林 前回は、農畜産物の価値向上や生産量・販路の拡大の話題を取り上げましたが、今回はより効率的な農業をテーマにします。品種改良や栽培の効率化はもちろんですが、消費者が欲しい時に、良い状態で農産物を提供するのも大事なことで、JA(農業協同組合)間の助け合いの事例を、レモンを例に見ていきましょう。
望月 まだ暑い日もありますし、レモンが食べたいですね。
林 望月さんの今の言葉、大事なポイントです。実はレモンの国内出荷量は約1万トンほどあるのですが、国産レモンの収穫時期は10~4月までで、夏場の5~9月は出荷量が少なく、輸入品に頼らざるを得ない状況が続いていました。
望月 消費者にとって、夏場に国産レモンが買えないのは残念ですよね。
林 国産レモンの安全性やおいしさに対する評価は高いのに、産地では貯蔵ができず端境期に販売できない。そこでこの課題を克服するために、他の作物の産地で季節的に使われていない貯蔵施設を使うことにしたんです。
望月 うまくいったのですか。
林 広島県のレモン産地を抱えるJA広島ゆたかが、県外のJAと業務提携をすることで解決しました。ある県のJAでは春先から夏場にかけて冷蔵施設が空いていました。そこで業務提携を行い、県外のJAの冷蔵施設を利用することで、JA広島ゆたかの夏場のレモン貯蔵能力が300トンに拡大し、夏場に国産レモンを求めるお客様に応える体制を整えました。
望月 施設の有効利用ですね。
林 はい。もともとある施設を活用し、レモンの周年販売体制を整えたことで、消費者のニーズに応えつつ、生産者の収益も増えるなど、お互いのJAにとってもメリットが生まれました。施設の利用を工夫するという効率化で農産物の販売が拡大するといったことを示す、とても良い例だと思います。
※JAは、農業関連事業のほか、生活関連事業(スーパーマーケットやガソリンスタンドを運営する)、
信用事業(貯金等をあずかり、それを原資として貸し出しを行う)、共済事業(ひと・いえ・くるまの
総合保障を提供する)など、
様々な事業を行っている。これを「総合事業」と呼んでいる
林 ひとつの作物に生産を集中することも、効率をあげるためには重要です。キャベツ生産で有名な群馬県の嬬恋村。JA嬬恋村では「キャベツを『核』に地域を守る」と、圧倒的なキャベツの単作に取り組んでいます。
望月 圧倒的、と聞くと驚きます。
林 キャベツだけで過去に約200億円を販売したこともあるなど、JA嬬恋村の農畜産物販売額の98%がキャベツです。必要な肥料や農薬などは一括購入して費用を抑え、キャベツに特化した専門性の高い栽培経験を蓄積することができます。また、計画的な生産があれば市場とも信頼関係を築けますし、それが農家の安定収入につながります。強みを最大化しているといえるでしょう。
望月 聞くと良いことばかりですね。「キャベツを『核』に地域を守る」とはどういうことですか。
林 JA嬬恋村では、生産者が安心して働けるように、スーパーマーケットやガソリンスタンドなどの生活インフラを運営し、福祉事業にも力を入れています。農業の担い手を確保するために、総合事業(※)を通して地域を守っていく。儲かるかどうかではなく、必要とされているから事業を運営しているのです。つまりJAは、農業だけでなく地域全体を支えています。
※JAは、農業関連事業のほか、生活関連事業(スーパーマーケットやガソリンスタンドを運営する)、信用事業(貯金等をあずかり、それを原資として貸し出しを行う)、共済事業(ひと・いえ・くるまの
総合保障を提供する)など、様々な事業を行っている。これを「総合事業」と呼んでいる