2020年度 新たな大学入試に挑むすべての親子に
大学入試改革により、2020年度からは大学入試センター試験に代わって「大学入学共通テスト」が実施され、試験内容も大きく変わる予定です。国公立大学や私立大学の個別試験にも、変化の兆しがみられます。

新たに始まる大学入試で合格するカギは、正しい情報を得ることです。さまざまな憶測に振り回されることなく、確かな情報をもとに合格への第一歩を踏み出してください。
SPECIAL TALK

小森清久さん

学校法人河合塾
英語科講師

近石真弓さん

学校法人河合塾
教育研究開発本部
教育教材開発部 
英語科チーム
サブチーフ

Vol.09

│「大学入学共通テスト トライアル」英語4題特別公開!│
リーディング/リスニングを攻略する方法とは

※2019年9月取材時点の内容です。

英語の複合的な能力と、
教科を超えた知識が問われる

近石 新しく始まる「大学入学共通テスト」は、リスニングの配点がリーディングと均等になり、ヨーロッパ言語共通参照枠CEFRのレベルに則した問題が設定されるなど、センター試験とは異なる要素が多く、戸惑う高校生も多いと思われます。
小森 大学入試改革の背景にある「グローバル化」の表れですね。英語は、世界中の国々で使われている言語ですから、これからの子どもたちはアメリカ以外の英語にも触れていかなければなりません。CEFRのレベルに合わせるとともに、リスニングは多様な話者による読み上げが実施されます。国際的に広く日常のコミュニケーション手段として使われている英語にも、語彙(ごい)、綴(つづ)り、発音、アクセント、文法などに多様性があり、それらが試験に反映されることになります。リスニングもリーディングも、実際のコミュニケーション場面で生かせる力が問われています。
近石 身につけるべき知識は同じでも、センター試験と共通テストでは問われ方が変わっていますね。
小森 リーディングでは、発音、アクセント、文法、語句整序などを、単独で問う問題はなくなりました。文法の理解度を測る設問は、リスニング問題やリーディング問題の一部に組み込まれ、文法の知識を「聞く」「読む」といった複数の技能からアプローチすることが求められます。リスニングの中に出てくる文法はさほど難しくはなく、日常でよく使われる時制や使役などがポイントになるものですが、聴き取った単語の順序を間違えて把握してしまうと、まったく別の意味になる言葉もあります。これまでのように「読んで理解する」だけではなく、「耳で聴いて理解する」こともできなければなりません。
近石 文法を理解したうえで、聴き取って応用できる、という複合的能力ですね。リスニングの音声については、聴き取りが難しくなったと言えるでしょうか。
小森 読み上げの速度は、センター試験とそれほど変わりません。ただし、より自然な読み方になるので、所々複数の単語が一体になって聞こえます。たとえば、had enoughはハダナッフというように……。従来の英語学習用の音声教材のように、日本人学習者が聴き取りやすいように一語ずつはっきりと発音してはくれません。
近石 実際に英語を使う場面を想定したものになるのですね。河合塾では過去2回の試行調査を徹底分析し、本番に近い設計でつくったオリジナルの予想問題「大学入学共通テスト トライアル」を2019年年6月に実施しました。そのリスニング問題でも、一体に聞こえる文の聴き取りは正答率が低いという結果でしたので、やはり慣れていない高校生が多いのだと思います。
小森 自分で発音できれば聴き取れるものなので、スピーキング能力も問われていると言えます。
近石 大学入学共通テストでは1回読みと2回読みが混在します。後半の長めの問題が1回しか読み上げられないというのは、まだ慣れていない高校生には厳しいかもしれません。しかし現実に大学に入学すれば、講義を2回、全く同じように繰り返して話してくれることはないので、メモを取りながら聴き逃さないようにするしかないでしょう。入試に、本来の大学での学びの入り口としての役割を持たせているのだと思います。問題文の題材も、日常生活だけでなく、社会問題をテーマにしたものや、WEBサイトの文章など、これから社会に出る素地を形成する過程で触れていかなければならないものが選ばれています。英語力だけでなく、世の中の常識や教科にとらわれない知識を駆使することになるでしょう。
小森 そうですね。その他の特徴としては、様々な題材の英文から情報を読み取ったり聴き取ったりして、グラフやワークシートなど、複数の資料と比較する問題が、リーディング、リスニングともに出ています。「大学入学共通テスト トライアル」の問題から、特徴的なリーディング問題(2題)と、リスニング問題(2題)を見ていきましょう。

図やグラフを読み解くなど、
特徴的なリーディング問題も

「大学入学共通テストトライアル」
出題例1

小森 これは、料理をするにあたり、WEBサイトで公開されている野菜クリームスープのレシピと、それに対するレビューとコメントを見ている、という設定の問題です。問4は「fact−書かれている事実」は何か、問5は「opinion−意見」を問うています。一見易しい問題に見えますが、問4は正答率25.9%と、低い結果でした。選択肢のanimal productsという語句は問題文の材料欄に書かれていないので、この言葉から類推して、animal productsがこの中ではbutterとsome cheeseのことを指すとわからないと解けません。
近石 動物性食品とは何かという常識、レビューやコメントは必ずしも事実ではなく意見や見解だという常識が必要ですね。メディアリテラシーを身につけることが将来に役立つというメッセージも感じます。
小森 こうした問題を解くには、「正確に英語を読む習慣」をつけることが大事です。単語帳で一つの単語を一つの意味だけで覚えるのではなく、きちんと辞書を引き、語源や、英文のなかでどういう使われ方をするかを確認する。たとえば、bookは名詞で「本」という意味ですが、動詞で「予約する」という意味を知らないと、内容がさっぱりわからなくなることがあります。delicious=おいしい、と覚えるだけでなく、deliciousは個人の主観的価値観を表す言葉だと解釈して覚える。そして、読み取った情報を別の言葉で言い換える力をつけること。選択肢で言い換えられている言葉がわかるように、語彙を豊富にすることです。

問題の解答はこちら

【問4】①  【問5】③

「大学入学共通テストトライアル」
出題例2

小森 これは、食の安全についての記事を読み、内容を把握する問題です。問1は正答率が11.1%と、多くの生徒がつまずきました。問1はantifreeze(不凍剤)が説明されている第2段落をよく読むことで解答が見つかります。問3は、書いてある内容に当てはまるグラフを選ぶ問題。the early 1990s(1990年代初め)やa decade later(10年後)といった年代と、「トウモロコシの80%以上」「大豆の90%」という数字との関わりをきちんと把握することが求められました。
近石 解答時間が終わりに近づいたときに長文が出たことで、焦った高校生もいたと思います。しかも、グラフが含まれている。グラフや図表に苦手意識がある人は多いようです。
小森 長文を読みこなすには、緩急をつけて必要な情報を「探し読み」することが必要になってきます。必要な情報にすばやく目を通しながらも、パラグラフごとに何が書いてあるかを把握して、重要と思われるところは精読する。すべてを精読しているともちろん時間は足りなくなります。文章全体のどこが重要かを見抜く力を養うには、日々、少しでも英文に触れ、読む習慣をつけることが大切です。

問題の解答はこちら

【問1】①と③  【問3】③

聴き取ったうえで考えさせる
リスニング問題

「大学入学共通テストトライアル」
出題例3

問題のリスニング音源を
聞いてみる

読み上げた問題文を確認する

When she was about to leave for her office, she found she had forgotten her umbrella.

小森 短い文を聞いて当てはまるイラストを選択する問題です。これは、leave forの前置詞forを聴き逃すとわからなくなります。どっちに行ったかという方向性を表す重要な役割を果たしています。
近石 聴き取れてもleave for(…に向けて出発する)という意味がわからないと状況が把握できませんね。また、その状況を頭でイメージできないと当てはまるイラストを正しく選べない。
小森 短文のリスニングには、「多聴」と「精聴」が有効です。短い文のディクテーション(書き取り)を練習する際、わからなくてもすぐに解答を見ずに何度も丁寧に聴く。そして書き取るときは、全部の文字を完全に書き取ろうとせず、自分にわかるようにたとえば2~3文字だけ速記するような工夫をするのも一つの方法です。そのあとに文字を補って、文法面でも正しい文章に整え、さらに解答を見て正しく書き直す、という練習を繰り返します。初めは一つ下の学年向けの英語学習教材を使うと効果的だと思います。
近石 リスニングの力は毎日コツコツやっていかないと身につかないので、ディクテーションを習慣にして、自分が何回目で聴き取れたなどと記録していくと、成長が感じられてやる気が出ます。

問題の解答はこちら

【問1】①

「大学入学共通テストトライアル」
出題例4

【問1】問題のリスニング音源を聞いてみる
【問2】問題のリスニング音源を聞いてみる

読み上げた問題文を確認する

【問1】
Our forests are disappearing more quickly than ever, and it's having a negative impact on the environment. This impact is especially significant in tropical forests because they contain much of the world's biodiversity. We know that between the years 1900 and 2010, 124 species went extinct due to deforestation that occurred during this time. In the Amazon, 28 species were lost; in Southeast Asia, 15; and in the Congo Basin, 1. Furthermore, surprising new research shows that deforestation that occurred before 2010 may continue to cause extinction in the future. Removing trees has both an immediate impact on the environment and a delayed one since animal species that cannot adapt to new habitats will slowly decline in population over time. Scientists believe that 144 species will become extinct in the near future due to deforestation that occurred before 2010.
The process of deforestation not only causes biodiversity loss but also increases global carbon emissions. After plants are chopped down, the dead vegetation emits carbon while decaying. If the vegetation is burned, carbon emissions will occur quickly and the negative environmental effects will be almost immediate. These effects were observed before 2010 when large amounts of vegetation in the Congo Basin and the Amazon were burned. However, if the dead vegetation is left in place for a long time― as it was in Southeast Asia before 2010―carbon emissions happen more slowly and the environmental impact is delayed. Plenty of dead vegetation in the Amazon is also left in place today, creating carbon emissions that will continue to harm the environment for many more years.

【問2】
Consider the graph, which shows how the deforestation rates have increased in the three regions. We can see that the combined deforestation rates of the Congo Basin and Southeast Asia are getting closer to that of the Amazon. What else can we learn from this graph?

小森 問いのワークシートを見たときに、何を示している表かがパッとわかれば素晴らしいですね。聴き取った内容を、印刷されているワークシートの空欄に適切に入れて、表を完成させていくことになるのですが、この問題ではburnedとleft in placeの二つの方法への理解、immediateとdelayedの対比、関係性をつかむことが問われています。
近石 問題文の冒頭には日本語で、「2010年に開催された環境保護の会議で、森林伐採と種の絶滅と二酸化炭素の排出の関係について、ワークシートにメモを取りながら、講義を聴いています」と状況設定が詳しく書かれているのですが、それをきちんと読んでおらず、何を問われているのかわからず戸惑った人も多くいたようです。見慣れないワークシートを見てパニックになってしまったのでしょうか。
小森 リスニング能力とともに、印刷された情報のすばやい読み取りが必要な問題です。それは日常の中で養われる力です。英語でなくとも、たとえば情報が詰まった折り込みチラシやWEBサイトを見て、必要な情報をすばやく読み取る。
近石 これからはその聴き取った情報を、グラフなどの資料と組み合わせて考えて、設問に答えるというところまで問われるようになります。今までのリスニング問題は、英語の音声を聴き取り、発話しているのは誰か、どんな内容を話しているのか、といったことを理解するに留(とど)まっている問題が多かったので、こういった新しい問われ方にも慣れていく必要がありますね。
小森 英文を聴いて、自分でこのようなワークシート形式に聴き取った情報を整理してみる、という練習もいいでしょう。

問題の解答はこちら

【問1】a:⑥ /
b:① - ④ - ② - ④ - ② - ③ / c:④  
【問2】④

リーディング/リスニングを
バランスよく学習する

近石 今回のトライアルは難しいと感じたかもしれませんが、こういう問題がこれからは問われる、ということが実感できて、高校生は学習のきっかけをつかめたのではないかと思います。自分ができなかったところを振り返り、分析するなど、先につながる使い方をしている高校生もいました。
小森 リスニングとリーディングが同等に重視されるのは、今後、すべての大学の傾向になっていくでしょう。また、そうなることを期待しています。今回のリスニングの第5問のような形式を通じて、印刷されている資料の情報をすばやく読み取り、聴き取った内容をそれらの資料と組み合わせて考えていくような新しい傾向の問題は、学校の授業だけで練習していくことは難しいと思われます。YouTubeなどの動画サイトや英語ニュースなど、学習教材になりそうなものを自分で積極的に探しに行ったり、塾や予備校などを利用したりする必要がますます高まるのではないでしょうか。

近石 テストの形式が変わることで戸惑い不安になっていると思いますが、英語という学問が変わるわけではありません。これまで学んできたことを生かせるように自信を持って、焦らずに対応してもらいたいですね。河合塾では独自に、共通テスト対策教材を作っています。実際に多くの高校生を指導し、弱点や苦手をわかったうえで教材を作成・編集しているので、「伸び」が実感できると思います。また、冬期講習、夏期講習でも共通テスト対策の講座を開設しているので、ぜひ活用してほしいですね。
小森 保護者の方が手伝うとしたら、上から「これをやりなさい」と言うのではなく、お子様の関心が高まるように、下から支えてあげることが望ましいでしょう。「英語の音声を一緒に聴いてみよう」、とか「聴き取った音声を一緒に書いてみよう」などと、お子さんと一緒に取り組んでいかれるといいと思います。
近石 情報に踊らされてむやみに焦るのは良くないのですが、入試制度の変わり目の時ですから、情報を積極的に求めていく姿勢を持つことは大事です。ぜひ、河合塾の情報誌やホームページ、講演会、説明会などを利用していただければと思います。

PROFILE
  • こもり・きよひさ/東大や医学部を目指すトップレベル生を中心に指導。「全統医進模試」「全統マーク模試リスニング」そして「大学入学共通テスト トライアル リスニング」など数多くの模試・教材作成チーフを務める。入試問題はもちろんのこと、新課程や学習指導要領、英語資格検定試験の分析に深く関わり、保護者向けの講演会や、学校教員向けの指導法研修も行っている。
  • ちかいし・まゆみ/河合塾千種校にて校舎運営、生徒指導に携わった後、中部地区塾生部教務、中部地区教育部英語科チームにて、時間割配置・イベント運営・教材模試作成などを担当。現在は、教育教材開発部英語科チームで教科指導カリキュラムの策定、教材・模試開発、入試分析などを推進している。

INFORMATION

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