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07月23日朝日新聞デジタル朝刊記事一覧へ(朝5時更新)

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学びの選択

中・高それぞれのカラーを生かした教育

中村 甲陽学院は歴史が古く、卒業生もサントリー社長の佐治信忠さん、アスキー設立者の西和彦さん、思想家・評論家の柄谷行人さんなどそうそうたる顔ぶれですね。
山下 歴史ある学校ですので、個性豊かな卒業生が多く巣立っています。2017年に創立100周年を迎えることをOBのみなさんは今から楽しみにしておられるようです。
中村 開校は大正6年ですか。
山下 その時点ではまだ学校組織と呼べるものではなかったようですが、3年後には財団法人となり、大正11年には第1期の卒業生を送り出しています。
中村 中学校と高校の所在地が離れているのは、中高一貫校としては珍しいですね。
山下 現在中学校がある場所には、もともと同じ法人の経営する高商・工専がありました。旧制中学校は戦前からありましたが、校舎を一時進駐軍に接収され、学校として使用できる状態ではなくなってしまった。そうした経緯があり新制中学は香櫨園に、甲子園は新制高校として再スタートを切ったのです。その後、環境の悪化から現在の場所に移転しました。
中村 別々の場所にあることのメリットとデメリットは何ですか。
山下 本学院は、中学生にはある程度「型にはめる」教育をする、高校生に対しては全面的に自主性に任せるというのが基本方針です。ふたつが同じ場所にあると、高校生には認めるものを中学生にはダメだといった指導がしにくくなりますが、位置的に離れていることで双方のカラーが出しやすくなります。デメリットは、何かにつけコストがかかることですね。プールも中学と高校でそれぞれ持っていますし、これを言い出すときりがありません(笑)。

「自ら学び、考え、楽しむ」力を育てる

中村 校風も中学校と高校ではかなり違いますか。
山下 以前はそうでした。中学生は全員強制的に丸刈りでしたし。ただ、今は中学もずいぶん自由になってきたと思います。
中村 中学生を「型にはめる」とは具体的にどんなことですか。
山下 服装や持ち物などの規定が厳格なだけでなく、学習面では多めの課題を与え、それをこなせない生徒には補習授業を行うなど、かなりしっかり指導しています。しかし個人的には、あまりに面倒見が良すぎるのもどうかと思っています。最近は生徒がノートをとる必要もないほど詳細な教材プリントを用意する先生もいますが、本当にそこまでしなければいけないのか。保護者からの評判は良いようですが、なかなか難しいところです。
中村 そうした面倒見のいい教育が好まれるというのは最近の風潮ですね。
山下 しかし高校生になっても自分で考えて学習を進めることができないようでは困るので、高校ではそうした指導は徐々に減らしていきます。
中村 先生たちは、生徒と一緒に中1から高3まで持ち上がっていくのですか。
山下 英数国の3教科については基本的にそうです。クラス替えは毎年あるのでクラス担任は変わりますが。
中村 学校のホームページに校長先生が寄せたメッセージを拝見しました。生徒たちに「いい大学生になってほしい」と呼びかけ、いい大学生になるには、自分で問題を見つけ自分で考えること、そして疑うことが大切だと書かれています。非常によいメッセージだと思いましたが、これが昔からの教育理念ですか。
山下 そうですね。私は甲陽学院の10代目校長になりますが、第7代の小河清麿校長が残した「自ら学び、考え、楽しむ」という言葉があります。折にふれて生徒たちにもこの言葉を紹介していますが、基本的に私が書いたメッセージと同じことを述べていると思っています。

山下正昭 校長
やました・まさあき/1947年生まれ。70年から県立高校教員として勤務。73年4月、甲陽学院中学校・高等学校入職。99年4月から2009年3月まで甲陽学院高等学校教頭を務めた後、09年4月から現職。

「特色のない」カリキュラムで促す自主的な学習

中村 授業カリキュラムに特色はありますか。
山下 これといってありません。ごく普通だと思います。
中村 そう言いきれるのもすごいですね(笑)。目立った特色はなくとも内容は充実しているということでしょうか。
山下 特定の教科だけ授業時間を増やすといったことをしないのは、自分に足りないものは家庭学習で補うなど、生徒一人ひとりが自由に学習を工夫できる余地を残しておきたいからです。ただし自由を与えることは、決して「楽をさせる」ことではありません。リポートを書く場合でも、「○○について書け」というより「何でも自由に書け」と言われるほうが生徒にとっては難しいはずです。
中村 その難しさは、先生にとっても同様ですよね。
山下 その通りです。生徒が間違ったやり方で時間を無駄にしていても、口を出さずじっと見ているのは大人にとってはかえって苦しいものです。しかし本人が間違いに気づいて修正していくほうが、後々プラスになると思います。
中村 学内で、そうした「特色のない」カリキュラムを変えようといった議論はありませんか。
山下 今のところありません。大切なことは学校の授業だけで学習を終わるのでなく、家庭学習も含めてバランスよく学ぶことだというのが教職員の共通した考えです。
中村 先ほどふれた先生のメッセージのなかに、「将来大学で学ぶために重要な学力と体力を錬磨する」ことが学院の教育方針と紹介されています。こういう場で学力と並んで体力を挙げるのは珍しいと思いますが、具体的にどんな指導をしていますか。
山下 クラブ活動には全員参加を推奨しています。大半の生徒が体育系の部に所属し、バレーボールなど全国レベルで活躍している部もあります。体育祭もずいぶん盛り上がりますし、修学旅行ではラフティング体験の時間を設けるなど、体を動かすことについては生徒も教職員もずいぶん熱心だと思います。


6年一貫教育で一人ひとりをきめ細かく指導

中村 その他に特色ある学校行事はありますか。
山下 他校の文化祭にあたる「音楽と展覧の会」という発表会があり、これには個人・クラス・部活動などいろいろなかたちで中高の全生徒が参加します。特に、高校の3学年・全12クラスの対抗で行う合唱コンクールは見応えがあり、来場者からも毎年好評を得ています。上位は3年生が独占するのがほぼ毎年の恒例となっているので、下級生は何とかそこに割って入ろうとする、3年生はプライドにかけて上位を守ろうとする。この勝負は迫力がありますよ。
中村 体育だけでなく芸術分野にもかなり力を入れているんですね。
山下 本学院では、芸術の授業時間数が文科省カリキュラムの規定よりも多くなっています。昔の生徒たちと学校との取り決めでそうなったようです。私が校長に就任する際も、その点は変えないようにという申し渡しがありました。
中村 中高が合同で行う行事はありますか。
山下 それはありません。合同だとどうしても高校生が主導権を持つことになりますから、中学生の活躍の場を増やすためには別々がいいと思っています。
中村 中学は1学年5クラスで高校は4クラスです。5クラスのまま持ち上がるわけではないのですね。
山下 高校では選択授業が多くなるので、クラス全員でそろって受ける授業というのはそれほど多くありません。なので、特に中学と高校をそろえる必要もないと思っています。
中村 甲陽学院では数年前に高校募集を廃止し、中高一貫の6年教育に絞りました。そのことについて学院内で議論はありましたか。
山下 かなりいろいろな意見が出ました。高校からの入学組が内部進学者に刺激を与えてくれるなど、高校募集にももちろんメリットはあります。しかし現場の教職員にとっては、6年教育の生徒と3年間のみの生徒が混在すると、指導が難しくなる側面があることは否めません。高校募集を復活してほしいという声は今もなくはないですが、本学院では今のところこのやり方で非常にうまくいっていると思っています。

  山下正昭 校長

8割が理系進学、医学部志望は50〜60人

中村 ほとんどの生徒が卒業後は難関大学に進むと思いますが、1学年約200人の文系・理系の比率はどのようになっていますか。また、進学先について近年の傾向はありますか。
山下 ここ数年は、200人のうち約160人が理系進学者です。もともと比率でいえば理系が多い学校ですが、なぜここまで文理に差がついたのかはわかりません。医学部志望は以前から多く、学年あたり50人から60人ほどでしょうか。
中村 進学指導はどのように行っていますか。学校として特に理系や医学部をすすめることはありますか。
山下 本学院には「進路指導室」のようなものがありません。「進学資料室」なら高校にあり、生徒が自由に資料を閲覧しながら進路を考えることができます。常駐の先生もいるので、生徒から「自分に合う大学はないか」といった相談があれば一緒に考えますが、具体的に成績を見ながら「ここは難しいからこっちにしなさい」といった指導はしません。
中村 三者面談はありますか。
山下 保護者を交えて話す機会は日常的にはありますが、志望大学を決めるためだけにわざわざお会いすることはないですね。特に要望があれば個別に行うことはあります。
中村 生徒の希望は、日ごろの会話のなかで担任の先生が把握しているということでしょうか。
山下 それもありますが、どこを受験するかということは完全に生徒の自主性に任せています。ちょっと厳しそうだと思いつつも、「そうか頑張りなさい」と応援するだけです(笑)。
中村 定期試験や模試の結果を見れば、自分の合格可能性がどのぐらいかは生徒にも大体わかるでしょうね。
山下 ただ、学年で何番かといった情報は、私たちは把握していますが本人には知らせません。成績分布表は渡すのでおおよその位置はわかりますが、あくまで目安です。

保護者からの信頼も厚い独自の教育方針

中村 例年、東大や京大をはじめ難関大学に多くの現役合格者を送り込んでいますが、今年にかぎっていえば少し数字が下がりましたね。
山下 絶対その話が出ると思いました(笑)。非常に団結力のあるいい学年でしたが、残念ながらその点だけはもうひとつでした。「君たちの団結力はすばらしいけど、受験は個人戦だよ」と常々言っていたのですが(笑)。ただ、保護者のみなさんは本学院がこれまでどんな教育をしてきたかよく理解してくださっているので、入試の結果だけを取り上げて問題視するような声は、これまでのところありません。
中村 一浪にはなりますが、もともと力のある生徒たちですから来年は良い結果を出せるでしょう。
山下 そう願っています。もちろん受験は大切ですが、今年1回の結果だけで慌ててこれまでやってきたことを変えるべきだとは思いません。
中村 兵庫県には甲陽学院のほかにも全国に名高い私立進学校、中高一貫校がいくつかあります。そうした学校同士でライバル意識はありますか。
山下 特にはありません。近隣の学校さんとは長年情報交換会を続けていますし、教職員も教科研究などを通して他校の先生方と交流があります。もちろん生徒も学校外にも大勢友達がいるようです。
中村 そうした周辺校との併願は可能ですか。
山下 兵庫県内は試験が同日なのでできません。本学院を受験する生徒はみんな第一志望でうちを選んでくれたということですから、それはありがたいと思っています。

  中村正史さん

本当の学力をはかる独創的な入試問題

中村 甲陽学院の入試は2日にわたって行われますが、兵庫県ではそれが普通ですか。
山下 今でもこのやり方を続けているのはうちと灘ぐらいではないでしょうか。以前はもっと多かったはずですが。
中村 今後も続けますか。
山下 合格者の成績を調べてみると、緊張しすぎたのか初日はふるわなかったものの、2日目に挽回(ばんかい)して見事に合格している生徒が少なくありません。その日1日だけの調子ではなく、学力全般を公平に見るという点では意味のあるやり方ではないかと思います。
中村 たしかに中学受験生といえばまだ幼いといえるぐらいの年齢ですから、一発勝負で決まるのは酷な面もあります。
山下 そうですね。受験生にとっては負担もあるでしょうが、メリットも大きいので当面は続けたいと思います。
中村 ホームページで合格者の平均点や最低・最高点などを公表していますが、これを見ると算数がよくできる生徒でないと甲陽学院に入るのは難しいようです。
山下 たしかに他の教科ではなかなか点差がつきにくいので、結果的に算数のできる生徒が多いかもしれません。本校入試の算数は、類似の問題がないか既存の問題集や他校の入試を徹底的に調べたうえで作問しているので、毎年独自性の高い良問がそろっていると思います。
中村 それは担当の先生も大変ですが、対策しなければいけない塾にとってもつらいでしょう(笑)。しかしそれだからこそ、単なる受験テクニックではない本当の学力をはかれるのだと思います。


実習授業を多く取り入れ多様な経験を

中村 こんな生徒に甲陽学院で学んでほしいといった希望はありますか。また、保護者に望むことは何ですか。
山下 子どもは非常に柔軟性があるので、入学した後は先輩や級友からの刺激を受けて自然に「甲陽人」になっていきます。なので、ことさらこんな生徒に来てほしいといったことは思いませんし、家庭でこんな教育をしてほしいという希望もありません。ただひとつ、甲陽学院に行きたいという強い気持ちを持っていてくれたら、それが一番うれしいですね。
中村 入学してくる生徒の像というのは昔からあまり変わりませんか。
山下 基本的な部分は変わりませんが、家庭科の授業などを見ていると、縫い物や調理の基礎を何ひとつ知らない、常識で考えてそんなやり方は絶対しないだろうと思うおかしなことをする生徒がいます(笑)。勉強以外の経験をする機会が減っているのかもしれないので、授業ではなるべくさまざまな実習の機会を設けるようにしています。
中村 わかりました。甲陽学院に対しては、生徒も保護者も学習面だけでなく、6年間をのびのび過ごせる校風に期待する気持ちが強いようです。そんな個性の一端を垣間見ることができました。どうもありがとうございます。

  神戸女学院中学部・高等学部