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12月12日朝日新聞デジタル朝刊記事一覧へ(朝5時更新)

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早期発見子どもたちが担う未来のために、
今、私たちにできること。

第9回 国際早期精神病学会を終えて
精神疾患を早期に発見し、患者さんの社会生活を維持するために

 
 
第9回 国際早期精神病学会組織委員長 東邦大学医学部教授
水野 雅文
みずのまさふみ / 1961年生まれ。慶應義塾大学医学部卒業、同大学院博士課程修了。精神疾患の早期発見・早期治療をはじめとする予防精神医学に取り組む。日本精神保健・予防学会理事長、国際早期精神病学会理事長などを歴任。
水野 雅文
2014年11月17日〜19日に、東京の京王プラザホテルにて開催された。およそ800名が参加し、会場は盛況だった。

2014年11月17日〜19日に、東京の京王プラザホテルにて開催された。およそ800名が参加し、会場は盛況だった。

国内外から参加者が集い、貴重な情報交換の場となった。

国内外から参加者が集い、貴重な情報交換の場となった。

ロビーには、ポスターによる研究発表も展示。

ロビーには、ポスターによる研究発表も展示。

講演時の質疑応答も活発に行われた。

講演時の質疑応答も活発に行われた。

プログラムの合間にも参加者同士の交流が盛んに生まれた。

プログラムの合間にも参加者同士の交流が盛んに生まれた。

精神疾患全般に対し、早期発見していく意識を共有

アジア初開催となった本学会に、世界中から多くの方が参加し、盛況のうちに終えることができました。

元々、統合失調症という病気の早期発見、早期治療を目的としていた学会ですが、今回は「To the New Horizon」のテーマを掲げ、統合失調症だけでなく、精神疾患全般についても早期に発見することを訴えかけました。そのため、対象とする疾患の裾野が広がったことは、今回の大きな成果の一つであり、そうした意識をアジアとしても共有することができました。アジア諸国においても、精神疾患に罹患してから専門家の支援を求めるまでに長い時間がかかり、回復を遅らせていることは共通の大きな課題となっています。

精神疾患の発病を遅らせることができれば、患者さんの人生が変わる

統合失調症は、およそ120人に1人がなるとされている精神疾患で、幻覚や妄想が起こったり、会話や行動、感情などを障害されたりするなど、比較的わかりやすい症状が見られます。統合失調症は決して治療が容易な病気ではないため、こうした症状が現れる前に早期発見をし、発病を防いだり、遅らせていく必要があります。

統合失調症に限らず、うつ病や躁うつ病などの精神疾患を発病する徴候として、眠れない、食欲がない、だるい、不安になるといった共通の症状があります。精神疾患を発病していないけれども、そうした症状が見られ、将来的に精神疾患を発病するリスクの高い状態を「ウルトラハイリスク」と呼び、この段階から適切なケアをする必要があるという議論がなされてきました。

今回発表された研究の中に、ウルトラハイリスクの集団に対し、薬物療法以外の治療を継続した結果、発病する人の割合が下がったという報告がありました。この研究は東北大学、富山大学、東邦大学が共同で行ったもので、ウルトラハイリスクとされる309名に対し、物事の受け取り方や考え方に働きかけて、気持ちを楽にする「認知行動療法」や、職場や学校、家庭などで受けるストレスをなるべく軽減する「環境調整」といった治療を1年間行いました。そうした治療を行わなかった場合、1年後に精神疾患を発病する人の割合はおよそ20~25%なのですが、本研究では12%程度にとどまりました。つまり、精神疾患に対して早期に治療を行うことで、発病を防いだり、先延ばしにすることが可能だとわかったのです。

発病を先延ばしにすることは患者さんのその後の人生にとって非常に大きな意味をもちます。例えば、高校生で統合失調症を発病し、30歳でようやく病気がよくなっても、それから就職先を見つけるのは容易ではありません。一度でも社会で働いたことのある人とそうでない人では、社会に復帰する難しさが異なります。できるだけ発病を遅らせることは極めて重要なことなのです。

地域や社会全体が連携した取り組みが必要

長期の予後を見据えて早期介入をする。そのために、学校の養護教諭の先生や、地域の保健師さんに精神疾患の治療や予防に対する正しい知識をもってもらったり、あるいは行政とも方向性を共有し、早期発見に向けた取り組みを地域や社会の中に根付かせていくことが欠かせません。厚生労働省などの調査では、精神疾患を発病してから医療機関を受診するまでに、おおむね1~2年かかるとされています。その間に病状が進行し、脳の組織や機能が悪化することで、治療を行っても十分な効果を得られないケースもあります。社会全体で、精神疾患を早期に発見する意識を共有することができれば、より効果的に早期介入ができると思います。

とりわけ、養護教諭の先生との連携は重要だと考えています。保健室は様々な子どもたちの様子を把握しているので、例えば、精神科医が定期的に学校の保健室を訪れ、気になる子どもがいれば、養護教諭の先生と一緒に話を聞いてみるのもいいかもしれません。そうした体制が整っていけば、精神疾患の早期発見は進んでいくのではないでしょうか。

精神疾患に対する情報は、書籍やインターネットなどを通して得ることができます。気になることや不安があれば、そうした知識を積極的に吸収したり、早目に医療機関を訪ねるのがいいでしょう。どの医療機関を受診するか迷う場合は、日本精神神経学会のホームページから、精神科の専門医として認定されている医師を地域ごとに調べることもできるので、参考にしてみてください。

今回併催した日本精神保健・予防学会と公益財団法人日本精神衛生会の市民公開講座では尾木直樹先生が講演をされました。精神疾患においては、普段から心の健康について積極的に取り組んだり、ストレスの少ない環境づくりを行ったり、予防的観点も欠かすことはできません。医療と精神保健の双方が連携した取り組みを、今後も進めていく必要があると考えています。