上川 あーあ。私たちのクラスって団結力がないなぁ……。
林 珍しく深刻な悩みのようですね。どうしました?
上川 文化祭で、バンドをやりたいの私だけなんです。せっかくボーカルの練習をしたのに。
林 話を聞く限り、上川さんが一人で和を乱している感がありますが、「一人はみんなのために、みんなは一人のために」の精神は、クラス全員が知っていたほうがよいですね。
上川 何ですか、その標語みたいなのは?
林 これは世界の協同組合の合言葉です。元をたどれば協同組合は、産業革命のころにヨーロッパで始まった活動で、同じ思いや願いを持つ人たちが助け合って自分たちのくらしを良くしていこうとするものです。日本でもほぼ同時期に二宮尊徳が「報徳社」という農民扶助のための組織をつくっていたので、日本とヨーロッパで同じように始まったんですね。さらにその後、「共済」という事業を始めたのが賀川豊彦です。
上川 協同組合ってみんなでやる活動なんですね。株式会社と何が違うんですか?
林 株式会社を所有しているのは株主で、株主は自分の株式の価値が上がることを期待しています。そのため、株式会社は多くの利益をあげて少しでも株主に配当できるよう努力します。一方で、協同組合を構成するのは組合員で、組合員は様々な事業を利用することで、地域・くらしの向上を目指しています。また、協同組合への出資額の大小で議決権に差はなく運営するのが特徴です。つまり、協同組合は組合員(ヒト)の意思を大切にしています。
上川 もともとの考え方が、ずいぶん違いますね。協同組合は、人と人との助け合い、という考えがおおもとにあるんですね。
上川 たとえば日本だと農協(JA)や生協などがありますが、世界にも、協同組合ってあるんですか?
林 世界に協同組合はたくさんあり、組合員数は世界で約10億人といわれています。グローバル化の中でも、人々が力を合わせて集まり、くらしの向上や地域づくりをする考え方は注目されていて、昨年、「協同組合」の思想と実践がユネスコの無形文化遺産に登録されました(ドイツが申請)。
上川 助け合いの精神は、時代も国も越えて、やっぱり大事な考えですよね。
林 そうですね。雇用創出や高齢者支援から、都市の活性化、再生可能エネルギーまで、様々な問題に対して、協同組合が創意工夫あふれる解決策を編み出している、ということがユネスコでは評価されたんです。貧富の格差や地域格差が広がっているといわれる今こそ、助け合いの「共助」の機運は世界的に高まっているのかもしれませんね。
熊本地震における、JAグループによる
出荷支援活動
上川 そういえば、熊本地震の後にJAの人が物資を届けたり、壊れた牛舎から牛を助け出したりするのをニュースで見ました。
林 それも、「地域を守る」という協同組合の精神に基づいた行動です。
上川 「一人はみんなのために、みんなは一人のために」の意味がわかりました。私も一人でバンドなんて言っていないで、みんなで一緒にできることを提案してみます。
林 そうですね。では次回の授業は、協同組合が地域の中でどんな活動をしているのか、見に行ってみましょう。
熊本地震における、JAグループによる
出荷支援活動