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第16回高校生福祉文化賞エッセイコンテスト 講座レポート 書く力UP↗指導法講座第16回高校生福祉文化賞エッセイコンテスト 講座レポート 書く力UP↗指導法講座

高校の先生方を対象にした「朝日新聞社 書く力UP指導法講座」が5月26日(土)、ハービスENT9階会議室(大阪市)において開催されました。第一部は、中村浩二氏(株式会社進研アド Between編集長)による「大学入試どう変わる?新テストで求められる力とは」。続いて第二部の薮塚謙一氏(朝日新聞社 東京総局長)による「書く力UP↗指導法講座」と、座談会が行われました。

書く力UP 指導法講座

薮塚 謙一 氏 朝日新聞社 東京総局長

薮塚 謙一
朝日新聞社 東京総局長 

伝わる文書、伝わる意見はデータや事実に裏打ちされている

「伝わらなくては意味をなさない」。それが文章です。では伝わる文章に必要なのは何か。説得力でしょう。では、説得力のある文書の条件とはなにか。それは、書き手の意見、主張が客観データで支えられているということです。自分の意見や主張がデータや事実に裏打ちされているか。それを意識することは、生徒さんの意見や考えに幅を持たせることにもなると思います。

3つの実践メニューをご紹介しましょう。

ひとつ目は、新聞を教材として活用するNIEの基本的なグループワークです。新聞をめくり、目についた見出しを拾い出して記事を一読します。そして記事の要点と選んだ理由を短く文章化して、グループ内で発表し合います。この作業によって情報を取捨選択し、自分の考えを添え、必要事項をコンパクトに整理して意見表明する力が身につきます。

文書を書くときに忘れてはいけないのは「5W1H」です。データの大切さを意識させるために、交通事故などについての短い記事を書かせてみるのもよいかと思います。私たち新聞記者は、いつ(When)、どこで(Where)、だれが(Who)、なにを(What)、なぜ(Why)、どのように(How)という基本データの収集を意識しています。「伝わる文書」とは、文がうまい、下手ではありません。データさえあれば、文は下手でも起きている事実は伝わります。一方で、どれほどうまく書いても、データが無ければ伝わる記事は書けないのです。5W1Hは、簡潔に、分かりやすく書くための基本です。

三つ目は、取材の模擬体験です。具体的には、2人1組で、互いに質問し合い、相手を「見出し」で紹介します。出身地や趣味など答えやすい質問から始め、気になるポイントを見つけたら、その点について5回ほど角度を変えながら質問を重ねます。情報、データの大切さを知り、収集の仕方を楽しみながら学ぶペアワークです。

自分に深く問いかけ、体験を掘り下げてみましょう

「一人暮らしを始めて感じることはいくつかある。まず母の偉大さだ。私自身『大学では県外に出て一人暮らしを始めよう』と思い高校時代を過ごしてきた。一人暮らしが苦にならないよう、努めてきたつもりだった。しかし、いざ全ての家事を自分でやるとなると、毎日の洗濯、料理、掃除、勉強が億劫になることがある。その度に毎日働きながらも愚痴の1つもこぼさずに家事をこなしていた母の偉大さを感じる」

これは、ある大学で僕が受け持った作文講座の受講生の作品から一部抜粋したものです。文章自体に破綻はありません。でも、心に訴えかける“何か”が足りない。修正にあたってぼくは、メールでこんな質問を投げかけました。

①お母さんは何の仕事をして、どのような日常を過ごしているのか 
②お母さんにとって、愚痴をこぼしたくなる状況があったのか。心に残るエピソードはないか 
③忘れられないお母さんの姿や光景はあるか。

「この点を踏まえながら、“偉大な母”と書かずに“偉大だ”と読者が思えるエピソードを書くと、お母さんに対する愛情もより伝わりやすくなりますよ」とアドバイスしたところ、次のような返信がありました。こちらも抜粋です。

「母は近くの造船所の事務所の派遣社員として働いています。毎日3歳の弟を保育園に預け、そのまま仕事に行き、疲れていても弟と手をつなぎ、歩いて帰ってきていたことを覚えています。1年前、父がいきなり仕事を辞めて事務所を立ち上げると言い始めました。父は45歳で、公務員でした。一家の大黒柱であるはずの父が、安定した職を捨て、私の受験期に転職をするなど、母としてはとんでもないことだったと思います。

それでも母は、『あの人はなんば言ってもきかんっさ。しょうがなかっさ。』と言いながら私たちに心配させないよう毎日働き、帰るとご飯を作り、皆の帰宅を待ってくれていました。そして父の転職、一家の生活費については何も口にせず、祖父母にも一切頼りませんでした。その母の姿を見ていて本当にすごい人だなと思いました」

ペアワークでの「5回の質問」、その手法で今度は自分への問いを深め、体験を掘り下げていきます。自分はなぜそう思うのだろう、その背景にある体験を掘り下げ、データ化する。伝わる文章を書くうえで有効な作業だと考えます。

情報は人と人だけでなく、人と社会、社会と国、国と国をつなぎます。インターネット社会だからこそ、さまざまなデータから価値のある情報を選び出し、事実に基づいて自らの意見を伝えられる若い世代を育てていかなければならないと思っています。

座談会 話者:薮塚 謙一 氏

作文の基本は、「1段落1テーマ」

「作文の書き方をわかりやすく教える方法を知りたい」という質問をいただいています。残念ながら、決定打はありません。ただ作文力は、鍛えることはできると思います。先に紹介しましたが、新聞を活用したグループワークなどはその有効な手段のひとつでしょう。

古くから「い・り・た・ま・ご」作文法というのがあります。い=意見、り=理由、た=体験、ま=まとめ、ご=誤字脱字のチェック、で「いりたまご」。子供たちに作文の基本構成を教えるのに有効です。「1つの段落にテーマは1つ」も基本です。ひとつのテーマを投げかけ、裏付けデータを加えて1段落をまとめ、それをつなげて全体を構成します。

普段から気になる情報を掘り下げる作業を習慣づけると、データが蓄積され、原稿も書きやすくなるはずです。

閉会のあいさつ

本日の講座には、生徒さんの作文力を引き出すご指導のヒントになるものが含まれていたのではないかと思います。また、エッセイコンテストのご応募もお待ちしております。本日はありがとうございました。

感想レポート

  • 「伝わればつながる」繋がることが人間の温かさなのかなと思いました。自分の思いを誰かに伝えたい、わかってほしいのは本能なのかな。
  • SNSの普及などにより「伝える」力や方法の乏しい子どもが増えているように思います。そうした子ども達へのアドバイスの方法など学ぶべき点が多々ありました。
  • 自分の授業で取り組んでいた方法もあり(評価基準を知らせてよい等)少し安心した。また具体的手法、ポイントが、実例付きで説明されてとてもわかり易かった。
  • 生徒たち、論理的に書けるようになってほしいと思っていました。ただ今回のセミナーでは伝わる文章の為にどういうデータを集め活用するかというヒントはもらえた気がします。
  • 実際に考えたり書いたりさせて頂いたので身をもってよくわかり、とてもよい講座だったと思います。
  • 「上手く書かなければ…」という意識から「正しく書く」という意識に変える必要性に気付きました。
  • 生徒の内面を掘り下げ文章に表現する、情報(書きたいと思うこと)と文章の関係などが具体的に分かりました。
  • 実感を持って書く力のつけ方、考え方について知った気持ちになっている。これを実際の指導に活用できるように落とし込みをやっていきたい。
  • 伝えるための文章と形式として成り立っている文章で明らかに違い(→論理的な考え方への)があると感じました。
  • 「情報を多く正確に」ということが特に印象に残りました。材料を沢山ということがとても大切なのですね。
  • 具体的な指導法とその重要性についてお伺いができて良かったです。
  • 教育業界ではなく、書く、伝えるを専門にされている方のお話で「よくある研修会」とは違う観点や意見を知り、とても勉強になりました。