資料:農林水産省「食料需給表」、FAO“Food Balance Sheets”等を基に農林水産省で試算(アルコール類等は含まない)。
注1:数値は暦年(日本のみ年度)。スイス及びイギリス(生産額ベース)については、各政府の公表値を掲載。
注2:畜産物及び加工品については、輸入飼料及び輸入原料を考慮して計算。
林 今日は特別授業の第8回。今回から3回シリーズで「日本の農業」について取り上げていきます。早速ですが望月さん、「食料自給率」という言葉を聞いたことがありますか?
望月 はい。自分たちが食べるものを、国内でどれだけまかなえるかを表す数字ですよね。
林 そうです。現在、日本の食料自給率はカロリーベース(※1)で約38%。およそ3分の2は海外からの輸入に頼っている状況です。
望月 これは、きっとかなり低い数字ですよね。
林 スイスでは、2017年に「食料安全保障(※2)を憲法に明記する」ことが国民投票で可決されました。実は、スイスの自給率は近年も50%を超えています。にもかかわらずこれだけ危機感を持っているんです。私たちが食料生産を頼っている地域が自然災害に見舞われた時、日本への輸出が維持されるのか。世界の人口が増えている中、将来も安定的な供給が続くのか。とても心配な状況といえるでしょう。
望月 すごく怖いです。日本は何も対策をしていないんですか?
林 自給率を上げる取り組みの一つに、「飼料用米」の栽培促進があります。家畜のエサは現在は7割以上が輸入ですが、国内で育てた米を与えれば、カロリーベースの自給率を上げることができます。
望月 いいですね、エサが日本のお米ということで、安心感もあります。
林 米農家であればもともとノウハウは持っていますから、飼料用米の栽培にもスムーズに転換できます。現在はより効率的に飼料化を進めるための工夫も進んでいます。
望月 お米なら、日本中どこでも育てられますね。
林 そうです。最近は「米離れ」が進み耕作されない水田も増えていますが、水田の活用は里山の自然や生態系を守ることにもつながります。安全性を確認できるエサを使うことは消費者にとってもメリットが大きいですし、「地域ブランド牛・豚」として育てていくこともできるでしょう。
望月 そうやって少しずつでも食料自給率が上がっていくといいですね。
資料:農林水産省「食料需給表」、FAO“Food Balance Sheets”等を基に農林水産省で試算(アルコール類等は含まない)。
注1:数値は暦年(日本のみ年度)。スイス及びイギリス(生産額ベース)については、各政府の公表値を掲載。
注2:畜産物及び加工品については、輸入飼料及び輸入原料を考慮して計算。
林 もう一つ、自給率向上につながる取り組みを紹介します。小麦の自給率は2016年度で12%ですが、中でもラーメンの麺に使う小麦は、ほとんどが輸入です。そんな中、「ラー麦」という麺に適した品種の栽培が、福岡県を中心に行われています。
望月 福岡県産の小麦って、意外な感じがありますね。
林 実は福岡は全国2位の小麦生産県ですが、そのほとんどはうどん用。もともとラーメン人気が高い土地ですから、04年に福岡県農林業総合試験場でラーメン用小麦の開発プロジェクトが始まりました。
望月 小麦から自分たちでつくるという発想がすごいですね。でもラーメン大好きな私にとって、気になるのはおいしいかどうかです。
林 もちろん、良い小麦ができてもそれだけでおいしい麺にはなりません。農林業総合試験場は、製粉会社やJA(農業協同組合)の協力も得ながら研究を続け、最終的には2,000種を超える中から麺に適した香ばしく弾力のある品種を選び、「ラー麦」という愛称をつけたそうです。
望月 「ラー麦」の評判はどうなんですか。
林 今では福岡県内を中心に200以上のお店で使用され、ラーメンにうるさい地元のお客さんからも評価されているそうです。一方で県、JA、製粉会社が一体となり多くの農家に働きかけた結果、作付面積も広がり、安定的に供給できる体制が整ってきました。消費者の「国産志向」に応えるためにも、こうしたさまざまな取り組みで自給率が向上していくことを期待しましょう。