ネクストリボン がんとの共生社会を目指して

2019年2月4日 開催

シンポジウム 「がんとの共生社会を目指して
~企業の対策最前線とこれからの働き方~

「すみません」より「ありがとう」 

パネリスト

櫻井 公恵 氏(株式会社櫻井謙二商店 代表取締役社長)/ 高橋 都 氏(国立研究開発法人 国立がん研究センターがん対策情報センター がんサバイバーシップ支援部長)/ 竹田 敬治 氏(テルモ株式会社 人事部長)/ 藤田 直志 氏(日本航空株式会社 代表取締役副社長執行役員 健康経営責任者)/ 御園生 泰明 氏(株式会社電通 第21ビジネスプロデュース局 ビジネスプロデュース部 部長/LAVENDER RING 発起人)

コーディネーター

上野 創 (朝日新聞社 東京本社社会部教育チーム記者)

――がんでも働きやすい会社になるために、まず何をすればいいのか。

藤田 健康経営の大事さを発信したくて「ウェルネスリーダー」を募った。ヨガ教室やハイキングなどの健康増進活動を志を同じくして各地で行う仲間で、今、280人ぐらいいる。「トップダウン」と「ボトムアップ」の双方から健康に対する意識を変えたい。

竹田 がんと闘う社員への支援を、運用ではなく、制度として導入した。職場で支える人へのメッセージにもなる。人事部長が健保の理事長を兼任する体制も利点が大きい。

藤田 経営者に求められるのは、障害者やLGBTの人たちも含めて多様性を受け入れ、イノベーションを起こすこと。社員をしっかり守り、パフォーマンスを上げて利益を出す。このような経営の思いを発信し続ければ、社内に理解者は増えていく。

櫻井 中小企業としては、誰かが非常事態の時に「どこに相談すべきか」がわかるようにしたい。長く経験を積んだ社員が辞めるのは困る。「一緒に考えようよ」とお願いしている。

御園生 患者の立場からは「自分はこの会社にいてもいいんだ」と安心できる。でも、がんだけに手厚いと、同僚は「割を食っている」と感じないか。

竹田 難しい問題だが、採用活動をしていると、最近の学生はダイバーシティーや健康経営に関心が高い。応援団が増えてきていると実感している。

藤田 治療のために「すみません、お先に」と帰る仲間に対し、「『すみません』じゃなくて『ありがとう』にして」と言えるようになる。みんなも「ありがとう、頑張ってね」と返す。お互いの心が豊かになり、お客様への良いサービスにつながる。

高橋 私が出会った複数の産業医が「人の体は完全には予測不可能。育児や介護も含めて100%の力で動けない時が必ずある」と話していた。組織はそういう生身の人間で成り立っている、という前提を共有するべきだ。

――とはいえ、がんを周りに伝えることは難しい。

御園生 自分の状況を正しく知ってもらうのが大事だ。少ない情報をもとに話をされると誤解やうわさが広がりやすい。それを食い止めるため、正しい情報をインプットする「コア人材」を決めている。僕の場合は上司で、「仕事をしたい」という意思と治療の段階を伝えている。

高橋 本人から言ってもらえると周りは助かる。なぜなら、聞きにくいからだ。私の夫が胆管がんになった時も、普段のようにざっくばらんに話せずと悶々(もんもん)とした。家族でさえ、特に初めは聞きにくい。

家族の存在大切、必要なケアを

――家族という視点も重要だ。

藤田 十数年前に部下を大腸がんで亡くした。葬儀後、彼のご家族にお会いした際、「どうサポートできるか」と悩み、仲間を3人ほど集めて年1回会い、彼の話をすることにした。ご家族は本人が会社でどんな仕事をしていたのかをほとんど知らない。話してあげることが心の支えになる場合があると気づいた。

櫻井 「家族ががんになったので介護に専念したい」というニーズもあり、勤務時間の短縮や週休3日制など、いろいろな形で対応している。私の夫も「GIST」という希少がんになってから約7年生きた。旅立つ2週間前まで普通に働き、一人で通院していた。本人が思ったようにやれる配慮が大事だ。

高橋 小児がんで治療する子どもの親、特に母の退職率が高いというデータがある。夫を2年前に見送ったが、自宅で過ごした最期の2カ月半、「自分も仕事を辞めてそばにいるべきでは」と本気で思った。「早まって仕事を辞めるな」と連呼している私でさえ、そうなった。看病する家族も退職に傾きがちだが、時間はあるから慌てないでと本人にも家族にも言いたい。

御園生 僕は好きな仕事をして、私生活を充実させ、ボランティアもしている。でも、妻は2人の子育てを含めて家のことは全部任され、思い通りでないかも。がんと共に生きる生活は患者だけじゃなく、家族にも影響が及ぶ。家族のケアまで踏み込んでほしい。

――家族と会社の上司などをつなぐラインはあった方がいいか。

竹田 本人から家族に情報がほぼ伝わっておらず、家族が事実を受け止められていない。本人は心配をかけたくないし、会社のことには触れないでほしいとの気持ちも仕方がない。でも、病状が深刻になってきた時に産業カウンセラーに間に入ってもらうなど、家族と意思疎通するルートは必要だ。

――非正規や派遣で働く人への対応は遅れている。

高橋 正規になりたいのに非正規にとどまらざるを得ない人への対応は、一企業だけで解決できず、国としての施策が必要だ。がんと就労を考える際にとても重要で、自営も含めて広げる必要がある。

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