日立ケンブリッジ研究所所長( 兼)主任研究員等を経て、2011年より現職。

  • 情報科学研究科 教授
    東条 敏
    とうじょう さとし/1983年東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。博士(工学)。北陸先端科学技術大学院大学情報科学研究科助教授を経て、2000年より現職。

  • 知識科学研究科 教授
    宮田 一乘
    みやた かずのり/1986年東京工業大学大学院物理情報工学専攻修士課程修了。博士(工学)。東京工芸大学芸術学部助教授等を経て、2002年より現職。

  • 株式会社Nicogory 代表取締役
    浦野 幸
    うらの さち/東京大学大学院学際情報学府博士課程。筑波大学産学リエゾン共同研究センターの研究員を経て同社設立。法律をシンプルに利用できる取り組みを事業化。

専門と専門の橋渡しができる人材が求められている

「イノベーションとは何か」を、竹原プロデューサーが各パネリストから引き出し、茂木氏の楽しいトークが会場を沸かせた

竹原 まず、研究内容を教えてください。

浦野 主にエンタープライズ・アーキテクチャーを研究しています。具体的には、予測不可能な世界において、自律的に意思決定していくのに適した環境を整えていくことに関心があります。

宮田 私のテーマは「FunComputing andVisual Computing」で、メディアを使い未来を楽しくする研究をしています。前者はCGをベースにリハビリや健康増進の動機付けに役立ち、後者は主に人にとって面倒な作業をコンピューターで支援する研究です。

東条 一つはエージェント・コミュニケーションで、知能を持つもの同士のコミュニケーションを論理化すること、もう一つは文法理論を使った音楽解析です。

水田 グラフェンという、物理的に非常に強く、熱や電気の伝導度も高い新素材を使い、これまでは困難だった環境・エネルギー向けのブレークスルー技術を開発しています。

竹原 どんなタイプの人が先端科学技術におけるブレークスルーを起こせるのでしょうか。

宮田 今はH型の人間が重宝される時代だと言われます。要は専門が一つあり、他の専門性のある人とブリッジができる人。双方を枝でつなげれば化学反応が起こり、ブレークスルーができます。JAISTは2016年度から三つの異なる研究科が一つにつながります。そこから新しいものが生まれると期待したいです。

教員の役割は正しい問い掛けによって学生を導いていくこと

竹原 ブレークスルーのための環境づくりで大切なことは何でしょうか。

東条 人間はコンピューターと違い、平気で二つの矛盾した情報を抱えられます。

竹原 翌朝早起きする必要があるのに、つい飲みに行ってしまう、とか。

東条 そうです。そこで「少し考えてみなさい」と言うとようやく気付く。正しい問い掛けを与えることが教育であり、ブレークスルーにつながると思います。

西本 目的に気付かせることも大切でしょう。

宮田 面白いものを作るのにはダイバーシティーも重要。私の研究室では文系と理系の出身者の割合が半々。両方が交わることで一味違ったものができます。

水田 私の研究室は半分以上が留学生で、国際プログラムを組んでいるため海外と日本を行き来している学生も多いです。

茂木「研究はグローバルにコラボするのが当たり前」という文化がJAISTから日本全体に広がっていくといいですね。研究をする環境という意味では、JAISTには、ハードもたくさんそろっているのですか。

水田 はい。ナノテク関係の設備はすばらしいですよ。スパコンにしても、最先端の実験設備にしても、学生数が少ないので自分が使いたい時に必ず使える。これは研究する者にとって大きなメリットです。

竹原 感性や五感を育てることも今の時代には必要だと思いますが、その辺りはどうお考えですか。

東条 確かに大事です。そのためには、ちょっと違う角度から物を見られるように訓練する必要がある。シングルメジャーの学部から同じ大学の大学院に行くと、どうしても視野が広がりにくい。AとBというダブルメジャーで研究していると、Aで研究したことをBに応用するという視点が持てる。視野も広がりやすいと思います。

竹原 会場からの質問です。「先端科学技術が発展する未来に向けてどのような小学6年生が出てくるといいと思いますか」

宮田 音楽、体育、美術ができる小学生がいいと思います。知識以外の才能を身に着けておくことが大切でしょう。

東条 発想が面白い子ですね。他の子からは出てこないような発想を先生が大切にすべきだと思います。

水田 好奇心のある子。いろんなことに興味を持つ児童が伸びると思います。

浦野 自分の頭で考えていく子ですね。

西本 つかみの上手な子、笑いの取れる子を目指してほしいです。

茂木 量子コンピューターと関係が深い「ショアのアルゴリズム」に興味を持つような小学6年生が出てきてほしいです。

竹原 皆さん、ユニークな回答をありがとうございました。今日のお話を聞いて、未来は自分たちで創っていくものだと、改めて実感できたのではないでしょうか。先端科学技術の分野で新しい価値を創造するような人材の育成を、JAISTに推進してもらいたいと思います。

国立大学法人 北陸先端科学技術大学院大学

〒923-1292 石川県能美市旭台1-1 (代表)0761-51-1111 http://www.jaist.ac.jp
東京サテライト/〒108-6019 東京都港区港南2-15-1 品川インターシティA 棟19 階